帰る場所
太陽の光が容赦なく頬を打ち、私は喉の奥で息を詰まらせながら飛び起きた。
まぶたを強引に開けば、頭上の木々の隙間から刺すような光が降り注ぐ。体は熱く粘つく毛布に包まれたようで、後頭部には鈍い痛みが居座っていた。背中に触れているのは冷たい土だった。
見慣れた花畑の景色はどこにもない。鬱蒼とした木々が四方を囲み、湿った土と苔の匂いが鼻をつく。ここは昨夜逃げ込んだ森の中だった。
その事実が、冷水を浴びせられたように私を打った。
「……また寝過ごした。」
慌てて体を起こし、勢いよく立ち上がった拍子に視界が揺らぐ。太陽はすでに高く、帰るはずだった時間はとうに過ぎ去っていた。傍らの籠を抱え、果物と野菜を胸に押しつける。まるでそうすれば焦りを抑え込めるとでも思うように。
「早く帰らないと……」
森を出る足取りで、擦り切れた靴が朝露の草を踏む。だが数歩も進まないうちに体が石のように重くなり、欠伸が漏れた。
「ふあーっ」
手の甲で口元を覆いながら、重い足を前へ運ぶ。二度目の欠伸に涙が滲み、消えたはずの眠気がまぶたに重くのしかかる。
昨夜の赤い瞳、低い唸り声、そのどれもがまだ生々しかった。思い出すだけで心臓が速く打ち始める。それなのに私はまた、油断して二度目の眠りに落ちた。
長く息を吐き出す。メイおばさんはきっと、昨夜からずっと張り詰めた顔で待っているに違いない。悪いのは全部自分だ。マンゴーの葉を食べて眠りこけ、時間通りに帰る約束をあっさり手放してしまったのだから。
「メイおばさん、絶対怒ってる……」
うつむいたまま足を速める。普段は優しい顔が心配でこわばっている様子を想像するだけで、胃の奥が重くなった。それでも隠れる選択肢はない。
細道を進む足取りは重く、まだ本調子ではない体が二倍の疲労を強いてくる。欠伸が前触れもなく襲いかかったが、立ち止まる余裕はなかった。
しばらく道を辿ると、茂みの向こうにテントの屋根が見え始めた。花畑の境界に足を踏み入れた瞬間、視線を左右に走らせる。
メイおばさんの姿はどこにもない。
もう一度、隅々まで目を配る。やはり誰もいなかった。安堵の息が唇からこぼれた。
「よかった……やっとこのフラワーパークに到着した。」
少なくとも、いきなり怒りをぶつけられずに済んだ。テントへ向かい、その入り口の前に座り込む。籠を体の脇に置き、中身に目を落とす。恥ずかしい経緯はあったにせよ、持ち帰れた果物と野菜がそこにはあった。
無駄ではなかったのだと自分に言い聞かせる。あとはメイおばさんが戻るのを待ちながら、どう謝ればいいのか考えるだけだった。しかし考えがまとまる前に、まぶたはまた重さを取り戻していく。
「眠い………ジアはとても眠い。」
両手で顔をこすり、押し寄せる眠気を追い払おうとする。背中に当たる粗いテントの布の感触を最後に、疲労がついに限界を迎えた。少しだけ休むつもりだった。
抗う間もなく、まぶたは閉じていった。
木の床が軋む、あの大きな家の居間に私は立っていた。
隣ではギアが笑いながら枕を投げつけてきて、私はそれを受け止めながら笑った。テーブルの周りを、疲れを知らない子供のように駆け回る。胸の奥に広がる温もりは、久しく忘れていた種類のものだった。
玄関の扉が軋みながら開いた。
肩に鞄をかけた父が入ってきて、疲れた顔に私たちを見つけた途端に笑みを浮かべた。ソファに座っているのは、とうに私の前から姿を消していたはずの母だった。まるでこの家を離れたことなど一度もないような、穏やかな微笑みを浮かべて。
父。母。ギア。そして私。
四人が一つの部屋に集まり、その瞬間だけはすべてが完璧に思えた。だがその温もりは、部屋の隅に映った違和感によって少しずつ罅割れていく。
そこには五人目の姿があった。
ゆっくりと首を巡らせた私の呼吸は、その場で止まった。
メイおばさんが台所の入り口に立っていた。花畑でいつも身にまとっているのと同じ服のまま、本来は私と彼らだけのものであるはずの家に彼女がいる。
「メイおばさん? なんでメイさんここにいるのー? 」
自分の声が、ひどく他人のものに聞こえた。
