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第10話 その想いをアリスは理解しない

水面を抜ける。


光。


空気。


重さが戻る。


アリスは浜に上がる。


服が変わる。


青のワンピース。


裾が風に揺れる。


「……人間界」


周りを見る。


静か。


波の音。


その中に、


一人。


よろよろと歩く影。


人魚姫だった。


足が覚束ない。


一歩。


崩れる。


また立つ。


一歩。


また倒れる。


それでも、進む。


アリスは近づく。


「いたいた、大丈夫?」


手を差し出す。


少し迷ってから、


人魚姫はその手を取る。


立ち上がる。


「……」


何かを伝えようとして、


喉に手を当てる。


「ほんとに喋れないんだ」


人魚姫は、


少しだけ申し訳なさそうに笑う。


「ほら、行こう?」


アリスは歩く。


ゆっくり。


人魚姫の歩幅に合わせて。


沈黙。


返事がない。


それだけで、


何を話せばいいのか、


分からなくなる。


「……」


その時。


ぐい、と腕を引かれる。


茂みの中へ。


「どうしたの?」


人魚姫は口元に指を当てる。


静かに、という仕草。


アリスは視線を向ける。


男。


王子。


どこか、


焦っている。


探しているような顔。


人魚姫の視線が揺れる。


見惚れている。


そして、


一歩。


茂みから出る。


足が震える。


それでも、進む。


「キミは」


声をかけられる。


その瞬間。


転ぶ。


「大丈夫かい!?」


王子が駆け寄る。


人魚姫は、


少し恥ずかしそうに笑う。


声は出ない。


「足を怪我しているじゃないか」


「すみません」


アリスが割って入る。


「その子、足が悪くて」


「それに、喉も……」


王子がアリスを見る。


「えっと、キミは……?」


「あー、その子の友人です」


少しだけ、間。


「どこか治療できるところ、ありませんか?」


王子はすぐに頷く。


「それなら、僕の屋敷に」


屋敷。


広い。


静か。


整っている。


人魚姫は運ばれていく。


アリスは一人、


部屋に残る。


紅茶。


湯気。


カップを持つ。


「……」


視線が動く。


王子。


落ち着かない。


そわそわしている。


誰かを、


待っている。


自分たちのことじゃない。


最初から。


その時。


扉が開く。


一人の女性。


綺麗。


整っている。


王子の表情が変わる。


明るくなる。


距離が近い。


声のトーンも違う。


笑っている。


空気が、


変わる。


「……残酷」


小さく。


アリスは視線を外す。


医務室の方を見る。


扉の隙間。


人魚姫が、


見ていた。


全部。


何も言えないまま。


そのまま。


走る。


「……!」


足が崩れる。


それでも、


止まらない。


外へ。


屋敷を出る。


「キミ!」


王子の声。


「足は──」


「大丈夫みたいです」


アリスが言う。


「私もこれで」


王子は止まる。


追わない。


外。


風。


静けさ。


アリスは歩き出す。


ため息。


「……」


少しだけ、


顔をしかめる。


「声がないって」


立ち止まる。


「ここまで、何も出来ないんだ」


遠くで、


人魚姫が走っている。


転びながら。


それでも。


追いつこうともせず、


ただ、


遠ざかっていく。


アリスはそれを見て、


小さく呟く。


「……それでも、好きなんだ」


少しだけ、間。


「わかんないな」


風が吹く。


返事はない。


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