本物の怪物じゃない
「おばさんが、できるだけわかりやすく説明するね」
おばさんは少し考えるふうだった。丸い熊の耳が、頭の奥から言葉を探すみたいに、そっと前へ傾いた。
「突然変異っていうのはね、体が変わり始めることだよ」
わたしは黙った。その言葉の意味が、うまくつかめなかった。頭の中で何度も転がしても、しっくりくる場所が見つからないパズルのかけらみたいだった。
「それって……ジアが怪物になるってこと?」
声は、ささやきよりも小さかった。恐怖が、胸の奥からゆっくり這い上がってきた。
体中が震えた。前に街で見た、動物の怪物たちのことを思い出したから。今のわたしも、あの子たちと同じだった。小さな角と、小さな鹿のしっぽ。絵本に出てくるみたいな姿。大人たちが子どもを脅すために話すような姿だった。
「この小さな角のせいで、鹿になんてなりたくない。ジアは鹿の怪物になんてなりたくないよ……おばさん、ジアはいつか、みんなみたいな怪物になるのが怖い」
涙がこぼれそうになった瞬間、おばさんは驚いた顔をして、急に謝った。毛に覆われた手が、宙で少しためらうように止まった。手を伸ばしたら怖がらせてしまうかもしれないと、迷っているみたいに。
「ごめんね。もっと怖がらせちゃった。おばさんが言いたかったのは、そういうことじゃないんだよ」
わたしは涙をこらえて、もう一度口を開いた。声は、まだ震えていた。頑張っても、強がることなんてできなかった。
「じゃあ、ジアはいつか怪物にならないの?」
おばさんはゆっくりうなずいた。その表情は、安心と、少しの悲しみが混ざったみたいにやわらいだ。
「そんなに単純な話じゃないの、ジア。でも、ジアはずっとジアのままだよ」
それから、質問に答える前に、おばさんはわたしの名前を尋ねた。
「フルネームを教えてくれる、ジア?」
だから、フルネームを教えた。今度こそ、突然変異について答えてもらいたかったから。
「わたしの名前は、ジア・カティアナ。でも、ジアは本当に突然変異のことが知りたいの。おばさん、まだ質問に答えてくれてないよ」
きちんと自己紹介したわたしを見て、おばさんは小さく笑った。その声は、大きな爪を持つ人からは想像もできないくらい、あたたかくて、やさしかった。
「ふふ、ジアは本当に賢い子だね。じゃあ、ちゃんと答えるね」
わたしはすぐにうなずいた。何か本物の答えを聞きたかった。自分の体にずっと居座り続けている奇妙さを、説明してくれる何かを。
今度は、おばさんは話をそらそうとしなかった。落ち着いた声の調子から、今度こそ約束を守るつもりなんだと、なんとなくわかった。
「わかった。できるだけちゃんと説明するね」
テントの中で、わたしは背筋を伸ばした。ひとことも聞き逃したくなかった。擦りむいたひざが、下に敷かれた草の織物に、少し不格好に押しつけられた。
「突然変異っていうのはね、体が何か別のものに変わり始めることなんだよ」
「おばさんが言ってた怪物みたいに?」
おばさんはすぐには答えなかった。次の言葉を選ぶみたいに、少し間をおいた。視線が一瞬、テントの外に咲く花の方へ向いた。
「そう呼ぶ人も、たまにいるよ」
胸が、また重く締めつけられた。森を逃げ回ったあの夜と、同じ感覚だった。
「でも、おばさんは、ジアは怪物じゃないって言ったよ……わたしも、怪物なんかじゃない」
おばさんの顔を見つめながら、わたしは辛抱強く待った。おばさんは、少し間をおいてから、話を続けた。
「聞いて、ジア。おばさんの考えでは、怪物になることと、悪者になることは、まったく別の話なんだよ」
わたしは首をかしげた。その違いが、うまく理解できなかった。二つの考えが、疲れた頭の中で、絡み合ってしまった。
おばさんは、生え際の近くにある小さな角を、そっと指さした。毛に覆われた指先は、実際に触れる手前で止まった。
「もし明日、ジアの角がもっと大きくなったら、ジアは自分の名前を忘れちゃうと思う?」
わたしは、はっきりと首を横に振った。その質問が終わる前から、答えは決まっていた。
「ううん」
「もし、ジアのしっぽがいつか長くなったら、ジアは家族を愛さなくなると思う?」
もう一度、首を横に振った。答えは、さっきと同じくらいはっきりしていた。
「ううん」
「ほらね。だから、ジアはずっとジアのままだって、おばさんは信じているんだよ」
わたしはしばらく黙った。その言葉を、胸の奥にゆっくり沈めた。まだ手放す気になれない、小さな石をひとつずつ置いていくみたいに。
なぜか、少しだけ心が軽くなった気がした。
「じゃあ、なんで村の人たちは、わたしのことをあんなに嫌うの?」
おばさんの笑顔から、あたたかさがふっと消えた。
「たぶん、怖いからだと思うよ」
「怖い、って?」
「うん」
「ジアのことが?」
「よくわからないものが、怖いんだよ」
わたしは視線を下げて、自分の小さな両手をじっと見つめた。他のことがあれほど変わってしまったのに、この手だけはまだ青白くて普通に見えることに、初めて気づいた。
もしそれが本当なら、パパもお姉ちゃんも、わたしのことを怖がっているの? じゃあ、スースーはどうなるの? スースーも、いつかわたしを怖がるようになるの?
その質問が口から出る前に、何かがためらった。答えを聞くのが、少し怖かったから。
尋ねる前に、おばさんの方が先に口を開いた。
「突然変異っていうのは、簡単に説明できることじゃないんだよ、ジア」
その声には、今までにない重さがあった。この会話が、思っていたよりずっと大きなものになっている、そんな気がした。
「なんで?」
「大人たちだって、まだちゃんとわかっていないことだからだよ」
わたしは驚いて、瞬きをした。その事実だけが、疲れた頭の中に、重くのしかかった。
大人でも、知らないの?
その考えは、今まで聞いた話の中で、いちばん重く感じられた。うまく言葉にできない。ただ、落ち着かない気持ちだけが残った。
じゃあ、本当のことを知っているのは、誰なの?
わたしが口を開きかけたとき、おばさんの視線が急に、テントの外に広がる暗い森の方へ向いた。今まで気づかなかったくらい、体全体が張りつめていた。
その表情は、これまで見たことがないほど真剣で、目にあったあたたかさが、静かな心配へと変わっていた。
「だからこそ」とおばさんは静かに言った。「もう全部知っているみたいな顔をする人には、ジアも気をつけてほしいの」




