4章9話:異盧不到
他に戦力になってくれそうなのは、ルナティアとソルティア。といっても、この屋敷にいるのがその2人ぐらいなのでいちいち思考をまとめるまでもない。
しかし、ソルティアの説得はどうするべきか。ルナティアの話題は禁句であるのは前提として、何が交渉材料足り得るのか。
「…みんなの事、何も知らないな」
思えば必死に、リリレヴァと一緒に居たいが故にできる事ならなんでもしようと思っていた。しかし、それは独りよがりで。周りをちゃんと見ようとして居ない。
「これが終わったら、ちゃんとみんなと向き合わないとな。」
「何が終わったら、なんです?」
考え事をして俯くウツキの視界に飛び込んできたのは萌葱色の三つ編みを揺らすルナティアだった。
「…いや、その…なんでもn」
「なんでもない…ですか?そんな顔して、信憑性が無いです。ウツキ殿は非力なんですから、もっと他人に頼るべきです。」
「頼るってたって…もう十分頼ってきたから、気が引けるんだよ…。」
頼るつもりだった癖してこんな建前。自分の首を絞めるだけだとわかっているのに、自分の世間体がそんなに大事なのかと自問する。
「…ふふ」
「な、なんだよ。今日は妙にご機嫌だし…」
いつもは口角は上がっても、目尻までは動かない。あくまでもメイドとしての立ち振る舞いを守ってきていた彼女。それが今日はただの少女のように物腰が柔らかい。
「ごめんなさい、ウツキ殿が難しい顔してるのが面白くって。今日、私は無敵なんです!」
「無敵…と、言いますと?」
「今朝はお姉様がデレてくださったんです、甘えてくださったんです!愛されていると思えるから、私が私を肯定できるから、無敵です。なんでもしてあげられちゃいます。」
こちらを向いて『凄いでしょう』とでも言い出しそうなドヤ顔をするルナティア。いつもよりテンションが高く、釣られてウツキも少し気分が明るくなる。
「…では、先ほどのお言葉に甘えて。今人手…というか戦力が足りてないんだ。すこs」
「わかりました。どうにかして見せます。」
「早ぇよ」
どこから取り出したのかナックルを装着し、その場でシャドーボクシングをしている。
「姉様…?」
大人しくも、どこか温もりのある声が廊下に響く。その主は目の前の少女の髪と同じ、萌葱色の瞳をこちらへ向けていた。
「お姉様…!」
「…客、これはどういう状況?」
「前までの『お客』から悪化してますよ塩姉様」
「は?」
名前と塩対応から塩姉様。適当に呼んでみたがやはり微妙な反応。
「俺が無様にも情けなく助けを懇願してたんだよ。
ほら、俺ってただの人間でその中でも貧弱。吹けば飛ぶようなかか弱き乙女だからぁ」
「納得ね。貧弱で力も能もない役立たずが、有能で強くて可愛くて可憐で美しい姉様に、無様で情けなくて醜悪で貪欲に救済を懇願して居たというわけね。」
「ちょっと言い過ぎじゃね⁈隙を与えたらすぐこれだよ。ひどいなぁ、流石塩姉様」
確かに少しちょけたが、こんなにも言われるとは思わなんだ。
「お姉様は聡明で的確で愛らしくて美麗で強靭で知的で華麗で魅力的で優雅で優美で清廉で妖艶で素敵で綺麗で淡麗で神秘的で清純で」
「…お前の姉まじやべえな」
「………………………自慢の、姉様よ。」
「オイ目を見て言え」
ソルティア自身引いているのか、照れているのかは分からない。しかし満更でもなさそうなのは、その声から嫌悪感を感じ取れない所からわかりきった事だった。
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自室のカーテンを閉め、ベットの上に寝転がった。暗がりの中、目を凝らさないとわからないほどの天井のシミを見つめる。
明日の昼から夕方にかけて、何者かの襲撃がある。この4日間は必死に魔法も練習した。威力が多少上がっただけで、劇的な変化は何も無かったが。
5日間のループに終止符を打つ。3度目の正直なんて言葉があるぐらいだ。きっと乗り越えられる。
「乗り越え…られるよな。」
そう言い聞かせて無いとやっていられない。なんで自分はこんな目に遭っているのか。身に余る様な美少女と巡り会ってしまった罰だとでもいうのか。
徐に手を口元まで持っていく。ただぶつけようの無い自業自得の自分の弱さをどこかにぶつけたくて。
「…治さないとだろ。こんな所リリカてゃそに見られたら」
汚らしいだとか、気持ち悪いだとか言われるに決まっている。たとえ傷を作る所でなく、傷だけを見られたとしても。健常者は傷なんて気持ち悪いとしか思わないのだから。
「ほんと、不器用で気持ち悪い奴。」
