4章8話:加勢
マオと共にある人物の元へ行く。マオに同行してもらったのは、1に返り討ちに合わない為。2に説得力を増す為である。
今から会おうとしている少女はヴィオラの事だ。彼女は初対面でウツキの後頭部を殴りつけた幼女。恐らくウツキが単騎で乗り込んでも、話の途中で追い出されて終わりだろう。仮に話を聞いたとして、戯言だと思われて追い出されるだろう。
それに、ヴィオラからの信頼は一切勝ち取っていない。他の面々からも信用はされてないだろうが、ヴィオラは格段に警戒しているだろう。どこから来たのかもわからず、経歴なんて皆無。この世界の伝承に残る様な厄介者と同じ見た目の人間なんて誰がどう考えても怪しい。
「…あらためてリリカてゃそはまだしも、ソルティアとかマオはマジでどうかしてるよな。それとも伝承の『太陽の民』ってそんな野蛮な事してない?」
「土地を侵された太陽の民は、王国を焼き尽くして、国の8割の人々を殺めた。」
曰く、英雄にそれらは滅ぼされた。
曰く、それらは黒い髪と黒い目をしていた。
曰く、それらは人間であった。
「…え、激やばじゃん。」
「御伽噺の人物がそこら辺にいるとは思わないさ。一部の信心深い人を除けば、そこまで他人の外見を気にするような人は居ない。人間かどうかなんて、見た目じゃあまりわからないしね。」
最初にレームルへ行った際、リリレヴァにウサギの耳の飾りをつけられたのは正解だったのかもしれない。マニャーサへと足を運んだ際は、皆———人ではない者———に囲まれていたからか、人間だとは思われていなかった。
「ただ、太陽の民への恐れが無いわけじゃない。ウツキはもっと、用心するべきだけどね。」
「は、はい…肝に銘じます。」
自分1人の時ならまだしも、リリレヴァや他の皆んなが居る時に襲い掛かられては困る。ひと段落したら、髪だけでも隠せる何かを買いに行こうか。
「…先のことよりも今のことを考えないとな。」
そんな事を話している間に、目的の扉と対面する。やはり、ここに来ると気持ちが悪くなる。それには気分的な意図はなく、ただ胃の内容物が吐瀉しそうなだけである。
「マオは平気なのか…?」
「なんのこと…って、ああ。魔力の弊害だ。高密度の魔力を耐性のない人間が吸い続けると、頭痛、吐き気、倦怠感に衰弱死する」
以前ここに立ち寄った際にも似たような症状が出た。いつも通りの立ちくらみが、たまたま悪化したものだと思っていたが、どうやら魔力が濃いということらしい。
「…って、最後聞き捨てならないんですけど。」
「まあ、そんなに吸い続けなければ大丈夫だから。…いずれは慣れてもらわないと困るけどね。」
マオは『耐性のない人間』と言った。薬を服用し続けると効果が薄れるように、魔力も体内に少量取り込み続ければ耐性もつくのだろうか。
魔力とは魔法を行使する際に消費するのが定石だ。それに人間以外が住まうこの館にとって、魔力に耐性がないというのは困ることがありそうだ。どちらにせよ、付き合っていかねばならないのかもしれない。
「…なんにせよ、少しずつ慣れるしかない。とりあえ ずここに来た目的を果たs」
「五月蝿い。」
唐突に目の前の扉が開く。当然、扉の前にいたウツキはドアにデコを強打する。部屋からは野暮ったい目でマオを見つめる幼き少女。
「マオ。これ、どういうこと」
「おはよう、珍しく午前に起きてたんだね。
協力してほしいことがあるんだ。まず、話だけでも聞いてくれ」
少女の態度に動じず、気さくに挨拶を交わすマオ。しかし二言目では一転し、真剣な声色となる。
少女はため息を吐き、扉を閉めずに部屋の奥へと歩いていった。
「ウツキ、彼女の許しが出たみたいだ。ボサっとしてないで行くよ」
「ちょ、ちょっと待てって…」
最後尾に着くウツキは扉を閉める。ちょこんと姿勢良く座る少女は、悪態をつくようには見えない、育ちの良さが伝わってくる。
普段からそうしているのか、置かれた茶器を流れるように取り、茶葉を手早く入れるマオ。少女は何も言わずに、瞼を落としたまま静かにしていた。
