信じる理由
それから、メイさんは向きを変えて、前へ歩き始めた。
わたしは少し駆け足になって追いついて、それからゆったりとしたペースに落ち着いた。わたしの短い足は、メイさんの安定した歩幅に合わせるために、その倍働かなければならなかった。
道すがら、わたしはずっとしゃべり続けた。言葉は、うまく並べられるよりも速く、次々とあふれ出てきた。
テントの近くで花びらの上に見つけたてんとう虫のことや、どこか遠くからずっと聞こえてくる川のつぶやきのこと、それに、毎晩メイさんの帰りを不安に待ちながら登ったあの曲がった木のことまで話した。
メイさんは、ほとんど聞き役だった。わたしの取り留めのない話の中で何か気になることがあると、小さく笑ったり、うなずいたりしていた。
やがて、わたしたちは一緒に川岸にたどり着いた。足の下の地面は、やわらかい土から、なめらかで散らばった小石へと変わっていった。
初めて、自分の目でこの川を近くから見た。その光景に、話しかけている途中だった言葉が、途中で消えてしまった。
水は驚くほど透き通っていて、川底の小石まではっきり見えた。その表面は、長い年月をかけた流れによって、白っぽくなめらかに削られていた。やさしいせせらぎの音は、花畑まで届いていたものより、ここではずっと大きく響いていた。
わたしは、背の高い葦の間を縫うように続く細い道で、メイさんの後ろに立っていた。軽い風が通り過ぎるたびに、その茎がやさしく肩に触れた。
好奇心に勝てなくて、わたしはメイさんに質問を投げかけた。
「おばさん、この道、誰が作ったの?」
わたしは、メイさんが見慣れない不思議な植物を使って水を汲むのを見つめていた。その広くてくぼんだ葉は、まるでお椀のような形に自然と丸まっていた。
テントで見慣れていたひょうたんのコップや素焼きの器とは、まったく違う見た目だった。
メイさんは、その入れ物型の植物に川の水を注ぎながら答えた。
「ああ、それはね、メイさんが花畑とここの間を、何度も何度も行ったり来たりしているからよ。そのうち、自然に道になったの」
わたしはゆっくりうなずいて、その説明を頭の中に取り込んだ。
メイさんが両方の入れ物を水でいっぱいにすることに集中しているあいだ、わたしの注意はまわりの景色の方へさまよっていった。目の前を流れる川は、ゆっくりと澄んでいて、その表面には日差しのかけらが散らばっていた。
その一方で、川の向こうに広がる深い森が、わたしの視線を何度も引き寄せた。暗くて絡まり合っていて、なんだか胸が少し締めつけられるような眺めだった。
水を汲んでいる入れ物から目を離さないまま、メイさんはまた口を開いた。
「そういえば、気をつけてね、ジア。このあたりで、メイさんは時々、虫とか野生の動物に出会うことがあって……」
メイさんの話を聞いているあいだ、わたしの視線は、今立っている道のそばの背の高い葦の方へ、うっかり流れていった。
何かが目に留まった。すぐ横の一枚の広い葉の上を、小さな何かがゆっくり這っているみたいだった。
わたしは目を細めて、考えるより先に体を近づけた。
大きな緑色の毛虫が、そこを這っていた。節のある体が、動くたびに小さく波打っていた。
体全体が、一瞬でこわばった。
目をそらす間もなく、その毛虫からそう遠くないところで、上の葉からクモが一匹、ゆっくり降りてきた。日差しを反射する細くて光る糸にぶら下がりながら。
「キャアアアア!」
わたしは反射的に駆け出した。足が動く限りの速さで、メイさんの方へ走った。
「おばさん!」
わたしはメイさんに両腕を回して、ぎゅっとしがみついた。
でも、すっかりパニックになっていたせいで、わたしの足が、メイさんが水を汲むのに使っていた入れ物のひとつにぶつかってしまった。
「あ?」
入れ物の方が先に倒れて、水がなめらかな石の上に飛び散った。
わたしの体も、それと一緒にバランスを崩した。足が、濡れて不揃いな地面の上で滑った。
「うわああ!」
ばしゃん!
