メイおばさんと冒険へ
メイおばさんに罰を言い渡されてから、二日が過ぎた。そのあいだ、わたしは花畑から外へ出ることを許されず、遊んだり、休んだり、退屈をごまかす何かを探したりして時間をつぶしていた。
最初のうちは、どこへも行けないことが腹立たしくてたまらなかった。けれど花畑で長く過ごすうちに、できることが少しずつ見つかってきた。咲いている花を端から眺めて歩き、ときどきしゃがみこんで、草の根もとを這う虫を目で追う。追いかけてみても、虫たちは捕まえる前にさっさと草の陰へ隠れてしまった。飽きたら花の間に寝転がり、あっちへこっちへ転がってみる。それにも飽きれば、テントの中でただぼんやりしていた。
森を遠くから眺める時間も、いつのまにか日課になっていた。遠くを見渡せる力を手に入れてからは、前なら見えなかったものがはっきりと見える。近づかなくても、森をうろつく怪物たちの姿を目で追えるほどだった。もちろん、会いに行くつもりなんてない。あのときの出来事は、今でも胸の奥に残っている。怪物は本当に、本当に恐ろしかった。遠くから眺めるだけで、わたしには十分だった。罰を受けている最中でも、おもしろいものがひとつ残っているのが、せめてもの救いだった。
けれどその日は、いつもと違っていた。花畑で寝転んでいると、森のほうから誰かが歩いてくるのが見えた。その姿を、わたしはすぐに見分けた。
「メイおばさん!」
跳ね起きた拍子に、髪についた花びらが散った。わたしは足もとの草を蹴って、おばさんのほうへ駆けていった。
おばさんは両腕に、たくさんの植物を抱えていた。根っこや、丸くふくらんだ芋のようなもの、葉っぱ、茎。名前のわからないものも、ほかにたくさん混じっている。見たことのない形をしたものもあって、近づくにつれて湿った土と青い汁の匂いが濃くなった。わたしは歩みをゆるめ、抱えられたものを、息を詰めてのぞきこんだ。
「おばさん、それ、なあに? どうしてそんなにたくさん草を持ってるの?」
おばさんは足を止め、しばらくわたしの顔を見下ろしてから、口もとをやわらげた。
「これは、もしものときの備えなのよ、ジア。旅の途中で、何か必要になるかもしれないでしょう」
わたしはもう一度、植物の山に目を向けた。細長いものがあり、芋のようにふくらんだものがあり、見たこともない形の葉をつけたものもある。どれが食べられて、どれが別の使い道なのか、見ただけではさっぱりわからなかった。それでも、おばさんがわけを教えてくれたのだから、首を縦に振るだけで十分だった。
「そっか、なるほど!」
それ以上は、深く考えなかった。おばさんが持ってきたのなら、きっとちゃんとした理由があるのだ。わたしは、テントへ向かうおばさんの後ろをついていった。気になることはまだ残っていたけれど、この草をおばさんがどうするのかを見るほうが、ずっとおもしろそうだった。
テントに着くと、おばさんは持ってきたものを床に広げ、いくつかを選り分けて入れ物にしまいはじめた。それから、もともと置いてあった道具をひとつずつ手に取り、確かめていく。わたしは少し離れた場所に座り、その手もとを見つめていた。
何を準備しているのだろう。思いつくことをいくつか並べてみたけれど、答えは見つからなかった。おばさんが並べていく物の中には、見覚えのあるものもあれば、何に使うのかさっぱりわからないものもある。聞いてみたかったのに、おばさんは忙しそうで、声をかけるのがためらわれた。だから、終わるまで待つことにした。
しばらくして、おばさんがテントから出てきた。
その手に提げている荷物に、わたしの目はすぐ引き寄せられた。あれは、出かけるときの荷物のはずだ。けれど、形が、いつも見ているものとは違っている。前に果物や野菜を探しに出たとき、おばさんの荷物はもっと大きくて、場所をとっていた。今目の前にあるのは、小さくまとまって、持ち上げる腕にも軽そうに見える荷物だった。
近づいて、よく見ようと身を乗り出した。
「おばさん、どうして荷物がこんなに小さくなったの? 中には何が入ってるの?」
