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花咲く場所  作者: Azerostudio


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待つ時間

指を折って数えても、花畑のまわりを歩幅で測っても、テントの脇に散った花びらを一枚ずつ並べてみても、答えはいつも同じ場所に戻ってきた。メイおばさんにマンゴーの葉を食べたことを叱られてから、今日でちょうど五日になる。


数え直すたびに、その五日は少しずつ長くなっていく気がした。本当はそれほど長くないのかもしれないけれど、夕方になるたび手のひらに残るのは、昼の熱をまだ抱えた土の匂いと、何も起こらなかったという重たい感触だけだった。


私に許されているのは、この花畑の中にいることだけだった。おばさんについて外へ出ることも、水汲みを手伝うことも、少しでも面白そうなことはすべてだめだった。座っても、寝転んでも、花のあいだを歩いてもいい。だから私は歩き続け、気がつけば何十周もしていて、足首をなでる花の一本一本が、私の足音を覚えてしまったように思えた。


西日が花畑の端から端までを橙色に染めるころ、メイおばさんはテントの脇にしゃがんで、何かを整えていた。布のこすれる乾いた音がして、風にあおられたテントの裾が、ばたばたと小さく鳴っている。私は袖をつかみたくなる指を反対の手でおさえつけ、おばさんの背中の三歩うしろまで、そっと近づいた。


「メイおばさん……」


おばさんは手元から目を離さなかった。私の足音がすぐ後ろで止まるのを、待っているようにも見えた。


「今日は水汲みに一緒に行ってもいい? ジア、もう葉っぱは絶対に食べないから」


ようやく振り向いた顔には、疲れの影が薄く落ちていた。それなのに声だけは、いつもの静けさをたもっていた。


「まだだめよ、ジア」


足元で花がひとつ揺れる。私は唇を尖らせ、その花の影を靴の先でなぞった。


「でも、ジアはもう五日も罰を受けたよ」


草を束ねる指の動きは、少しも乱れなかった。


「おばさんは知っているわ」


胸の内側で言葉がぶつかり合い、そのまま口からこぼれ落ちた。


「ジア、ちゃんとごめんなさいも言ったよ」


おばさんの膝の上で、束ねかけた草の先が風にそよいだ。


「それも知っているわ」


私は両手を背中で握りしめ、爪先で土を蹴った。乾いた土が小さく跳ねて、花の根元に散った。


「ジア、退屈」


今度はおばさんが草を置いて、私の顔をじっと見た。しばらくそうしていたあと、口元の端がほんのわずかだけ緩んだ。


「もう少しだけ待ちなさい。たぶん明日。それとも明後日ね」


その言葉を舌の上で転がしながら、私は思わず身を乗り出した。肩にかかったおばさんの髪から、干した草の匂いがふわりと立った。


「明日か明後日? 」


おばさんは落ちた草を拾い上げ、指先で土を払った。


「おばさんね、あることを計画しているの。準備がすっかり整ったら、ジアも連れていってあげるわ」


その言葉が胸の底に落ちた途端、夕暮れの光がいっそう明るく見えた。膝がひとりでに弾み、一度、二度と跳ねてしまう。


「ジアも、冒険に行ってもいいの? 」


おばさんは草の束をまとめ直しながら、跳ねつづける私の足元へ目を落とした。


「あなたが待てるなら、ね」


その一言を、私は両手で受け止めるように胸の前で握りしめた。つま先が、もう地面から浮きかけていた。


「ジア、待てる! 」


私は両腕を高く突き上げて、花畑の真ん中へ駆け出した。ぶつかった花が次々に頭を揺らし、花びらが数枚、風に乗って舞い上がる。笑いすぎて息が詰まり、胸がひりひりした。背中からおばさんが、端のほうへは行かないようにと呼びかけてくるけれど、答える言葉が見つからなくて、遠くから大きく手を振ることしかできなかった。


その日の残りは、冒険という言葉だけで満ちていた。空の色がやわらかく変わっていくあいだも、頬の緩みはなかなか戻らなかった。


夜、毛布にくるまっても目は冴えたままで、天井の布の継ぎ目を見つめながら、どこへ連れていってもらえるのかを思い描いた。水を汲みに行くのかもしれないし、何かを集めに行くのかもしれない。見たことのない道が、どこかにあるのかもしれない。眠りが落ちてきたのは、いつもよりずっと遅い時刻だった。