なぜ彼女がここにいるのか。まるで昔からその一員だったかのように立っているのはなぜなのか。答えはいつまでも降りてこなかった。
部屋の空気が重くなり、説明のつかない圧迫感が喉を締めつけてくる。その違和感は膨らみ続け、光を呑み込む霧のように部屋の隅々にまで広がっていった。
夢の中のメイおばさんと目が合った瞬間、心臓が跳ねるように高鳴った。その衝撃のまま、私は現実へ引き戻されるように目を覚ました。
まばたきを繰り返し、薄暗くなり始めた夕方の光に目を慣らす。夢の余韻はまだ生々しく、理由もなく胸が締めつけられていた。ふと顔を上げると、目の前にはすでに人影が立っていた。
メイおばさんだった。
背中をテントの布に預けたまま、私はその場で固まった。彼女はちょうど川から戻ってきたところらしく、手には濃い茶色の瓢箪が握られている。先端から滴る水が、乾いた土の上に染みを作っていた。
けれど、その歩き方にはどこか違和感があった。うなだれた頭、いつもきっちり結い上げているはずの髪が風に乱れている。青ざめた表情は沈み込み、一歩ごとに残った力を絞り出すような足取りだった。
「メイおばさん!」
掠れた声で、私は力の限り彼女を呼んだ。
その場で足を止めたメイおばさんの体が、一瞬強張った。それからゆっくりと顔が上がり、視線が真っすぐに私を捉える。長く感じられる数秒の間、どちらも言葉を発さなかった。
瓢箪が、静かに地面へ置かれた。
そのあと彼女は、迷いのない足取りでこちらへ歩み寄ってきた。まだ力の入らない体を無理に持ち上げ、震える膝で立ち上がる。距離が縮まるにつれ、胸の中で暴れる何かを抑えきれなくなっていった。
こらえていたものが、一気に崩れ落ちた。
「メイおばさん……」
残りの距離を駆け抜け、私はそのまま彼女の胸に飛び込んだ。肩口に顔を埋めると、土と川の水の匂いがかすかに香った。堪えきれない涙があふれ、激しい嗚咽が続いた。
なぜこれほど涙が止まらないのか、自分でも分からなかった。無事に帰れた安堵かもしれない。あるいは、メイおばさんに見放されるのではという恐れを押し殺してきたせいかもしれない。理由がどうであれ、今こうして腕の中にいるという事実のほうがずっと大切に思えた。
腕が、力強く私を抱き返してきた。かすかに震えるその体から、彼女も同じ何かをこらえているのが伝わってくる。
「ジア……」
震える声で名前を呼ばれ、語尾は今にも崩れそうだった。続いて小さな嗚咽が漏れ、涙を流しているのが私だけではないと知らされる。
「ごめんなさい、おばさん……」
途切れ途切れの声で、その言葉だけを絞り出した。
メイおばさんの手が私の頭をゆっくり撫でた。幼い頃から変わらず、それだけで安心できる優しい動きだった。
「やっと帰ってきたね……」
抑えきれない安堵に、なお嗚咽が混じっていた。彼女は深く息を吸い込み、少し間を置いた。
「本当に心配したんだよ。」
その一言で、涙が再びあふれ出した。
「昨日は一晩中帰ってこなかったんだから」続く声は、単なる心配以上の何かを押し殺しているように震えていた。
「ごめんなさい……」
その一言しか出てこなかった。積み重なった不安を償うには、どんな言葉も足りない気がした。
「一日中、探し回って待ってたのに」
答える言葉が見つからず、私はただ肩に顔を押しつけて泣き続けた。罪悪感が胸を何度も殴りつけた。
「何かあったんじゃないかって……」
その一言に、涙は再び決壊した。荒れた手のひらが再び頭を撫で、優しさの中に確かな強さが宿っていた。
「もういいから……帰ってきてくれれば、それでいい。」
抱きしめる腕に力を込め、この瞬間を一秒でも手放したくないと思った。恐怖も罪悪感も積み重なった疲労も、すべてを経たうえで初めて訪れた本物の安心感だった。
橙色に薄れていく夕焼けに包まれながら、私たちはテントの前でしばらく抱き合っていた。
だが嗚咽が静まりかけたその瞬間、森の奥から長い遠吠えが響き渡った。昨夜、あの赤い瞳の存在に出会う直前に聞いたのと同じ種類の声だった。
抱きしめられた腕の中で、メイおばさんの体が一気に強張るのが分かった。




