↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/90

第八十九話 神奈川県が欲するもの


何か疲れた‥

いや、なんかこう、腹の中がムカムカする。


なんだろうこの感じ

覚えがある


俺の血が家系ラーメンを欲している。


俺は平成生まれの神奈川県民だ

家族の外食といえば近くの家系ラーメンだった。


高校も大学も近くに家系ラーメンの店があったから気が付かなかった。


初めて自覚したのは仕事で北海道に配属になったときだ。


北海道は山岡家が強くて家系ラーメンの文化が薄い。


山岡家は家系ラーメンだと思って入った時、めちゃくちゃ美味かったが、家系ラーメンの衝動を静めることは出来なかった。


豚骨、豚、鶏ガラ、鶏油、醤油、ほうれん草、吊るし焼きチャーシュー、のり、そして酒井製麺の短めの中太麺

全てが上手く調和した家系ラーメン


俺の血がこれを欲している。


思えば酒乱のスキルを得てから締めの文化がなくなっていた。


食事も新鮮で満足がいくものだったのですっかり忘れていた。


俺は神奈川県民だ。


家系ラーメンが食いたい。

とはいっても、野営中に何十時間もスープを炊くわけにはいかない。


それに俺は、susuru大先生とリュウジ師範のYouTube動画でしか知らない。


「というわけなんだけど

どうにか家系ラーメンを作れないかな?

チェンマン、マンダリン?」


マンダリンとはここ、居酒屋の店主だ

こっちの世界に来たときから一番迷惑をかけて世話になっていると言っても過言ではない。


「豚骨の髄をスープにするのかい?

臭いし、不味くならないのかい?」


「それが肝なんだ、だから臭みも飛ばす為に何十時間も煮込むのかもしれない」


「俺は博史を信じている

だから、姐御、厨房を貸してくれないか?」


「貸すのは構わないし、うちも味が気になるからねー

でも、不味い物だったら今後貸すわけにはいかないよ」


「ありがとう」




 そう言ったものの。

 厨房に立った瞬間、俺は理解した。

 無理だろ、これ。

 豚骨はある。

 むしろ豚骨は捨てる部位、山ほどある。

 鶏ガラも手に入る。

 問題は。

「これ……割るのか?」

「割らなきゃ髄は出ないだろ」

 チェンマンが斧を持ってくる。

「斧で割る家系ラーメンがあるか

トンカチで砕くんだ」

「細かいことが多いな」

細かい

そう、俺は大学生の時モテたくて料理を勉強した

凝ってしまってカレーをスパイスから作るまでになった

だが、今となっては

モテない3C

カレーをスパイスから作る男らしい

料理上手はどこに行った!!??


 

 ◆

 最初の一時間。

 骨を砕く音だけが響く。

 斧。

 槌。

 時々キリヤが手刀。

「ほら、こうだろ?」

 ミシィッ。

「お前は加減を覚えろ」

 厨房が半壊しかける。

 ◆

 煮込む。

 とにかく煮込む。

 白濁しない。

「濁らないな」

「火が弱いのか?」

「いや、強すぎても駄目なんだ」

 言いながら俺は思う。

 なんで知ってるんだ俺。

 YouTubeだ。

 俺は動画勢だ。

 susuru大先生の湯気越しの表情を思い出せ。

 リュウジ師範の合理化を思い出せ。

「臭い」

 マンダリンが顔をしかめる。

 正直、俺も思っている。

 これ本当に正解か?

