熊のおばちゃん
「落ち着いて。ここには、誰もあなたを傷つける怪物なんていないから」
その言葉を、わたしはまだ一つも信じられなかった。小さな体は、相手が少しでも動いた瞬間に逃げ出せるよう、ぎゅっと縮こまったままだった。それでも心の奥のどこかでは、あの優しい声を信じてみたいという気持ちが、恐怖に押さえ込まれながらも確かに存在していた。
ゆっくり話そうとしたけれど、声は変に掠れて、うまく出てこなかった。喉と舌が、これまでの苦しさのせいでひどく乾いていたからだ。言葉を発するたびに、喉の奥に小さな棘が刺さるような痛みが走って、もう話すのをやめてしまいたいほどだった。
「う、嘘つき!やめて……人間のふりなんてやめてよ、熊の化け物っ!」
思っていたよりも尖った声が出てしまった。けれど震える声のせいで、こんなに大きな相手に立ち向かうだけの力なんて、ほとんど残っていないように聞こえた。
目をぎゅっと閉じたまま、普通の女の人の顔をしたあの熊のような生き物が、諦めて去ってくれるのをひたすら待った。まぶたの裏の暗闇の中で、心の中で数を数えた。数えるたびに、テントの入り口にいる恐ろしい影が消えてくれるかもしれないと願いながら。
数分が過ぎたころ、ようやく目を開けた。あの生き物がもう立ち去ったかどうか、どうしても確かめたかった。
彼女はまったく同じ場所に、さっきと変わらずわたしの正面に座っていた。温かい笑みは、一度も消えていなかった。
その人はテントの入り口に腰を下ろしていて、大きな体は狭い空間には収まりきらなかった。両肩は左右の曲がった木の枠にほとんど触れそうなほどだったのに、それでも彼女は、小屋を支える枝を一本たりとも揺らさないよう、じっと動かずにいた。まるでこの場所がどれほど脆いか、すでによく理解しているみたいに。
「大丈夫よ、小さいお嬢さん。おばちゃんはあの怪物とは違うの。ここにいるのは、あなたと同じ人間だから」
疑いはまだ強く残っていて、体は編んだ草に押しつけたままだった。彼女は入り口で、辛抱強く座り続けていた。まるで、逃げ場のない小さな鹿が巨大な熊の前で追い詰められているような気分だった。逃げるべきか、動かずにいるべきか、どちらが正解なのかまったくわからなかった。
本能のすべてが逃げろと叫んでいたのに、この見知らぬ人はわたしを傷つけようと動いたことなど一度もなかった。足は、外の草地へ飛び出したくてたまらずぴくぴく震えていたけれど、疲れが重い石のように小さな体を押さえつけていた。
「おばちゃんって、どういう意味……?」
質問の途中で声が裏返った。胸の中にわだかまっていた恐怖よりも、好奇心が少しずつ勝り始めていた。
彼女がゆっくりと両腕を持ち上げたとき、目を離すことができなかった。片方の手は完全に普通で、白くて人間らしく、昔自分が持っていた手にとてもよく似ていた。小さな皺と、きれいに切りそろえられた爪まであった。
けれど、もう片方はまったく違う姿をしていた。その手ははるかに大きく、黒い毛に覆われていて、明らかに人ではなく熊のような形をしていた。指先からは長い爪が緩やかに伸びていて、木さえ引き裂けそうなほど鋭いのに、自分の膝の上には驚くほど優しく置かれていた。まるで、その強さをどう抑えるべきか、長い時間をかけて学んできたかのようだった。
すぐに気づいた。それは、さっき薄目を開けてこっそり見た、あの手と同じものだった。死んだふりをしながら盗み見たときの記憶がよみがえって、胃の奥がぎゅっと締めつけられた。あのとき、本物の熊が目の前に立っていて、疲れきった自分の体を食べ尽くそうとしていると、心から信じていたことを思い出した。
「おばちゃんも人間よ。あなたと同じようにね」
怪物がどれほど恐ろしいものか、わたしはよくわかっているつもりだった。同時に、普通の人が怪物のような姿になるはずなんてないということも、はっきりとわかっていた。頭の中の混乱は、どれだけ彼女の声が優しくても収まらなかった。ここ数日で起きたことは、どう考えても筋が通らなかったから。
テントの中で、ゆっくりと体を起こした。ひりつく喉に無理やり声を出させながら、編んだ草に小さな手を押しつけて、震える体を支えた。そうして初めて、正面から彼女と向き合って座ることができた。
「で、でも……おばちゃんに、ジアの言葉、ちゃんとわかる?喉が渇きすぎて、うまく話せないの。ジアが鹿みたいな見た目だからって、おばちゃんはジアを追い払う?なんとなく似てる気はするけど……」
言葉の最後は、力なく途切れてしまった。続きを口にしたら、二人の間が余計に気まずくなる気がしたからだ。
おばちゃんは、迷うことなくきっぱりと首を振った。頭の上の丸い耳が、その動きに合わせてぴくりと揺れた。
「まさか、そんなことしないわ……」
そう言う声は、さらに柔らかくなっていった。どこか懐かしくて、生活がこんなに変わってしまう前の、遠い記憶を思い出させるような温かさがあった。
「正直に言うとね、おばちゃんも最近わかったばかりなの。頭のてっぺんに熊みたいな耳が生えてから、普通の人間よりずっと力が強くなったってこと。これは変異のせいなのよ」
そう言いながら、彼女は片方の丸い耳にそっと触れた。まるで、この体が本当に自分のものだと確かめるように。何が起きても、まだ完全には馴染めていないみたいだった。
聞き慣れない言葉に、思わず首をかしげた。パパも学校の先生も、そんな言葉を教えてくれたことなんて一度もなかった。寝る前のお話にも出てきたことがなかった。記憶をどれだけ探しても、その奇妙な響きに一致するものは見つからなかった。
「変異……って、なに?」
もう一度、小さくつぶやいた。繰り返せば、意味が自然とわかるかもしれないと、少しだけ期待しながら。
その言葉は舌の上で、重くて馴染みのない感触を残した。それでも、なぜか胸の奥で何度も繰り返してしまうくらい、大事な響きに思えた。
おばちゃんは、どこから説明すればいいのか本当に迷っているようだった。




