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望月と少年の非日常譚  作者: 義春みちを
4章 ループ・ザ
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4章10話:飽く無く繰り返し

 やはりまた、森を前にして立ち尽くしていた。毎度のことだが、ここで終わらせなくては行けない。


 三度目の正直、という言葉がある。二度繰り返したのだ。予習は完璧、あとは実力が届くかどうか。ウツキ1人では届くなんて思う事すら烏滸がましい程の戦力差。しかし今回は尽くせる手は尽くしたし、戦力もこれ以上無い。魔法の特訓だって欠かしていない。


 二度あることは三度ある。失敗癖が、諦め癖がついてしまったら。何かの見落としがあったなら。


「…駄目だな、俺は」


 指先が小刻みに震える。勿論武者震いなんてかっこいいものなんかじゃない。ただウツキでもその震えの意味を知る由はなかった。

 自分なんかの事だ。きっと仲間のためなんかじゃない。みんなを失うのは怖いし悲しいし、その為に動いている。でもそれよりすぐさま鮮明に思い起こせる痛みが、間近に迫り来る死が、終わっても終わらない地獄が、怖いのだろう。


「…最っ低」


 立ち止まる事は許されない、許しちゃいけない、許せない。記憶を、時間遡行を、命を無駄にするな。こんな自分にも居場所をくれた人達に報いるのだろう?


自分を奮い立たせ、また一歩を踏み出した。


□ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □


 敵は現状2体。


 大きいツギハギの獅子———キマイラ。

 炎を吐き、森を焼き尽くす。襲いくる理由は快楽殺人、考えても無駄。マオ単騎、ソルティアが同行したとしても勝てない。


 黒く輝く鱗を持った9つの首を持つ竜———仮にヒドラとす。

 異質な唾液を垂れ流す。1回目のループでは見かけず。2回目ルナティアが謎の死を遂げた。関連性は不明。勝ち筋不明。


□ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □


 単騎で突っ込んでも仕方がない。

 それでも今1人で行動するのは、事前に位置を把握する魂胆である。ただでさえ注意してみなければ景色の変わらない森の中なのだから、せめて目印になるものだけでも欲しい。


「そもそもいつ現れるんだ…?昼回った後には確実にいるけど。それよりも何処から、どこに潜んでいたんだ…?」


 この世界の時刻はわからないが、現在恐らく午前10時ごろ。前回の正午ごろにはヒドラとキマイラが存在していた為、2時間前の今出向いた訳だが。


「…なんの変哲も無い。」


 このまま何年も姿を変えない、不変的な森にしか見えない。炎の海と化したのが夢幻だったかのような穏やかな自然が広がる。


 これが続くのならば良かったと言うべきだが、2度も惨劇が起きたのならば避けようの無い未来なのだろう。なんの成果も得られず、状況は好転しなかった。


□ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □


「ルナティア、昨日話した事なんだが…」


「出撃ですか。わかりました、行きましょう」


 どこかに向かって歩き始める彼女の背を追う。少し待つかの様に歩みが減速し、ウツキと横に並ぶ。

 昨日同様、問答無用で察し承諾したルナティア。昨日と違うところがあるとすれば、テンションが目に見えて低い事だろう。


「…やけにテン下げじゃんか。昨日の元気ハツラツルナていはどこ行ったよ。」


「昨日がおかしかっただけです。別に、普段通りにお姉様は凛としていて素敵と思う反面寂しいなんて微塵も思っていませんから。いつもと変わらないというだけのことです。」


 その言葉だけで何か察せられるものがある。

 口ぶりから今日は特別な何かは無かったのだろう。昨日の反動と落差によって通常運転、もしくはそれよりも幾分か下回った空気を纏っている。


「ほんっとにわかりやすいよな」


 背筋を伸ばし、目を伏せ、公私を完璧に分けたような姿勢でいる彼女は、最上級の王宮で完璧に躾けられた侍女にしか見えない。もしかしたら自分の感情を押し殺して無心で働くほうが、彼女にとっては楽なのかもしれない。


 廊下の窓から陽が差しては彼女の顔に影を落とす。

「…マニャーサへと足を運んだ際、初めは頼ってくれませんでしたよね。今回初めから頼っていただけて、必要とされているのが」


 言葉の先が気になり彼女の横顔を見るが、物憂げな表情をするばかりで、出かかった言葉は飲み込まれてしまった。 


「…」


「…どったの?」


 詰まった言葉と同時に歩みを止め、視線を落とした。手をきちんと下腹部で抑えど、表情までは機械仕掛けの様では無かった。


「頼ってばっかじゃ申し訳ないってのが本音。」


 一度頼っては堕落していくから。きっとなんでも頼り切ってしまう、そんな気がした。今まで何も成せない、成してこなかった自分がさらに甘えてしまったら何が残るのだろうか。折角の異世界、新天地。良い区切りだと思っていた。


