はじめての旅
あの恐ろしい夜、半分意識を失いながら森の中をさまよっていたとき、まだ存在すら知らなかった見知らぬ人、メイ・ギンムベルスさんと出会ってから、この花畑に来て三日が経っていた。
わたしは今、彼女をメイさんと呼んでいた。
フルネームを軽んじているわけじゃない。メイさん自身がそう呼んでほしいとお願いしてきたからだった。まだ完全には慣れていないあたたかさで、そうお願いされた。人がこんなに気軽にくれるあたたかさを、いつのまにか忘れていた気がした。
わたしにとって、それだけでもう十分すぎるくらいだった。わたしの体調を気にかけてくれて、変わり続けるこの体のすべてが不思議で未完成なままでも、そばにいることを心から喜んでくれる人が、ようやく現れたのだから。
この三日間、メイさんがこの静かな花の庭を離れるたびに、わたしはテントの日陰でおとなしく帰りを待つことしかできなかった。遠くの木々の間に、見慣れたあの姿がまた現れるのを、分ごとに数えながら待った。
あるときは、水を汲むために川の方へ向かって、その足音が揺れる草の音に消えていって、あとには静けさだけが残った。
またあるときは、見たこともない果物や野菜を持って帰ってきた。その形も色も、村の市場で見たどんなものとも似ていなかった。
時には、器を作るためのやわらかい粘土や、片腕に抱えた乾いた薪、それに見慣れない植物を持ち帰ることもあった。その植物はあとで丁寧にすりつぶされ、わたしのためだけの薬になった。毎晩、テントの中に鋭くて土っぽいにおいを満たしながら。
でも今日、わたしは自分の体がもうずっと元気になったと、はっきり主張した。足も、メイさんの行きたいところならどこへでもついていけるくらい、しっかりしていた。水を汲みに行くメイさんについていって、どんな小さな仕事でもいいから手伝いたかった。
見返りも求めずに、これまでずっとわたしのために何かを犠牲にしてきたメイさんの負担を、少しでも軽くしたかった。
その朝、いつものように、薄い布のテントの中でまた穏やかに眠ったあと目を覚まして、少ししてからメイさんのところへ向かった。頭の上の布は、もう日差しであたたまり始めていた。
前の日々と同じように、今日はメイさんが飲み水や毎日丁寧に作る料理のために、水を補充しに行く予定の日だった。
「メイさん、いつもみたいに水を汲みに行くの?ジアも一緒に行っていい?」
メイさんは、いつも朝ごとに姿を消していく、あの見慣れた茂みの手前でこちらを振り向いた。
わたしは花畑の真ん中から、メイさんの方へ歩いていった。裸足の足が、まだ朝露で冷たい花びらに、そっと触れた。
話しかけ始めたそのとき、水の流れる音が驚くほどはっきりと耳に届いた。今までテントの中で聞いていたときより、ずっと近くて大きかった。
「あら、ジア。今日は調子どう?あら、声、もうかすれてないね」
わたしは小さく笑って、うなずいた。自分から言わなくても、メイさんが気づいてくれたのがうれしかった。
「えへへ、うん。お薬、ありがとう、おばさん。味はひどかったけど、もうのど痛くないよ」
メイさんが、わたしの体を丁寧に確かめるのを見つめた。目は、決められた手順のように、体のあちこちを一つ一つ確認していった。
まず顔を見て、それから手、最後に足を見た。静かに、じっくりと。まるで、何か大切で壊れやすいものを調べるみたいだった。
それから、しゃがみ込んで、そっと髪を持ち上げて、服の下も確認した。手つきは丁寧で急がなくて、まるで物みたいに調べられている感じは一度もしなかった。
メイさんは、それから体を起こして、大きく微笑みながら話した。言葉と一緒に小さくため息をついて、肩の力が抜けたのがわかるくらい、ほっとした様子だった。
「よかった、傷は少しずつ治ってきてるわ。体のところどころには、たぶん完全には消えない跡が残ると思うけど」
わたしは首をかしげて、指を一本、唇に当てた。今日、本当についていっていいのか自信がなくて、期待とためらいが胸の中で絡み合った。
「それって、ジアがメイさんと一緒に川まで行ってもいいってこと?」
メイさんは少しびくっとして、両手を組み合わせた。普段とは違う真剣さで、わたしのお願いを考えているようだった。
「えっと……メイさんはどうかと思うの。もう一日、いつもみたいにこの花畑で休んでいたほうがいいんじゃないかしら」
わたしはすぐにむくれて、メイさんに向かって不満をあらわにした。腕を胸の前で組んだ。
「なんでだめなの!?ジア、メイさんがいつもあれもこれも一生懸命やってるの、ずっと見てるよ。もう休むのはいやなの。ジア、メイさんを手伝いたいの」
メイさんは頭の後ろをかいて、ぎこちなくて自信のない笑みを浮かべた。今回は、その笑みが目まで届いていなかった。
そのあと、メイさんはしばらく長く黙り込んでいた。表情は、読み取れないいろんな考えの間で揺れ動いていた。視線は、わたしの肩の向こうの木々の方へ流れていた。
なんとなく、メイさんは何とかしてわたしを休ませ続けられる、もっともらしい言い訳を必死に探しているように感じられた。川のそばまでわたしを近づけさせないための、何か理由を。
長く重いため息をひとつついたあと、メイさんはようやく口を開いた。その表情は、静かなあきらめへとやわらいでいった。
「わかったわ……ジアも一緒に来ていいわよ。でも、メイさんが水を汲んでいるあいだは、水から十分離れているって約束してね。いい?」
わたしの目は、一瞬で輝いた。さっきまでのむくれた顔は、すっかり消え去った。
考えるより先に、わたしは何度もうなずきながら、耳まで届くくらい大きく笑った。かかとが、思わずぴょんぴょん弾んだ。
「うん!ジア、約束する。ジア、後ろで待ってて、川には絶対近づかないよ」
それから、メイさんは向きを変えて、前へ歩き始めた。長い足取りが、丈の高い草の中を難なく切り開いていった。
わたしは少し駆け足になって追いついて、それから、メイさんの長い歩幅に合わせたゆったりとしたペースに落ち着いた。まわりの花たちが、通り過ぎるわたしたちの脇で、やさしく揺れていた。
今まで、川の音は毎晩、遠くからテントの方へ漂ってくる、あのかすかなつぶやきとしてしか聞いたことがなかった。あれほど怖かったものなのに、なぜか不思議と、心を落ち着かせてくれる音になっていた。
でも今日、わたしはようやく自分の目でそれを見ることになる。何日ものあいだ、ただ想像するだけだった。日差しの下できらきら光る、広くて大きな何かを思い描きながら。
この静かな花畑の外に、他にどんなものがあるんだろう。まわりの森が、影の中にまだどんな秘密を隠しているんだろう。わたしは心の中でそっと考えた。
こうして、わたしたちはついに、川へ向かう初めての旅を一緒に始めた。やさしい朝の光の下、並んで歩きながら。目の前の道はまだ見慣れないものだったけれど、もうまったく怖くはなかった。