背筋を伸ばし、足を揃える丁寧な姿勢。作り物かと疑う程綺麗な深蘇芳の瞳。同じ色の長く伸ばしたツインテール。それに巻きつく蔦と、そこから芽吹く一輪の花。その上じっとして動かないところがまさに等身大の人形と対面しているようだった。
「…何をみているの」
「あ、いや…お人形さんみたいだなと思って…」
「そう。」
再び物言わぬ状態となり、かなり気まずい空気が流れている。
「す、座ってもいいんだよな…?」
返答は無い。座ってはいけないならば、忠告しないと困るのはヴィオラだ。無言を肯定と捉え、少女の座るソファの対面にあるソファへ座る。
そこに、ふわっと果実の香りが香った。目の前には人数分ティーカップが置かれた。
「…ありがと」
ようやくまたヴィオラは動き出し、持ち手を摘んで口元へと運んだ。しばらくはカップを緩やかに回して香りを楽しんでいる様子だった。
「ウツキも飲んでいいよ。」
「…ん。あぁ、おう。そうするよ。」
目の前に置かれたカップに手を伸ばし、持ち手に指をかけた。反対の手をカップ上部に添え、溢さぬように飲む。鼻をくすぐる香りは、どこか落ち着きを取り戻させた。
「美味しい。ありがとな」
茶を淹れたマオは少し微笑み、ヴィオラへと向き直る。
「本題だがヴィオラ、君の力を貸して欲しいんだ。」
ヴィオラは言葉が耳に入っていないかのように紅茶を味わい続ける。それでもマオは続けた。
「君の『魔導作家』の本領を見せてほしい。ウツキが言うには、2体の強力な魔物が森を襲撃するらしい。」
「森…。」
たった二言だけ声を発する。
「…魔導作家ってなんなんだ…?」
「複数の魔法を1つの魔法として行使する為に扱う書物———魔導書を作る者のことだよ。ヴィオラは火、水、風、雷、土の五大元素魔法を扱える上に、組み合わせて行使も可能な、凄腕の魔法使いだ。」
凄腕だとしても、複合して魔法を放つには時間がかかるらしい。その点魔導書は、事前に書き記した魔法を戦場で発動する代物。クールタイム無しに魔法を行使可能な上に事前に魔力を込める為、戦場で魔力を消費して力尽きることが無いと言う。
しかしそれを作る魔導作家は少数な上、高価。どんな高値でも買う者は多くいるので希少らしい。
「…凄すぎるだろ。」
「やっとありがたみが分かったようね」
尊大な物言いに匹敵するほどの実力の持ち主だったようで、初対面での反応を反省する。
「こんなロリなのに」
「ろ…り……???」
聞き慣れない言葉に首を傾げるヴィオラ。きっと意味を知ったら怒るだろうから、教える気なんてないが。
「というか、手の内を勝手にバラさないで」
「ごめん。でも、知ったところで対応策が無いだろ?五大元素魔法以外も扱える上にそれを組み合わせるなんてさ。」
呆れたように姿勢を楽にしてソファに寄りかかるヴィオラ。肘置きに全身の力を委ねながら、こちらを見つめる。
「…小娘の事、どう思ってるの」
「こむすめ…?」
「ヴィオラ、リリィの事を小娘って呼ぶのはやめてほしいんだけど。」
「何十年も五月蝿いわ。ちっこい娘だから小娘。それがなんなの」
気怠げに悪態をつく。しばらくマオと見つめ合うが、埒が開かないと悟り、こちらへと向き直る。
「…で?リリィの事は?」
脱線する前によほど聞いておきたいのか、マオの意思に従って素直に愛称を使うヴィオラ。
「り、リリカてゃそのことは…えと…その…」
「さっさと」
「アッ、ハイ。リリレヴァさんのこと…は、その…
ぁ、愛して…ます…。べ、別に!愛されようだなんて傲慢なこと考えてないんで⁉︎ただ…遠くから眺められればというか……ぁ、ストーカーしたいとかでもないんですけど!ぇと…」
体温が一気に上がり、今にも部屋から飛び出したくなる。
少女はマオの方に目をやり、ジトっと睨む。その意図を察したのか、マオは苦笑して
「ウツキには腹芸なんて無理だろ?無駄に警戒して神経すり減らすよりかはいいと思ってね」
「…怪しい言動は多い。…でも協力してもいい」
一瞬、理解するまでに時間がかかった。何に、誰に、何を、誰が。その思考が一つに繋がった時、溢れたのは歓喜だった。
「やった…」
立ちこめる喜びと共に勢いよく立ち上がる。これで皆が助かるといった安堵により、張っていた気が一気に抜けていく。頭が、重心がぐらっと揺れる。