わたしは、その入れ物と一緒に、まっすぐ川の中へ落ちた。冷たい水が、一瞬でわたし全体を飲み込んだ。
「ふわっ!おばさん!助けて!ジア、溺れちゃう!」
わたしは必死にもがいた。腕を流れに向かってばたつかせながら、水の下に沈まないようにした。
その混乱のさなかでも、メイさんは驚くほど落ち着いた様子で動いていた。倒れたバケツとわたし、両方に同時に手を伸ばしながら。
パニックの中でも、メイさんが恐れる様子ひとつ見せずに、浅瀬をすばやく大股でこちらへ向かってくるのが見えた。
熊のような手が、倒れた入れ物を一瞬でつかんだ。同時に、人間の方の手がわたしの腕をしっかりつかんで、体ごと水の外へ引き上げてくれた。
「ジア……メイさん、気をつけて、川から離れていてって言ったでしょう。この水は、ジアの体には結構深いのよ。今、何を見たの?」
メイさんは、わたしをおぶって川岸へ運んだ。びしょ濡れになったわたしの体は、メイさんの背中にぐったりと預けられていた。熊のような手は、まだ取り戻した入れ物をしっかり支えていた。
「そ、それは……おばさん、ジア、おばさんが水を汲み終わるのを待ってるあいだ、葉っぱの上に毛虫とクモを見たの」
メイさんは、長くて疲れたようなため息をついただけだった。
メイさんは、それから入れ物を川のそばに丁寧に置いた。わたしは、まだその背中に乗ったままだった。髪や服から、水がずっとしたたり落ちていた。
「川の端っこの近くに落ちて、運がよかったわね。ここは川もわりと浅いから、メイさんもすぐにジアのところまで届いたの。もし最近の雨で流れが速くて急だったら、メイさん、本当に怖かったと思うわ」
その最後の言葉のところで、メイさんの声が少し震えた。落ち着いて見える表情の裏で、実はどれだけ怖かったのかを、その震えが物語っていた。
わたしの足が、また地面にしっかり着いた瞬間、涙をこらえながら、すぐにメイさんに抱きついた。
「ジア、ごめんなさい、おばさん。ジア、おばさんの言うこと聞かなかった」
メイさんは、しばらくわたしを見つめた。二人の服には、まだ水がまとわりついていた。
メイさんはかすかに笑ってから、しゃがみ込んで、わたしをぎゅっと抱きしめた。
「大丈夫よ、ジア。気にしなくていいの」
わたしは、ゆっくりメイさんの腕の中から抜け出して、後ろに下がりながらうつむいた。胸の中に、罪悪感がずっしり残っていた。
「ジア、少しの間だけ、メイさんの顔を見てくれる?」
罪悪感でいっぱいのまま、わたしはゆっくり顔を上げた。
それでも、メイさんの目をまっすぐ見ることはできなくて、視線はあごのあたりで止まってしまった。
メイさんが、わたしの失敗にもかかわらず、あたたかく笑いながら、そっと頭を撫でてくれているのが見えた。
「メイさんは、ジアが自分の間違いを認めて、ちゃんと謝ってくれたことが嬉しいのよ」
それでも、まだ怖さが消えなくて、わたしはまたうつむいた。
メイさんが、もう一度ため息をつくのが聞こえた。
その声の調子が、さっきよりも急に強くなった。
「ジア……」
体がこわばった。驚きと、ますます強まる怖さが同時に押し寄せた。
「メイさんがジアを大切に思うのは、女の子が欲しかったからじゃないの。メイさんに娘がいてもいなくても、ジアのことを大切に思う気持ちは何も変わらないのよ」
その言葉に、体中が震えた。わたしはゆっくり顔を上げて、メイさんの顔をまっすぐ見つめた。
メイさんは、まだあの同じ笑みを浮かべていた。でも、その裏には、静かな怒りと心配が入り混じったものが、かすかに残っていた。
「メイさんはただ、ジアに無事でいてほしいの。だって、ジアはもう、メイさんにとって自分の子どもみたいな存在だから。今、メイさんにとって一番大切なのはジアなの」
その言葉を聞いた瞬間、わたしはその場に固まってしまった。胸の中から、あたたかくて圧倒されるような何かがこみ上げてきた。ようやく、メイさんがどれだけわたしを大切に思ってくれているか、わかった気がした。
今までずっとその気持ちを疑ってきたことに、罪悪感がこみ上げた。
わたしは、言うことを聞かない子どもみたいにふるまっていた。心のどこかで、メイさんもいつか、前にわたしに笑いかけてきた人たちと同じになるはずだと、勝手に決めつけていた。
怪物みたいなものに変わってしまってからずっと、わたしに向けられる笑顔はすべて嘘なんだと思い込んでいた。
でも、それは間違いだったみたいだ。
メイさんは、パパやお姉ちゃん、それにスースーがかつてそうしてくれたのと同じくらい、本当にわたしのことを愛してくれていた。
そのあと、わたしは地面を見つめながら、足先で濡れた土をぼんやりとなぞった。
「う、うん。ごめんね、メイさん。ジア、もう一回謝るね」
メイさんは、もう一度だけわたしの頭を撫でてから、立ち上がった。
水を運ぶための二つの植物の入れ物を持ち上げた。
わたしは、あの不思議な植物の名前を、まだ知らなかった。
「ジア、花畑に戻ったら、メイさんが薪を集めているあいだ、待っていられる?」
わたしは、うつむいたまま静かにうなずいた。濡れた服が、風が通り過ぎるたびに肌に不快にまとわりついた。
さっきの失敗のあと、まだメイさんの顔をまっすぐ見ることができなかった。
メイさんがまた歩き始めると、わたしはそのすぐ後ろについていった。今度は、慎重に歩幅を合わせながら。
歩きながら、わたしはメイさんの背中をじっと見つめた。今まで気にも留めていなかった細かいところに、気づき始めていた。
メイさんの体は、パパよりもずっと大きかった。すっぽりその後ろに隠れても、誰にも見つからないくらい幅があった。
熊のような耳が、時々遠くの音の方へ向いて動いた。片方の手は、熊の前足によく似ていて、太い毛に覆われ、先端は丸みを帯びた爪になっていた。両足は、どちらも完全に人間の形をしていた。
体のところどころに、茶色い毛のかたまりが、不揃いに広がっていた。
わたしたち全員に降りかかったあの出来事のあと、初めて、わたしは誰かのことを、また完全に信じられる気がした。