異常者なんかに見られたく無い。
それでも、追い込まれてるってポーズを見て。気にかけて、誰か俺を
「死んだら良いのに。」
どんな傷も立ち所に癒えていく。今やそのポーズも取れやしないのだから傷をつける意味だなんて。
それとも本当に異常者になってしまったのか。生を感じるでもなく、ただ意味もなく自分を傷つけて根拠の無い悦に浸る。
それとも自分にさえも嘘をついて『追い込まれてるんだね。辛いね。だから何もしないのも仕方がないね』なんて慰めて欲しいのか。
それともこれは嘘じゃなく本当の感情なのだろうか。そもそも自分の感情ってなんなのだろうか。今何を思って何を考えて、どれを意識的に思って、どれが無意識に思ったことなのか。全てが自分が無意識に作り出した意識的な虚像なのではないか他者と比較しようのない感情というものは何を持ってして証明すれば良いのかそもそも自分以外に感情を持つ生物がいるのか自分がそう錯覚してるだけなのではないか自分とたしゃのかんじるものはまったくちがうものでとけこんでるとおもいあがってるだけでなにもかもちがうのでは
これだから夜は嫌いだ。携帯もパソコンもないのなら尚更。寝れない夜を何度過ごした事か。
明日に向けて休息を取らないといけないというのに目が少し冴えてしまった。じっとしていれば、自分の後ろめたさに押しつぶされそうになる。何も出来ない何もしてない自分がさらに嫌いになる。
いっその事もう一度首を括ってしまおうか。
「…外の空気でも、吸いに行くか」
□ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □
重い玄関のドアを開けた。どこか知らない景色を見たくて、屋敷の裏手に回り込んだ。
月明かりの下をゆっくりと歩く。少し冷たい風が、馬鹿な考えの脳みそを冷やしてくれる。
小さい星々の1つひとつが広い宇宙の中、力強く瞬いている。
そして何よりも、カルデラから漏れる鉱石の輝き。水底の紫の光が乱反射して辺りを淡く綺麗に包み込む。
「ぁ」
思わず声が漏れ出る。
いつも浮ついた感情で衝動的に話している分、冷静になった時に何を発語するればいいのかわからなくなる。漏れ出た声に続きがなかったのはそれだけが理由では無いだろう。
紫が反射して、妖艶にその輪郭を浮かび上がらせる。儚げなその表情と、下を向く睫毛。その場がいつもとは違う魅力を引き出している。
「…ウツキ。眠れないの?」
リリレヴァの透き通る様な声が、見惚れて彼方へ飛んでいった意識を引き戻す。
「…うん。」
水辺に座る彼女は、すぐ隣の地面をぽんぽんと叩く。ウツキはただ流れる様にそこへ座った。
「ここ、私の特等席。夜にこっそりここに来て、ただ星を見つめてる。」
澄んだ空気が綺麗に星明かりを映す。リリレヴァはただ静かに、星空を見上げていた。ウツキも彼女の瞳越しに星々を見つめていた。
「…ウツキは星、嫌い?」
「…嫌いじゃない」
嫌いじゃない。言葉通りの意味で。星にまつわる神話なんかを知っていたらもっと面白くなるのだろうが、あいにくその知識を持ち合わせてはいない。
「突然なんで」
「…星、見てなかったから。そんなにつまんないかなって。」
「星はすごく綺麗だよ」
この世界はとても自然が豊かで美しい。ただでさえ美しい星々がさらに煌めいている。
「星より綺麗なものを見てただけ。」
「そんなものがここにあるの?それって何?」
「秘密」
純粋な彼女から顔を背けた。心音で彼女の声が聞こえなくなってしまうから。
「けちんぼ。独り占めするんだ?」
「…出来たらしたいけどね。」
リリレヴァはウツキが続きを話してくれないことを悟ると、水面に足を伸ばした。
「大丈夫なのか?」
「何が?」
水中でぱたぱたと長い足を揺らす。少し微笑みながら、生まれる波紋を眺めていた。
「ほら、ダンピールだろ?吸血鬼との混血で、吸血鬼は水流を渡れなくて」
足を水面から持ち上げ、その隙間から水が流れ落ちてゆく。濡れた足は光を受けきらきらと輝いていて、美しさを追求した造形物の様だった。
「ああ、浸かってる足首には力が入らないんだけどね。
要するに、水流があると浸かってる部分に自分の意思で力が入らなくなる。浸かった状態のまま、自分では動けなる。石像の様に固まるわけでも、力が抜けて倒れ込むわけでもないらしい。
水流というのもシビアで、水流の無いただの『水』に入っても、少し動けば波紋という『水流』が生まれたならば力が入らなくなるそうだ。
「実質水全般がダメってことか。大変じゃないか?」
「…みんなが助けてくれるから。頼ってばっかりじゃいられないけどね。」
