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第八十七話 帰還

――次に目を開けた時、そこは仲間たちの待つ場所だった。


荒い息をつきながら博史は振り返る。

だが、そこにテッシンの姿はなかった。


「……なんなんだ、あいつは……」

握り締めた拳に、まだ震えが残っていた。


――光が弾け、重力が反転するような感覚の後。


博史とケイティは、石畳の上に転がり落ちていた。

肺に冷たい空気が流れ込み、咳き込む。

「げほっ……はぁ……! ここは……」


見上げると、そこは王都郊外の神殿跡だった。

崩れかけた柱の間に、灯りが揺れている。


「博史!」

駆け寄る声。

マリーが祈りの杖を抱えたまま走り寄り


ブランも飛び出してきて、地面に膝をついた博史を力いっぱい抱きしめる。

「生きて……生きて帰ってきたんだな……!」


博史は苦笑を浮かべながらも、力なく二人を見返した。

「……ああ、なんとか……な」


「……ケイティ?」

マリーが目を見開き、博史の隣に倒れている少女に気づく。

傷だらけの身体で、それでも弱々しく笑っていた。


「ひさしぶり……マリリン…バカヤロー…」

か細い声。

マリーは思わず息を呑み、震える手でケイティの肩を抱いた。

「どうして……あなたまで……」


博史は腕で顔を拭い、険しい声で呟いた。

「……牢に捕まってたんだ。俺を呼んだのは……ケイティだった」


短い説明のあと、沈黙が広がった。

皆が安心しながらも、同時に疑問を抱いていた。


「でも……どうやって戻ってこれたの?」

ブランの問いに、博史は言葉を詰まらせる。

脳裏に焼きついている。黒い空間、そしてそこから現れた男の姿。


「……テッシンだ」

その名を口にした瞬間、空気が重くなった。


「……テッシン……?」



「……そうだ。俺とケイティを……助けた。ガジェットを斬り捨てて……それから、ここへ飛ばしたんだ」


「助けた……? 敵が?」

ブランが眉をひそめる。


「奴は何も言わなかった。ただ一言……“まだ死ぬ時ではない”って……!」


答えは誰にも出なかった。

ただ、再会の喜びと、得体の知れない不安だけが胸に残った。


夜風が神殿を吹き抜け、静かな余韻が場を包む。

だがその静けさの裏に――新たな嵐の気配が潜んでいた。




――焚き火の光が揺れる夜。

皆が疲れを癒していたその中で、ケイティは小さく息を吸い、語り始めた。


「……私ね、世界を歌で変えたかったのです

ば、バカヤロー」


炎の明かりが彼女の横顔を照らす。

その瞳は優しく、それでいて痛みを宿していた。


「戦いが終わるたびに、誰かが泣いていたのです。

憎しみが憎しみを生むなら……せめて、歌で心を繋げられないかって。

だから各地を旅して、詩を紡いでたのです。

人も、魔族も、同じ空の下で生きてるって――そう信じてた

ばかやろーです」


博史は静かに頷く。

その理想の純粋さが、彼女らしいと思えた。


「魔王軍の中にも話せば分かる人たちがいるはずだと思って、

四天王に会いに行った。

……けど、運が悪かったです。

一番、排他的で人間を嫌ってる四天王

――第二位、ドクトルクインの城だったのです

ばかやろーです。」


彼女の手が小刻みに震える。

その腕にはまだ、鉄の鎖の痕が残っていた。


「『人間が平和を語る資格はない』って笑われて、

私の歌は“穢れた言葉”だって……。

それでも私は、諦められなかったです。

魔族にも悲しみがあるなら、

詩で少しでも届くと信じてたのです……」


だが声は、そこで詰まった。

しばらく沈黙の後、彼女はぽつりと続けた。


「……鎖で繋がれて、拷問されかけた時……

もう、ああ、私は届かなかったんだなって思ったです。

でも――胸の奥が熱くなって……光が溢れて……

気づいたら、あの魔方陣が発動してたです

バカヤローです」


博史は息を呑む。

「……あれは……お前の……」


ケイティはうなずいた。

「水の都で、パックズがあなたに触れた時

刻んでおいたのですバカヤローです


「空気が静かだと思ったら、あのうるさい子居ないのね」

マリーがいう

「眠っているのです

転移はかなりの魔力を使うみたいなのです

ばかやろーです」


「………」


「どうでもいいけどさー、博史も帰ってきたんだし

ケイティも合流したんだし、そろそろ酒盛り始めようぜ」

キリヤが暗い空気をぶっ壊すように言う


「キリヤ!

まだクリスが魔王に捕えられて居るんだぞ」

博史が声を荒げる


「なぁ。相棒お前は何で冒険者になったんだ?

誰かを助ける為か?

英雄になる為か?

俺様達らしくねーだろ、こんな雰囲気

なぁもっと楽しくいこうぜ相棒!」


ハッとした…

確かにその通りだ…


いつから俺はそんな責任やら

義務やらを追うようになったのだろうか…

もちろん、ブランや俺が一度死んだことは辛い出来事だし

ケィティがひどい目にあわされたら怒る

友達のクリスが捕えられたら助けに行くのは当然だ


だが、別にそれを気負う必要はなかったんだ

今まで通りにやっていれば良かったんだ。


「そうだな、キリヤ、久々にパァーっと飲もうぜ」


そうしていつも通り宴会が始まった。


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