おばさんは荷物をわたしの目の高さまで下ろし、中身が見えるように持ち直した。
「持ち運びやすいように、全部入れ直したのよ。中には大事な道具と、おばさんが作った薬と、食べ物と、飲み物と、道中で要りそうなものが少し入っているの」
話を聞きながら、わたしは何度もうなずいた。おばさんは、旅のための支度を、もうぜんぶ終えていたのだ。荷物を見つめる目に、いつのまにか感心の気持ちがこみあげていた。たくさんの物を運べるのに、荷物は少しも大きくならない。おばさんは、本当にすごい。わたしには、とてもまねできそうになかった。
おばさんは、今度は一つのかごを手に取って、わたしの前に差し出した。
「ジア、このかごは、あなたが使いなさい。途中で見つけた果物や野菜を集めるのに使うといいわ。持ち帰れそうなものがあったら、この中に入れてね」
両手で受け取ったかごは、編み目がざらりと指にひっかかり、見た目よりずっと軽かった。
「はい、おばさん!」
おばさんは、かごを抱えたわたしの腕のあたりに目をやった。
「かごが重くなったら、言いなさい。荷物を交換すれば、歩くのも大変じゃなくなるから」
わたしはかごをぎゅっと胸に引き寄せ、首をぶんぶんと縦に振った。
「へいき! わたしが持つよ!」
かごを抱きしめたまま、笑いが顔いっぱいに広がっていく。二日のあいだ、花畑の中で遊ぶことしかできなかったのだ。それがやっと、おばさんと一緒に出かけられる。今度は、ひとりで行かなくていい。怪物と出会っても、どうすればいいのかわからなくて怖い思いをすることも、もうない。おばさんが、そばにいてくれるのだから。
何が見つかるだろう、と考えるだけで、胸が高鳴った。新しい果物があるかもしれない。見たことのない植物があるかもしれない。行ったことのない、おもしろい場所があるかもしれない。そんなことを次々に思い浮かべているうちに、おばさんは荷物の確認をすっかり終えていた。
支度がととのうと、おばさんは立ち上がり、テントの後ろを指さした。
「あそこから行くわよ、ジア」
指の先をたどって、わたしは振り向いた。テントの後ろには、森へと続く道がある。おばさんと一緒に歩いたことのない道だった。目が、ひとりでに輝きだすのがわかった。
「ほんとう、おばさん?! あっちに行くの?」
おばさんは、ゆっくりとうなずいた。
「ええ。だから、かごを持って、道中はおばさんのそばを離れないでね」
その言葉が耳に届いた瞬間、体の中で何かが弾けた。
「やったあ! 冒険だ!」
かごを持ったまま、その場で何度も跳びはねた。おさえようとしても、うれしさは足の先から勝手にあふれてくる。気づけば、おばさんの周りを、ぐるぐると何周も走りまわっていた。
おばさんは、わたしの動きを目で追いながら、小さく笑った。
「ジア、気をつけて。出発する前に転ばないようにね」
わたしは足を止め、ほっぺを持ち上げておばさんを見上げた。
「転ばないよ、おばさん!」
転ばない、はずだ。そう思いながら、またぴょんと跳ねてしまった。森の向こうに何があるのか、早く自分の目で見たくてたまらない。以前は、怖い思いをしながら怪物と出会った。けれど今日は違う。おばさんと一緒に、かごを持って、まだ知らない場所を歩くのだ。本物の冒険だと、胸の中で何度も繰り返した。
わたしが気のすむまで跳ねまわるのを待ってから、おばさんは、テントの後ろの道へと歩きはじめた。わたしは、かごを両手でしっかり持ち、その隣に並んで急いでついていった。
花畑を横切り、テントを後ろへ置いていく。この二日間、わたしの世界のすべてだった場所が、一歩ごとに遠ざかっていった。
目の前に、森の木々が隙間なく並んでいる。これから進む道は、いつも遠くから眺めていた森とは、どこか様子が違って見えた。見上げると、高い枝が空をさえぎっていた。
この先に何があるのかは、まだ何もわからない。それでも、おばさんがそばにいてくれるなら、わたしはこの目で確かめたかった。胸をふくらませたまま、おばさんの後を追って、わたしは森の中へ足を踏み入れた。




