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5.フォートレス・ブラッドの戦い

夜明け前のことだった。

一番槍で突入してきたのは、白銀の鎧の男。

聖剣が、日の出前の薄闇の中で淡く光っていた。


「退け!俺の邪魔をするなら斬る!」


勇者レオン・ヴァルハラ。


門番の魔族兵が剣を構える。

レオンは速度を落とさなかった。


一歩、二歩——三歩目で剣が閃き、門番は吹き飛んでいた。


「レオン、待って! 後方の確認が——」


後ろから、弓を背負ったエルフが走り込んでくる。


ミリア。勇者パーティーの弓使い。

長い金髪を後ろで束ねた、細身の女性。

走りながら矢を番え、城壁上の魔族兵を二人、立て続けに射落とす。


「確認は俺がやる。ミリアは後方を頼む」


「だからそれが危ないって言ってるのよ、いつも! ……本当に、死にたがりなんだから」


ミリアが舌打ちしつつも、目が心配でいっぱいだ。

レオンは小さく肩をすくめただけ。

中庭に飛び込むと、待ち構えていた魔族兵の一隊——二十人以上——が一斉に槍を構えた。

守備隊長ガルドの部下たちだ。

ガルドは後方で歯を食いしばりながら叫ぶ。


「包囲しろ! 一人だ、恐れるな!」


包囲が形成される。

三方向から、槍が迫る。


「……邪魔だ」


レオンは聖剣を正眼に構え、そして。

踏み込んだ。

一人目、二人目、三人目——

剣が閃くたびに、魔族兵が弾き飛ばされる。

聖光が剣に宿り、触れるだけで魔族の体を内側から焼く。


「な、なんだこいつ……!」


恐慌が広がる。


魔族兵の後方に、大柄なドワーフのボルグが突進してきた。

巨大な両刃斧を振り回しながら、魔族兵の包囲を外側から崩していく。


「レオン、俺が割り込む! 真ん中に穴を開けるぞ!」


「わかった。左を頼む」


二人は、言葉少なに連携した。

ボルグは斧を振り上げながら、ニヤリと笑った。


「終わったら酒だな! 俺の故郷の麦酒、持ってきたぞ!」


後方では、エレナ——人間の魔法使い——が詠唱している。


「聖光の壁、展開……!」


その瞬間、魔族側の魔導砲が火を噴いた。

激しい炸裂音が鳴り響く。

だがエレナの結界が砲弾を弾き、パーティーには届かない。


「砲台を潰してください、ボルグ!」


「わかってる! エレナ! お前詠唱遅ぇよ!」


エレナが眉をピクッと動かす。


「遅いのはあなたの突進が無茶だからです。次は私が先に結界張ってから突っ込んでくださいね?」


ボルグが魔導砲台に突進し、斧一振りで叩き壊す。

中庭に静寂が訪れた。


立っている魔族兵は、もういない。

ガルドが歯を食いしばった。


「ここは、まだ落ちておらん……! まだ奥に兵が——」


「守備隊長」


レオンが、将軍ガルドの前に立った。

2メートルに届こうかという大柄な獣人将軍と、対等に向き合っている。

ガルドの方が頭一つ以上大きいにもかかわらず、圧は互角だった。


レオンは静かに告げる。


「降伏しろ。無駄な血は流したくない」



~魔族帝国、影の玉座~


転生から二日目の朝。


玉座の間に差し込む光は淡く、空気は静まり返っていた。


「陛下」


リリアが膝を折る。


「北方要塞フォートレス・ブラッドより急報です。勇者が防衛線を突破。現在、中庭で交戦中」


ヴォルドは玉座の肘掛けを指で叩いた。


「その情報、どうやって得たんだ?」


リリアが一瞬だけ目を上げる。


「前線からの伝令と、城壁上の監視魔術です」


「それだけか?」


「……それだけ、とは?」


ヴォルドは静かに言う。


「俺は戦場を見られないのか?」


やがてリリアが答えた。


「魔視水晶がございます。玉座の裏間に」


「使えるのか」


「はい。ただし——」


リリアはわずかに言葉を選ぶ。


「膨大な魔力を必要とします。」


「遠方を“視る”だけでも負荷は大きく、通話まで行うには高位の魔法使いでなければ制御できません。陛下と私ほどの者でなければ扱えませんでした」


「機能は?」


「遠視と通話。それ以上はございません」


(だいぶ不便なスマホだな。)


ヴォルドは立ち上がる。


「案内しろ」


玉座の裏間は薄暗く、中央に巨大な黒い水晶が据えられていた。

人の背丈ほどもある。

内部に赤い霧が渦巻いている。


「フォートレス・ブラッドの指揮官は?」


「将軍ガルド。接続可能です」


「接続してくれ。」


リリアが水晶に手を触れる。

魔力が流れ込む。

水晶の霧が震え、やがて映像が浮かび上がった。


砦の中庭。

崩れた石壁。

そして——


白銀の鎧。


聖剣が閃いた。

魔族兵が弾き飛ばされる。


一撃。二撃。三撃。

速い。力任せではない。


ヴォルドは無言で見つめる。

「将軍はどこだ?」


大剣を構えた巨躯の獣人が、勇者の前に立ちはだかる。

怒号と共に踏み込む。

剣と剣がぶつかる。

衝撃で周囲の石畳が砕ける。


互角——ではない。

ガルドの体勢が崩れ、聖剣が鎧を裂く。

血が散る。


ヴォルドは顔をしかめる。

「この砦は持つか」


リリアは答えに迷い、やがて言った。

「……厳しいかと」


(だよなぁ。)

「指示はどう出すんだ?」


「陛下の魔力を媒介に、水晶を通して将軍へ直接通話が可能です。ただし維持には相応の魔力が必要です。」


「接続は保てるかな」


「私が補助します」


「維持してくれ」


水晶の中で、ガルドが膝をつく。

勇者が剣を振り上げる。

止めなければ死ぬ。

だが、ヴォルドの思考は別の場所にあった。


(砦は落ちる)


それは確定だ。


今から増援を送っても間に合わない。兵を投入すれば、損失が増えるだけ。

では何が痛い。

砦の陥落か。違う、将軍の戦死だ。


経験ある指揮官の喪失、北方軍の士気低下、損失は連鎖する。


水晶の中で、レオンの聖剣が高く構えられる。


「将軍ガルドに接続」


魔力が水晶を通り、戦場へ走る。

ガルドの動きが一瞬止まる。


『……陛下?』


「撤退準備をしろ」


『何を……』


「フォートレス・ブラッドは放棄する」


リリアが息を呑む。

水晶の中で、勇者が踏み込む。

刃が目前に迫る。


ヴォルドは決断した。


「勇者に告げる。停戦を提案する」


魔力がガルドの水晶を通り、戦場全体へ響き渡る。

声だけが、煙と血の匂いの中に届いた。


『魔王ヴォルドが――停戦を提案する』


聖剣を構えたまま、勇者レオン・ヴァルハラが顔を上げる。


『魔王が停戦を口にするなど聞いたことがない』


その声は、怒りよりも深い困惑に満ちていた。


『お前は……本当にあのヴォルドなのか?』


ヴォルドは小さく笑った。

声だけが、再び戦場に届く。


『俺はヴォルドだ。だが、以前の俺とは違う』


沈黙。

やがて、勇者の声が低く返ってきた。


『……条件は?』


——外交という刃が、抜かれた瞬間だった。

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