次の日が過ぎて、そのまた次の日が過ぎた。我慢しているつもりだった。本当に、そのつもりだった。花を数え、花畑を歩き、もう一度花を数える。おばさんがテントから出てくるたびに顔を上げ、籠を持ち上げるたびに立ち上がっては、また座り直した。


けれど、冒険の気配はどこにもなかった。


三日目の夕方、とうとう我慢の糸が切れた。


「メイおばさん! おばさん、ジアも行っていいって言ったよ! 」


草の束を抱えていたおばさんの肩が小さく跳ねた。やがて手を止め、親指と人差し指で眉間をつまむ。同じ問いを何度聞かされたのか、頭の中で数えているような顔だった。


「たぶん明日か明後日、と言ったのよ」


声が裏返って、自分でも耳が熱くなるのが分かった。


「もう三日も経ったよ! 」


おばさんは眉間をつまんだまま、目を閉じた。


「おばさんには、まだ用意しなければならないものがあるの」


私は拳を握りしめ、さらに声を張り上げた。


「でも、ジアはもう準備できてるよ! 」


おばさんは眉間から指を離し、まっすぐ私を見た。夕風が二人のあいだの花を、ひとつ、またひとつと撫でていった。


「ええ、知っているわ。でも、おばさんはまだなの」


気づくと右足が地面を踏みつけていた。腕を胸の前で組み、顔を思いきりそむける。ずるい、と思った。こんなに待ったのに、聞くたびに返ってくるのは明日か明後日ばかりなのだ。


「ジアは、今がいい」


おばさんの足元で、草のこすれる音がひとつだけした。


「ジア」


声がいつもより一段高かった。顔を戻す前に、背中の産毛がすうっと逆立つのが分かった。


「おばさんがここにいなくなったら、そのとき思い知るわよ」


踏みしめていた足の裏から力が抜けて、そのまま動けなくなった。ゆっくり顔を戻すと、おばさんの表情は冗談を言うときのそれではなかった。何かがそこにあるのに、それが何なのか私には分からない。おなかのあたりが急に小さく縮んで、冷たくなった。


「……ジア、待つ」


自分でも驚くほど細い声だった。おばさんはそれ以上何も付け足さなかった。肩がゆっくりと下がり、掌が一度だけ私の頭に触れる。乾いた草の匂いがした。それから何事もなかったように、束ねかけた草へ戻っていった。


翌朝、私はいつもどおりに目を覚ました。冷たい水で顔を洗い、朝ごはんを食べ、少しだけ時間を置いてから、わざとらしくならないようにテントへ向かった。約束を取り立てるつもりで来たのに、テントの中は空っぽだった。


見回しても花畑のどこにもおばさんの姿はなく、いつも通る道にも人影はない。呼ぼうと口を開きかけたとき、背後で土を踏む音がした。私が一度も目にしたことのない方角からだった。


メイおばさんが、花のあいだから姿を現した。両腕いっぱいに植物を抱えている。長い草が腕から垂れ、小さな花が葉のすきまに挟まり、土のついた根が何本もぶら下がっていた。顔の半分が隠れそうなほどの量だった。


「メイおばさん! どこから来たの? 」


おばさんは抱えていたものをテントの脇へどさりと下ろし、手の甲で額をぬぐった。湿った土と青い草の匂いが、あたりにふわりと広がる。


「少し遠いところからよ。準備が要ると言ったでしょう? これも、そのひとつ」


私は駆け寄って、草や花、ちがや、葉や根を、ひとつずつ目で追った。見慣れた形のものもあれば、初めて見るものもある。どれにも濡れた土の匂いが染みついていた。


「これで、何を作るの? 」


おばさんは両手をぱんぱんと払って土を落とした。指先に残った泥が、朝の光の中で黒く光っていた。


「まだ教えられないわ。ジアは花畑で待っていなさい。歩き回ってもいいけれど、遠くへは行かないこと」


私はおばさんの顔と、地面に積まれた植物の山とを、交互に見比べた。


「じゃあ……冒険は、本当に明日? 」


おばさんは草の束に目を落としたまま、言葉を選ぶように少しのあいだ口を閉ざした。


「準備が終われば、ね」


頬が、勝手に持ち上がった。


「ジア、待ってる! 」


飛び跳ねて、そのまま花畑へ駆け出す。今度は足がずっと軽かった。


草も、花も、ちがやも、葉も、根っこも、おばさんはちゃんと集めてきたのだ。それは本物の準備に決まっている。私たちの冒険は、もうすぐ始まる。

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