仕方がないじゃないか。生まれつきなのだから。なのにどうして負い目を感じているのだろう。
『それは違う』と伝えて心を軽くできれば。ただ、普段何もしていない外野が何を言ってもだろう。
「俺に出来ることなら、なんでもするから。いや、させてくれ。」
「…なにそれ。ウツキは物好きだね」
きっと誰だってそうするだろう。彼女の人柄を知っていれば、知らなくともこんなにも綺麗な彼女になら。自分はただありふれた中の1人でしかない。
「もっと自分を肯定しても、良いんじゃない?」
ウツキはその場で仰向けに寝転がる。ずっと瞬いているものを見ていると目が疲れてしまうから。それに比べたら淡い光の星を見る。
「…。」
静かに足先が水鏡へと沈んでゆく。
「…わけわかんないよ」
目線を横にすると、こちらを向いて横になるリリレヴァがいた。草原に彼女の髪が白い絨毯の様に広がる。
「肯定するって、何?」
体を丸め、ウツキに問いかける。
「肯定出来るとこって、何処?」
「ウツキはなんで、そんな事を言うの?」
「好きな人が自分が思うよりもずっと素敵な人だって事、知って欲しいから」
言ってやった。もうどうにでもなればいい。今はただここから逃げ出したい。一方的に言い放って、相手の反応だなんてみたくない、聞きたくない。
ただ、ここで逃げ出して変な奴とも思われたくない。平静を装って自分の感情を前に出さず、押し黙る。
「またちょけて」
「いやちょけてるつもりはないんだけど…」
「…信じられない。ほんとのほんとなの?何処が良いの?」
目から涙がこぼれ落ち、草の隙間を縫い土に染みて消えた。
「俺に嘘をつく理由なんて無いし。それに、良いところなんて何個でも言える!」
「…口、では………なっ、なんとでも言える…でしょ。…行動で示してくれなきゃ、信じられないよ」
行動と言われても、ウツキには何をすれば良いのかわからない。ただ彼女を見られれば、あわよくば力になれればそれで良い。この気持ちの目的なんて今すぐ証明出来やしない。
指を絡めたり、口付けをしたり。そんなこと望まないわけじゃ無いけれど、相手の気持ちを蔑ろにしてでもしたくは無い。それに、自分の心の準備が出来ていない。
「私とお出かけして。」
「…え?」
「いっぱい遊んで、時間を共有して…」
日本語における『好き』と言う言葉には、少し違う意味が少なくとも2つ存在する。大きく分けると『親愛』と『恋愛』。さらにそこからラブスタイル類型論だとか派生したりもするが、それを全てひっくるめた言葉が『好き』。愛玩対象として、恋人として、友達として、なんとなく、好き。
これ程までに意味を孕んだ言葉で食い違いを起こさない方が可笑しい話だ。
「友達として、リリカてゃその事が好きな理由を行動で見せればいいの…?」
「…我儘なの、わかってる。面倒臭い性格だっていうのも。」
友達ってなんだろう。新しくできたら古いものは捨てるものの事だろうか。自分と相手の相違が大きな溝となるものだろうか。少なくとも今のウツキはもうそれしか知らない、わからないのだ。
それでも、彼女がどれだけ魅力的なのかを彼女自身に教えてあげたい。
「行こう、何処へでも。楽しい事、面白い事、全部しよう。綺麗なとこ、わくわくするとこ、全部行こう。君が君のことを凄いやつなんだって気づくまで。最高に可愛いリリカてゃそが、最高に可愛い自分を大好きになれるまで。」
宝石の様な瞳が見開かれる。周りの光を集め、より輝かしくなる。
「…なにそれ。」
ぽつりと溢れた言葉。聞き逃すには十分なぐらいに小さな言葉。強張っていた表情は少し和らぎ、何処か安堵が感じられる。
「ウツキ、私と一緒に何処へでも行ってくれる?」
「勿論」
「私と一緒にいろんなこと感じてくれる?」
「こっちから頼み込むよ。」
「私と、」
リリレヴァは少し言い淀む。目を伏せ、白くて細い手をぎゅっと握る。震える声で、絞り出す様に、
「友達になって、くれる?」
「俺は返品不可だけど?」
白群の宝石がウツキの目を捉える。今日1番目がきらきらと反射して、宝石よりも煌めいていた。
「…ばか」
言葉の意味に反して彼女の声は絹の様に柔らかく、重なり合う手の感覚までも温かかった。
おはこんばんちゃ、みちをです。
寝かせて。
迷走中です。大まかな流れは決まっているのですが、この戦いが終わったらどうするのか、キャラクターをどう進展させるかが詰まっています。
タイトルの付け方もかなり迷走…
今回はもう当て字だし。
なんか全て投げ出して小説を認めながら、好きな事だけしていたい…