「でも、」


 1人の手からは全てこぼれ落ちた。ウツキは1人じゃ生きられない。全てを投げ打ってまで守りたい1人の少女すら守れない。


「頼っても良いなら脛の骨の髄までしゃぶりつくすけど」


 指をわちゃわちゃと動かし、ルナティアの方を見る。

 彼女はただ目を丸くして、ため息を吐いて。


「…もう。まったく、ばかなんですから。」


 と苦笑した。

 彼女の素の感情を引き出せたようで、少し自分の口角まで上がった気がした。


「ええ、貴方は1人じゃ何も出来ないでしょう?私、このルナティアが、ウツキ殿の望みに力添えします。」


 寸分狂わぬカーテシーを見せるが、顔をあげてからはやはり人間らしさを消し切れていなかった。


□ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □


 過去最多数、5人で森へと入った。これでダメならば八方塞がりといったところだが、連携すればなんとかなると信じたい。


「本当に2体の魔物がいるの?」


「居ないなら居ないで良いではないですか。ヴィオラ様も今日のご予定は特段ないと伺っていますが。」


 ソルティアが淡々と言い放つ。片割れとは違い、人間味の無い機械仕掛けのようだった。事実だけを述べ、寸分狂わぬ振る舞いをし、余計な事はしない。


「そうですね。お姉様のおっしゃる事はご尤もかと…。戯言だとしても『万が一』というよりは、安心できる中で読書に勤しむ方が気も楽かと思います。」


 ウツキか『お姉様』のどちらをアシストしたのかは定かではないが、ヴィオラを宥めようとしてくれている。納得したのか諦めたのか、ヴィオラは何も話さない。


 前回、前々回よりも早くきたからだろうか。敵影が確認できない。

 過去最多数、5人で森へと入った。これでダメならば八方塞がりといったところだが、連携すればなんとかなると信じたいところだが。


 不意にジャージの首根っこを引っ張られる。


「ごえっ…、

 な、なんだよこんなことしてる場合じゃ」


「ほんっとうに、人間ってのは愚かね。わからないワケ?」


 ウツキ以外———人間以外が全員顔を顰めている。


「信じざるおえなくなった」


 深蘇芳の少女はまたしてもどこからか本を取り出す。


「ウツキ殿、人間にはわからないのかもしれませんが血の匂いがしているんです。それも濃い匂いが。」


 それを聞いて足が動いた。決して速くないどころか遅い部類だが、それでも動いていた。別に仲間がやられたわけじゃない。みんなここにいる。リリレヴァだってきっと留守番をしてくれているはずだ。血の正体は敵なのか、はたまた知らない人物なのか。なんにせよ確認しなくてはならない。


「ルナティア」


「はい。ヴィオラ様、失礼致します。」


 萌葱色のメイドは呼びかけに間髪入れずに幼女を抱き上げ走り出す。歩幅の問題や、魔導書行使の面からしても抱き抱えられていた方が効率がいいのだろう。そう言う点において、体型や合理的な考え方など魔法の申し子と言うべき存在なのかもしれない。


 人間よりも身体能力が勝るのだから、人間の中でも足が遅いウツキの隣に一瞬でルナティアが追いつく。


「ウツキ殿が単騎で飛び出してなんになるって言うんですか。血の匂いがすると言うことは、何かしらの危険があるってことなんですよ?ちゃんと理解しているんですか?」


「わ、分かってる…つもり…」


 どれほど走ったのかわからない。特異な光景はいくらすすめど見当たらず、皆の嗅覚を疑いたくなる。もしくはウツキがそれほどまでに走っていないのにくたびれているのか。


「ウツキ殿は分かっていません。自分の弱さと、世界の残酷さを。なぜ普段からそんなにも楽観的でいられるんですか。どうしてそんなにも明るく振る舞っていられるんですか。…人間だからですか……?」


 その場に静寂が訪れる。質問された側であるウツキが走りながら喋れるほど余裕がないのもあるが、その質問を投げかけた意図が分からず何も言えなかったと言うのが大きいだろう。