「…っと、」
目の前のテーブルに手を付き、しばらく動きを止める。
「…ウツキ?」
耳に膜が張るように音が聞こえづらくなる代わりに、電子音にも似た音が耳の中に響く。
「…ぁー、ごめん。いつも30秒ぐらいで良くなる…から。ちょっとまって」
砂嵐のように、黒くなったり、じゃびじゃびとするだけの視界は閉じ、ただ俯く。
普段ならばここいらで止まるはずの耳鳴りが止まらない。
『いつもより長いか…?』と思っていると、急に半身の重みを支えていた右腕からガクンと力が抜ける。
バンッと、大きい音が額から鳴り、それと同時に意識は消えた。
□ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □
揺れている。脱力し切った手が、足が、自分とは何か別の要因で揺れている。
「ん…」
目を開けると至近距離に透明感のある深蘇芳の瞳と目があった。
「近い」
「理不尽ッ‼︎」
素早く頬を叩かれる。それはもう、魔道作家なんてやめて武闘家へのジョブチェンジを勧めたい程に。
深蘇芳の瞳の少女———ヴィオラは足早に前は進んだ。
「起きたかい?」
「ああ。…てか、運んでもらっておいて何だけど降ろしてくれないか…?リリカてゃそに見られたらもうお嫁に行けねぇ。」
「ここで降ろして転倒でもしたら階段が血まみれになりかねないし、大人しく上まで運ばれてもらうよ」
ウツキの恥なんて一切考慮しない、する必要が無いマオは、全面的に要望を却下する。
どうやら現在は地下にある少女の部屋から1階へと戻る途中らしい。そしてウツキはというと、マオの右肩に、干された布団の様に担がれていた。
目眩も体の不調もすでに消えていた。魔力の濃い所から離れたからか、もしくは
「死んでリセットされた…ってんじゃねぇよな…」
傷は消え去り、どんなに苦しもうが一定時間で元通りのこの体はもはやびっくり人間と言わざる負えない。人間と言えるのかも怪しいところではあるが。
思考にうつつを抜かしていると、階段を登り終わったマオがウツキを降ろす。全身に力は入るし、もちろん自立して歩くことも可能だ。
「ごめん、迷惑かけた。このとーり、もう元気十分!モーマンタイ!だいじょうV!」
目の前にピースサインを突き出して、Vの字を作る。二人はウツキに何か返す言葉は無いようだ。マオは明らかに反応に困っているし、ヴィオラに関してはこちらに1ミリも興味を持っていない。
場の空気を壊したことぐらい自覚できなければ、こんな性格にはなっていない。必死に脳を回転させ、2人に共通するものがないか、2人の接点は何処かを探る。
「2人って仲良いのか?それとも従者…?結構心は通ってるぽいけど」
「…付き合いが長いってだけ。」
素っ気ない態度でサラッと言い放つ。目線は言わずもがな、どこから取り出したのかわからない本から動いてなどいない。
改めて見れば、ルナティアとソルティアの間柄を除き、皆の業務的な会話かリリレヴァに関することしかそ聞いたことがない気がしてきた。
「もしかして、ここの屋敷の人達ってみんな不仲…?」
「そんなことは無いけど…。皆リリレヴァに対して深い感情があるからね。」
「リリカてゃそ以外は…?」
「…悪くは無い、と思う。多分。きっと。人数が少ないから話す事も多いし、他の豪邸とかよりかは仲はいいだろうが…」
ウツキが来るまで男1人だったから肩身が狭かったのだろうか。それともやっぱり微妙な仲なのか。歯切れの悪い答えしか出てこない。
「…苦労、してきたんだな」
マオは何も答えはせず、ただ穏やかな表情で遠くを見つめるだけだった。
おはこんばんちゃ
みちをです。
ヴィオラたそ久々の登場です。ヴィオラメイン回でした。用語増やすと分かりにくくなるんで出したくなかったんですけど、『魔道作家』の響きが気に入ったので出しちゃいました。
どんどん強めのキャラが出てくるがまだ序盤…
最後まで戦力は持つのでしょうか⁈そんな先まで発想は尽きないのでしょうか⁈完結はいつになるのでしょうか⁈
次週(?)をお楽しみに(してくださると嬉しいです)!