 北海道で山岡家に入った時の、あの衝撃。

 違う。これは違う。

 だが、俺の血は言っている。

 まだだ。

 ◆

 三時間経過。

 厨房は戦場。

 床は脂でツルツル。

 壁は湯気。

「博史、これ本当に美味くなるのか?」

「なる。なるはずだ」

「はず?」

 キリヤが笑う。

 血が覚えている。

 俺は神奈川県民だ。

 ◆

 カエシの醤油を合わせる。

 この世界の醤油は少し甘い。

 違う。

 もっと刺さるやつだ。

 マンダリンが奥から出してくる。

「交易商から仕入れた強い醤油があるよ、クセが強くて使えなかったんだがな」

「姐御、愛してる」

「気持ち悪い」

 

 そして鶏油。

 

「鶏の脂をわざわざ取るのかい?」

「透明な油にするんだ」

「意味が分からないね」

 俺も分からない。

 だが動画で見た。

 黄金色だった。

 やるしかない。

 

 日が沈み。

 夜になり。

 ついに。

 白濁したスープが、鍋の中で静かに揺れていた。

 臭いは――

「……悪くない」

 マンダリンが呟く。

 麺はどうする。


 酒井製麺はない。

「短めの中太麺だ」

「条件が多いな」

 この世界の小麦は強い。

 水も違う。

 何度も打ち直す。


 千切れる。

 太すぎる。

 伸びる。

 キリヤが三回失敗作を食った。

「これはこれで好きだぞ」

「それは違う」

 俺は首を振る。

 違うんだ。

 俺が欲しいのはこれじゃない。


 ◆


 そして。

 一杯。

 丼にスープを注ぐ。

 麺を入れる。

 ほうれん草を乗せる。

 吊るし焼きチャーシュー。

 のり。

 静かになる厨房。

 俺は、箸を持つ。

 すすった。


 ――。

 ……。


 違う。


 完全一致じゃない。

 でも。

 似ている。

 かなり、似ている。


 キリヤが食う。

「……濃いな」

 ブラン。

「強い」

 マリー。

「これは……中毒になる味ねぇ」

 マンダリンが腕を組む。

「博史

これは美味いけど、居酒屋のうちじゃ毎日作れないね、これの専門店じゃないと」

 俺は笑った。

「確かにな、ラーメン屋さんは大変なんだな…

ありがとうマンダリン

これ食ったらこの床の脂も掃除するから

また帰ってきたときに厨房使わせてくれるかい」


「いや、ダメだね」


目の前が一気に暗くなる

な…俺はこの味が無いと生きていけないのに

何が悪かった…


「も、もちろん、つ、使った分の燃料と水もちゃんと支払うから…

頼むよマンダリン」


「わざわざ要らんよ

言っただろう?

専門店にすると。

今日残りのスープ使ってラーメンを客に出してウケが良かったら隣にラーメンの専門店を作らせてもらうよ

今度から新作はそっちでやりな」


 その瞬間。

眼の前の視界が開けた


 そして腹の奥のムカムカが、すっと消えた。

 ああ。

 これだ。

 俺は神奈川県民だ。

 家系ラーメンが食いたかっただけだ。


 ◆


 

 そして店の前に列ができた。

「なんだこれ」 「臭いのに美味いぞ」 「また食いたくなる」


 キリヤが笑う。

「お前、世界救うよりラーメン作ってる方が向いてんじゃね?」

 俺は丼を見つめる。

 酒乱のスキルは発動していない。

 だが。

 妙に満たされている。

「……締めがあるって、いいな」

 そう呟いたとき。

 マンダリンが言った。

「博史」

「次は味噌って何だい?」

 俺は天を仰いだ。

 俺の血が。

 今度は札幌を欲し始めている。

純すみ系

あのいつまで経ってもアチアチの濃いラーメン

そして北海道と味噌といえば

アシㇼパさんのオソマ


 やめろ。

脱線が過ぎる


 俺は神奈川県民だ。

 



「良かった」と思ってくださったら

是非ブックマーク、★★★★★をお願いします。

筆者が泣いて喜びます。


その他の作品も読んで頂けると嬉しいです。

【最恐オーガは他種族女子と仲良くなりたい】

【囚われ姫は魔王に恋をする】

https://ncode.syosetu.com/n1925ii/


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。