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メガネの向こう<10>完

「う…ん?」

寮住まいになって、数ヶ月。眠り慣れた筈のベッドがやけに狭苦しい。

大多数が男の仮住まいの部屋には、カーテンすら付いていない。その窓から、朝の光がさんさんと差し込んでいた。

時計を確認するために、まず、メガネを探す。手探りで枕元のメガネケースを探るが、むき出しのままの、フレームに手が触れて、康利は首を捻った。

置きっぱなしにした覚えは無い。

疑問に思いながらも、康利はメガネを掛ける。が、度のあまりの強さにくらくらした。

ぼんやりとした焦点でも、手にした感触で形は判る。いつもの細身の縁の付いた自分の物では無い。フレームレスの大き目の丸メガネ。

それが誰のものかを思い出した瞬間に、康利は飛び上がっていた。

ベッドが狭苦しい筈だ。自分の隣には、別の人間の体温が寄り添っている。

康利は軽いパニックに陥り、とにかく自分の目で確認したくて、ベッドレストに置いてある筈のメガネケースを手繰った。

裸の男が手探りで枕もとのメガネを探しているのは、どこから見ても漫才のようだが、本人はいたって大真面目だ。

やっとのことでメガネケースを探り当てて、掛ける。取り出すのももどかしかったくらいだ。

隣に眠っているのは、昨日確かに抱いた筈の杏で、康利はほっと胸を撫で下ろした。

熟睡している杏の口唇に、そっと唇を落とす。

その気配に目を覚ましたらしい杏は、きょとんとしていた。どうやら、どんな状態か寝起きの頭では判別がつかないらしい。

身体を起こすと、ごそごそと枕元を探り始める。どうやら、杏はベッドレストにはメガネを置かないらしい。枕の周辺をひたすら手で探っている。

その仕草は可愛かったが、いつまでも眺めている訳にはいかない。

康利がメガネを手渡すと、ぼーっとしたまま受け取って、掛ける。

やがて、焦点があってきたのだろう。むくりと立ち上がると、すたすたとユニットバスへと向かった。

ユニットバスの扉がばたんと閉まったか思うと、すぐに、もう一度扉が開く。

そこには杏が、真っ赤になって立ち尽くしていた。

「やっちゃん、俺。ホントにやっちゃんと?」

「うん。杏」

素っ裸で立ち尽くす杏の身体には、康利の残した痕がいくつも残っていた。朝から刺激的な眺めだ。杏の躯は、男であるにも係わらず、柔らかだった。思わず、繋がっていた間の杏の可愛い声も同時に思い出して、康利は納まりがつかなくなる。


と、その時呼び出しベルが鳴った。

今日は土日で出勤したために、全員が代休だ。

康利は、改めて時計に目を走らせる。

8時過ぎ。約束なしに尋ねてくるやからの心当たりは無い。

「杏。ベッドの中にいろ。風邪を引く」

いくら夏とは云え、クーラーの入った部屋に、裸のままいさせる訳にはいかない。

杏は走ってベッドにもぐりこんだ。

ジーンズを穿いて、ドアを開ける。

そこには鈴木と、その後ろに立っている大柄な男がいた。昨日、鈴木が部屋へ連れ込んだ相手だ。

「すまん。朝早くに。もしかして、邪魔したか?」

「いえ」

言葉少なにそう云ってはみたものの、康利の態度は明らかに不機嫌だった。

「すまんな。こいつが帰るって云うから、謝らせようと思って」

だが、鈴木は康利の態度から、察しを付けたようで、さっさと用事を済ませようと云う態度がありありと出ている。

「チッ、ちょっと若い子の尻に触っただけだろう」

不満そうに鈴木に文句を云う姿は、無精ひげ姿ではあるが、スーツの似合う大人の男で、かなりハイレベルの男だった。ただし、セクハラ親父でなければ。

「渥美部長?」

康利に呼びかけられて、にやりと笑った男は、まさしく渥美その人だ。

「痛たたた…ッ」

その渥美の耳を鈴木が思いっきり横から引っ張る。

「俺は謝れって云ったよなぁ?」

引っ張った耳元で、鈴木が思いっきり恫喝する。いつも飄々としている鈴木だが、今日の恫喝は結構迫力がある。

「判ったって。悪かった。2度としない」

耳を引かれながら、叫ぶように云った渥美に、ようやく、鈴木が手を放す。

「いいかな?」

「いえ、俺は2度とやらないでくれれば、それでOKです。それより」

顔を伺うように、鈴木が聞いてくるが、気になるのはまったく別のことだ。

「葛西なら、俺は端ッから手を出す気は無いぞ。好みとは違うしな」

「じゃ…」

「小早川なら、勝手に躍らせとけ。定年になるまで何を夢見ようが本人の自由だ」

確かに云われる通りだと、康利は納得した。

「ホテルでもセッティングされない限りは、勝手にさせておくさ。むしろやってくれれば、追い出す理由も出来るんだが。もちろん、そこには葛西じゃなくて、笠置の方がいいけどな」

耳元で囁かれて、鳥肌がたつ。途端に、鈴木の手が横から伸びた。

「いー加減にしろよ」

耳を引いてそう云うと、鈴木はむっとした顔で歩き出す。その後ろを渥美部長が泡を食って追いかけていった。

「何? 誰だった?」

タオルケットを被っていた杏が、そっと顔を出す。

「渥美部長と鈴木さん。昨日の礼だって」

「ふぅん。ね、あの二人さ」

「多分、そうだろうな」

あの様子では大分尻に敷かれていると見た。自分たちもああなるのだろうか。康利はくすくすと笑いがこみ上げてくるのを感じる。

「な、杏」

「うん」

ゆっくりと杏をベッドに押し倒した。

とりあえず、今朝はまだ甘い時間を楽しむときだ。

いつもとは違う、幼い意地の張り合いの恋でした。

少しでも、胸がきゅんとしてくれたら嬉しいです。

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