ロベルダ公爵家のその後 ⑧
「お会いいただき感謝する」
公爵は早速、【ニクスの花】が指定する場所へと赴いた。そこは隣国のとある街だった。【ニクスの花】はユウディス王国から手を引いている。依頼を受けないわけじゃないが、メインの活動場所は他国へと移動していた。
公爵が会うことになったのは、二十代後半ほどの茶髪の男性である。
「あなたがロベルダ公爵ですね。私は【ニクスの花】に勤めているカセルと申します」
そう言ってカセルは、まじまじと公爵のことを見た。
彼は他でもないリーベミオから、事情を聞いている。だからこそ、「これが主様の父親か」と複雑な感情は抱いていた。
公爵はカセルのことは知っていた。
【ニクスの花】の団長とは違い、表舞台に立っている【ニクスの花】の幹部である。
「存じている。突然手紙を出したにも関わらず、こうしてお目に掛かれて嬉しい限りだ」
「手紙にはご息女であるリーベミオ・ロベルダに関することが書かれていましたが……」
そう言ってカセルが公爵のことを見ると、公爵は懺悔するように口を開いた。
「あなたもご存じかと思うが、私にはリーベミオという娘が居た。つい先日、神託の名を挙げられた少女だ」
悔いるように言葉を紡ぎ出す公爵。
「はい。知っております。神と精霊に認められし偉大なる方ですね」
そう言いながらカセルは誇らしい気持ちになった。自分の主が、それだけ世界にとっても特別な存在であることが嬉しかったのである。
「……そうだ。あの子は、神と精霊に認められたのだ。それこそ世界中が彼女の名を知っているだろう。それだけのことを成せる存在であったのに……私は、いや、私達は娘のことを信じられなかった。おかしくなってしまったとそう思い込んで、彼女を辺境の地へと追いやり、娘のことを考えないようにしてしまった。乱心してしまった彼女のことを思い出さないようにしようとさえしていた。逃げていたのだ」
公爵がこうやってカセルに向かって懺悔を口にするのは、許されたいからなのかもしれない。誰かから仕方がなかったんだよと慰めて欲しいと、そう願ってしまっているのだろう。
ただしリーベミオの事情を知っているカセルは、公爵に対して良い感情を抱いているわけがない。
だから、慰めの言葉など口にするはずもなかった。
黙って、公爵の言葉を聞いていた。公爵もそのまま続けている。
「本当に情けない話だと思っている。私はもっと親として娘のことを信じてやるべきだったのだ。それなのに、そんなことは出来なかった。神託が下ってからも、後手に回ってばかりだ。リーベミオを追いやった辺境の地について調べても、分からないことだらけで……。こんな私に会うことをリーベミオ自身は拒否しているかもしれない」
そう言った公爵の言葉を聞いて、カセルは内心で「そりゃそうでしょう」としか思えなかった。
リーベミオもレリオネルもそれだけの力を持つ存在で、会おうと思えば血の繋がった家族と会うことはできる。それでも彼らは会おうとしないのだ。それこそ拒絶の証であろう。
(主様もレリオネル様も……私が公爵と会うこと自体は拒絶なさらなかった。手紙が来たことを告げても淡々とした返事しか来なかった。会うにしても、会わなくてもどちらでもいいのだろう)
カセルは目を細めて、公爵を見る。
公爵への対応は、カセルへと任されている。リーベミオとレリオネルは意気揚々と二人で旅をしている。【ニクスの花】と【オランジュスカ商会】の支部などには顔を出しているが、基本的に二人でぶらついている。
折角レリオネルの身体を取り戻すことが出来たので、二人っきりの時間を大事にしたいということなのだろう。
カセルとしてもようやく悲願の叶った主の邪魔はしたくなかった。リーベミオは公爵家に関わるよりもずっとレリオネルと過ごすことの方が大事なのだろう。
(……ただ、主様は公爵家のことを嫌っているわけでもない。なので、少しぐらい希望を持たせることは問題はないだろう。団長が主様だと伝えることはしないにしても)
カセルはそんなことを考えている。
「カンバラの地が発祥の傭兵団と商会はリーベミオがその地に向かってから出来たものだ。だからもしかしたら関わりがあるのではないかと思って、こうしてやってきた次第なのだ。娘について……何か知っていることはないだろうか?」
公爵は真剣な表情である。悲痛そうでもある。
――カセルは一瞬黙り込む。
どうしようかと悩んだ末に、口を開いた。
「――確かにリーベミオ・ロベルダはこの傭兵団に関わりがあります」
カセルがそう言うと、公爵は目を輝かせた。
娘に会えるかと期待していることは分かる。
公爵の脳内には、大人になったリーベミオがどれだけ素敵に成長しているかというその姿がよぎる。
「ただし会うかどうかは本人が決めることなので、あまり期待なさらないでください。公爵がこちらを訪れたことだけは伝えられますが」
カセルは淡々とした様子で言った。公爵の表情が、青ざめる。
それを見ても特にカセルは気にしない。彼にとって重要なのはリーベミオの気持ちだけである。




