ロベルダ公爵家のその後 ⑨
「もちろんだ。リーベミオが少しでも私に会ってくれる可能性があるのならばそれで構わない!!」
公爵がそう言い切れば、カセルはそれならばいいとでもいう風に頷いた。
「君は娘ともあったことがあるのか? 娘は……娘は元気にしているのか?」
「もちろん、ご面識はありますよ。元気にはしていますので安心してください」
カセルがそう言うと公爵はほっとした様子を見せた。
「公爵は娘様のことをご心配なさっているのですか?」
「ああ」
「乱心令嬢などと呼んでいたのに?」
「……それは心から申し訳なかったと思っている」
カセルは悔いを見せる公爵をどこか冷めた瞳で見つめている。
「ただ彼らが神や精霊に認められることがなかったら会いに来ようとは思わなかったのでしょう?」
「それも……その通りだ。私は……私たちはリーベミオのことを見捨てようとしてしまっていた。その事実は変わらない……。申し開きのない事実だ」
そう、公爵がリーベミオを気にするようになったのは神や精霊に認められたからでしかない。そうでなければこのまま捨て置いたことは間違いない。
そのことは本人も十分に理解している。
「それを知っているからこそ会うことが出来たとしても家族に戻ることはまず無理かと。そのことはきちんと理解しておりますか?」
「それは……っ、も、もちろんだ。ただきちんと謝罪を――」
「謝罪をしたところでこれまであなた達がしてきたことは変わりませんよね? 会いたくないと拒絶されてもおかしくないことですよ?」
つい攻撃的なことを言ってしまったと、カセルは反省する。しかしリーベミオ・ロベルダは、カセルにとっては大事な主である。
その主がこのような男に蔑ろにされていることも我慢が出来なかった。目の前の男性が主を蔑ろにしなければ自分たちがリーベミオと出会わなかったであろうことは分かっている。だからこれはあくまで個人的に気に食わないから八つ当たりをしてしまっているだけである。
「……君は、娘のことを大切にしてくれているのだな」
「そうですね。だからこそ、私も含めてこの傭兵団の者達は、あなたを快くは思わないでしょう。リーベミオ・ロベルダにはあなたが会いに来たことはお伝えしますが……」
「それだけでも有難い。……娘の傍に君達のような者達が居てくれたことは良かった」
リーベミオが孤独であったら、どうしようかと思っても居た。
公爵にとってリーベミオは、心優しく真っすぐで明るい娘だった頃と乱心令嬢と呼ばれていた頃の二面だけである。それ以外のリーベミオの姿は知らない。
辺境の地へ追いやられてから、娘がどのように生きているのか公爵には想像もつかなかった。
(主様がレリオネル様を取り戻すために行動を起こしていなかったら、私は主様と出会うことはなかっただろうな。主様が……レリオネル様のことを諦めてしまっていたらこうはならなかったはずだ。……公爵は私達が主様のことを助けたとでも思っているのかもしれない。子供の主様が生きていけたのはそれだけ主様が強かったからなだけだしな。私たちが傍に居なかったとしても主様は、レリオネル様のことを取りもどしたはずだ)
カセルはそんなことを考えながら、公爵のことを見据える。
それと同時に血の繋がった父親にも関わらずリーベミオのことをなにも理解していないことにも驚く。
「……一先ず今回はお帰りを。此処でまっていても、会えませんからね。彼女の方から会いたくなったらお伺いしに行くと思いますので」
「ああ。分かった。リーベミオにくれぐれもよろしく頼む」
「はい」
公爵とカセルの会話はそれだけで途切れた。カセルも必要以上に主であるリーベミオの情報を話すことはなかった。
公爵はそれ以上何かを言うことなく、そのまま帰国する。これ以上、食い下がっても逆に【ニクスの花】からの心象が悪くなってしまうとこのままリーベミオと会わせてもらえないかもと思ったようである。
カセルは公爵のことはきちんとリーベミオに報告はしている。本人はレリオネルとの旅を楽しんでいるので中々こちらに帰ってこないが。
というより、精霊がリーベミオのことを気に入っているのもあり、案外連絡は取りやすかったりする。
神と精霊に直訴して、彼女はレリオネルを取り戻した。
だからこそ、彼女は神や精霊と近い位置にいる。
リーベミオからは案外すぐに返事が来た。ただし公爵のことを特に気にしていないのか、すぐに会う気はないらしい。というより同行しているレリオネルが、リーベミオと公爵家を会わせる気が特になかったようだ。
リーベミオのことを乱心令嬢と呼んでいた公爵家のことをレリオネルはよく思っていなかった。
結局リーベミオからは、「そのうち気が向いたら会いに行くから放っておいていい」としたためた手紙が届いた。
なかなかリーベミオの音沙汰がないため、痺れを切らして公爵から傭兵団に連絡が来ることもあった。ただしそれでもリーベミオは気が向かない限りは会いにはいかなかった。




