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乱心令嬢リーベミオのたった一つの望み  作者: 池中織奈
番外編

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ロベルダ公爵家のその後 ⑦

 少しずつ日常へと戻りつつあるものの、相変わらず公爵夫人はなかなか社交の場に出なかった。とはいえ、他の者達は少しずつパーティーやお茶会などにも顔を出している。



 当然のことながら、厳しい目を向けられている。




 神や精霊に認められし存在を乱心したと言い放って疎んだ事実は変わらない。もしロベルタ公爵家がリーベミオ・ロベルダのことを信じていたのならばきっと評価は全く違っただろう。

 しかし彼らは信じなかったのだ。他でもない血の繋がった家族を――。



 他人のことは好き勝手、皆語る者。彼等だってもし突然家族が王太子の中身が違うなどと言い放ったら娘が狂ってしまったと言い放つだろう。そう、自分達だって家族を無条件に信じられるかと言えば違う。

 だけれども、他人事だからこそ「娘を信じないなんて最低だ」なんてことを簡単に告げてくる。



 特にロベルダ公爵家はこれまでそういった悪評は一切なかったのだ。娘の一人が乱心令嬢と呼ばれ出したものの、彼女は表舞台に出てはおらず忘れ去られた存在だった。

 ――今は、その乱心令嬢のことであれこれ口出しすることが出来るので周りの貴族たちは様々囁いている。嫌味のようなことを口にされることも多かった。



 また、ロベルダ公爵家が【ニクスの花】と接触しようとしていることも様々勘繰られているようである。



 【ニクスの花】と【オランジュスカ商会】にもしかしたらリーベミオが関わっているかもしれない……などというのは公爵が思っているだけのことだ。他の者達はまずそんなことを考えない。

 【ニクスの花】に接触をして、ロベルダ公爵家が何をしようとしているのかと面白がって見られているのだ。

 ロベルダ公爵としても良い気はしない。

 しかしそんな視線も仕方がないものだと思っている。





(リーベミオ……私の娘はこんな視線をずっと受け続けていたのだ。辺境に行った後も乱心してしまった令嬢だと囁かれ、王国で話し種にされつづけていた。あの子はあんなにも幼かったのに……)



 嘲笑われる視線や言葉を掛けられる度に、公爵は長らくあっていない娘のことをただ考えてしまっていた。



 たった七歳。

 十歳にも満たない幼い年齢で、リーベミオは周りの者達からおかしくなったなどと言われたとしても自分の意見を曲げなかった。



(私たちが幾らそのようなことは口にしないように。元のように戻って欲しいなどと口にしても一切引かなかった。その精神の強さが神や精霊たちに直訴出来た要因なのだろうか。私は同じような状況になったら……幾らおかしいと思っても貫きとおすことは出来なかっただろう)


 ロベルダ公爵は改めて娘の凄さを実感していた。

 だからこそ余計にこの状況で自分が折れるわけにはいかないと感じていた。苦境ではある。そして周りからの冷笑がいつまで続くのかさっぱり分からない。公爵位を息子に継がせて隠居したとしても、リーベミオ・ロベルダが神と精霊に認められた少女として知られている今、一生それは続くだろう。




 ――それはリーベミオの親であるロベルダ公爵夫妻の罪である部分が大きい。それなのに、他の子供達にもリーベミオのことはまとわりつくだろう。あのリーベミオ・ロベルダを乱心令嬢と言い放って放置していた家だと。




 リーベミオの兄妹たちはその当時まだ子供だった。そもそも彼らは周りの大人達――両親であるロベルダ公爵夫妻に倣った結果なのだ。



 だからリーベミオのことを信じられなかったのは自分達大人の罪の方が大きいと、公爵は思っていた。

(リーベミオに会いたいと衝動的に思っているが、娘はきっと許してはくれないだろう。それは仕方がないことだ。以前のように家族として過ごすことなど出来ない。ただ……完全に縁を切らない方向に持っていければ良いが。なんて……自分勝手すぎるか。私たちがリーベミオを見ないようにして、関わらないようにしていたのだから……)




 諦めたように公爵は息を吐く。これは選択を間違え続けてしまった結果なのだ。



 ――娘が訴えた言葉をもう少し聞いていれば。

 ――娘があれほどまでに王太子の中身が違うと言い続ける意味を考えていれば。

 ――娘のことを頭ごなしに否定し続けなければ。



 それは考えても仕方のない話であるが、公爵はずっと考えてしまっていた。



 社交の場でもリーベミオのことは常に囁かれている。神と精霊に認められた少女が、乱心令嬢などと言われた悲劇。それは面白おかしく噂されているのだ。

 だからこそ公爵は常に、リーベミオのことを考えていた。



 悶々とし過ごす中で、ようやく望んでいた報せが届いた。【ニクスの花】からの便りである。

 公爵は返事が届いてきたことにほっとしていた。もしかしたら連絡が来ないまま終わるのではないかと危惧していたのである。



 ただしそれは団長本人からの手紙ではない。【ニクスの花】という組織から送られてきたものだ。



 【ニクスの花】の団長は、傭兵団の本部には現在居ないこと。そして【ニクスの花】の一員となら会うことは叶うこと。

 それらが書かれていた。団長と会う許可は書かれていない。

 しかし公爵は、それでもよかった。娘の手がかりになるのならと、すぐに返事をした。


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