 ピシャリと靴を何かが濡らした。靴は赤黒く染まっていき、やがて足にも不快な感覚が染みてくる。


「ひッ…」


 その感覚の気色悪さと嫌悪感で短い悲鳴が喉から飛び出た。


 血の流れる大元を視線で辿る。

 最初は狼かと思った。ここいらに生息しているのは異世界に来た直後に体感済みだったのもある。狼ほどの大きさの塊が血を流している。


「…ちがう……」


 広がる赤黒い水溜りとは対照的で龍の髭のように白く輝く毛束が散り散りに地面へへばりついている。目は瞳孔が開いたまま黒く濁り、光を通さない。


「あの時の…」


 ルナティアも声を漏らした。か細く、消えるような声で。


□ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □


 小さい子供というものは可愛く見えるらしい。ベビーシェマと呼ばれる特徴を持ち、大人などの力のある者の庇護欲を刺激して自分を育てさせる。


 ウツキはそうは思えなかった。仕方ないのはわかるし、電車の中でさえ特段何も気にならないぐらいには嫌いではない。しかし、好きにはなれそうもない。こんなことを言うのはなんだが、意味の繋がらない独自の定理を相手に押し付け、それが破綻すると甲高い声で泣く。楽しくても悲しくても怒りが沸いても力の限り鳴いて泣く。


 声変わりも知らない程高い声が鼓膜と脳を劈き、何もしていない自分に被害が被るのなんて理不尽にも程がある。


 それよりも出来ないから泣くというのが自分と重なって、嫌いだった。泣けば正当化されるのが妬ましく、幼子よりも劣った自分の劣等感を何処にもぶつけられないのがもどかしかった。


 だから好きにはなれない。そう思っていた。



 しかし、可愛いと思えるような子らを見つけた。

 無造作にも美しい、雪のような純白な髪。丸みを帯びた豊頰。ぱっちりと開かれた深い青の瞳。硝子細工のように繊細な小さな体。


「はな…、うの…………?」


心が締め付けられた。可哀想だと思えた。


 以前うのと名乗った幼子は、もう1人の子供はなにのしかかったまま息絶えていた。肋が複雑骨折を起こし、2人分の腑が混ざり合う。強く握り合っていたであろう手は力無く重なるだけとなっていた。白く細い腕に、鮮明な赤が伝っていく。


 石膏像にも見える、芸術作品のような無機物なのに、ウツキは吐き気を催していた。

 その場にへたり込んで、地面を凝視する。しかし土がどうだとか、虫が歩いているだとかの情報は何も脳に入ってきてはいなかった。喉が焼けるように痛い。また新たに脳に焼きついた。


「ぉえッ…」


 思わずえずいた。吐きそうで、気持ち悪くて、頭痛も存在を主張しているのに、吐くことすらままならない。

 

「…この数を、子供だった2人で…?」


 ルナティアは驚愕の声を漏らした。あたりに散らばっていたのはうのとはなの亡骸だけでなく、多種多様な魔物の死骸も山のように転がっていた。頭が異形の鹿、角の生えた狐、他にも様々。そのどれもが異質な見た目をしていて、そこらの動物とは毛色が違うと直感で感じる。


「…っ。そもそもなんで……ここ、に…」


 息を整えながら、絞るように疑問を溢す。


 そもそもこの子らは何者なのかがはっきりとしない。誰と勘違いしているのか、ウツキを父と仰ぎ接する、普段何処にいたのかもわからない存在。

 実力が十分なのはこの目で見た。だからこそ心の何処かでは警戒していた。

 あの時戦っていたソルティアを宥めたのは、これ以上は彼女自身が危なかった事の他に、触らぬ神に祟りなしといった部分が大きかった。力を持っていて、腹の内が探れなかったから、できれば関わりたくなかった。


 何故ここで倒れているのか。


「…ウツキ殿。無情と思われるでしょうが、ここは放っておきましょう。その、精神的に参ってしまっているのはわかりますが…失われた命は戻りません。今は被害を抑えるのが最優先です。」


 ルナティアはハンカチでウツキの頬を拭った。


「…ぁ?お、俺…なんで……」


 1度会ったことがあるだけだ。それ以上でもそれ以下でもなくて、名前以外何も知らない。

 何故か自分に懐き、慕い、助け合うかのように事切れているのを見ただけの。


「…はは、俺ってほんとに流されやすいのな。」


おはこんばんちゃ、みちをです…

皆様、2週間ぶりでしょうか…。本当にすみません。

見返すとストーリーの進展もないですね。

回収するかもわからない伏線と裏設定を散りばめつつ、

キリの良い(?)ところまで書き上げました…。


本当に言い訳をするならぁ、忙しいのと持病(?)の悪化と身体を動かしてない故の痛みが酷くてぇ〜…(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)


ハイ、己の怠惰が原因でございます。体調不良なんて気の持ちようです。


書きたいとことか、構想はぼんやりとあるので、

失踪は絶対にしません。どんなに埋もれてでも完結まで持っていきます。

どうか、お付き合いいただければ幸いです…!

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