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4.戦えない魔王

黒崎こと、魔王ヴォルドは玉座から立ち上がった。


「リリア。ひとつ聞く」


「はい、陛下」


「俺は、どれほど強い?」


一瞬だけ、リリアの瞳が揺れた。


「……魔力量だけで言えば、この大陸に並ぶ者はいません」


「量だけで言えば、か」


ヴォルドは右手を軽く掲げた。


「魔法の使い方を教えろ。簡単なものでいい」


「危険です」


「確認だ」


短い沈黙のあと、リリアは頷く。


「では、掌に魔力を集め、形を固定するだけで。放出はなさらないでください」


ヴォルドは目を閉じる。


「陛下、魔力の流れを感じますか?」


「あぁ」


体の奥底に、海のようなものがあるのを感じる。


意識を向けた瞬間――


ごう、と。


玉座の間の燭台が一斉に吹き消えた。


空気が震え、石床が軋む。


黒崎の掌に、白紫の光が凝縮される。


だが。


「……っ」


骨が軋む音がした。


皮膚の下で何かが暴れている。


血管が浮き上がり、指先から血が滲む。


「陛下、止めてください!」


リリアが叫ぶ。


ヴォルドは歯を食いしばった。


蛇口を少し開けただけのはずだった。


だが、出てくる水圧が異常だ。


制御しようと締めれば締めるほど、内側から管が破裂する。


「く……そ……」


次の瞬間、掌の光が弾けた。


爆ぜた衝撃で玉座の背が砕け、黒崎の体が壁に叩きつけられる。


鈍い音。


静寂。


リリアが駆け寄る。


「陛下!」


黒崎は床に片膝をつき、血を吐いた。


腕の皮膚が黒く焦げている。


「これが……今の俺か」


リリアは唇を噛んだ。


「前の陛下は、あの力を制御するのに十年以上を費やしました」


「十年?」


「幼少期から、毎日、魔力を絞る訓練を。暴走すれば自らの肉が裂ける。何度も死にかけました」


黒崎は笑った。


「根性論か」


「違います。技術です。魔力回路を編み直す技。体を壊しながら、少しずつ慣らしていくしかありません」


黒崎はゆっくり立ち上がる。


腕は震え、視界も揺れる。


北の空では、まだ淡い光が瞬いている。


勇者がいる。


「十年かかるなら」


彼は血を拭った。


「帝国は先に滅びるな」


リリアは何も言えない。


「つまり俺は、最強の武器を持ちながら、引き金を引けば自分が死ぬ状態ってわけだ」


沈黙。


黒崎は低く笑った。


「いい。分かった」


彼は折れた玉座の背に手を置いた。


「なら、使わない。少なくとも今はな」


「陛下……?」


「力でねじ伏せるのは最後だ。それまでに終わらせる」


北の光が、一瞬強くなる。


黒崎はそれを睨んだ。


「十年も待たせる気はない。勇者」


その目には、初めて明確な焦りがあった。


そして、それ以上に――


計算。

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