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望月と少年の非日常譚  作者: 義春みちを
4章 ループ・ザ
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4章11話:それからこれから

「少しは落ち着きましたか?」


 侍女はただの少年に、幼子を諭すかのような口調で問いかける。自分の情けなさと死んだ白い子供、居場所が不明の敵の事で何を考えるべきなのかわからない。こんがらがり、思考が途切れる。


「…大丈夫だ。……うん、大丈夫、ルナティアの言う通り敵を先に倒すべきだ。止まってられない。」


 目の前でどんどん人が死んでいく。諦めたい。逃げ出したい。

 

 最近になって誰がどれだけ仲間思いなのかが薄々わかってきた。それはきっと、まだほんの一部でしかなくて、想像もできない思いを抱えている気がして。愛するものの為に全霊で尽くせるような人たち。


 死んでほしくない。生きて欲しい。諦めたくない。


 腹の底が重い。今にも膝をついて吐いてしまいそうなほど気分が悪い。それでも彼に呆れられたい、少女に気怠げな目で見つめられたい、彼女に悪態を吐かれたい、彼女の食事を食べたい。


 あの子の笑う顔が見たい。


「改めて考えると俺の扱い雑だよな。もっと労わってもらってもいいんじゃないですか〜?」


「…帰ったら考えておきます。」


 『それ相応のことをしたのか』ぐらい言われると思っていた身からすると意外な反応。皆からの評価の改善が期待できるかもしれない。


「なら、みんなで帰らないとな」


 あいも変わらず隙あらばちょける。それは元来持つ自身の性質と、この空気に耐えかねたものだがウツキは自覚をしていなかった。


「…子供ね」


 見た目だけならば1番言われる筋合いのない少女にそう溢される。ただ彼女の態度や人ならざるであろう部分からは何も言い返せない。何より自分の未熟さは自分が理解している。


「…嘆くのは後だ。ありがとう、ルナティア。冷静に最適解を説いてくれたから俺も気持ちの整理が付いた。…まぁ、整理といっても全部後回しにしただけだけどな。」


「いえ、今だけでも思考がまとまったのならよかったです。それに当然の事をしたまでです。だってウツキ殿は私の…」


 何に遮られるでもなく、彼女自身の意思で押し黙る。

 ポジティブな事を言おうとしてくれてたら、なんて淡い期待を寄せるが、きっとそれは自分の思い描く幻想に過ぎない。

 それを現実にする。できないと分かっていても、それぐらいの心持ちで、マオたちと合流する為に足を着た道へと返す。悲しみはそこに置いたまま。


□ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □


 鈴の音がする。青年のチョーカーに付いた小さな鈴が風に揺れた。音の元を視認し、少し小走りで近づく。


「…ウツキ、どうだった。」


「…多くの魔物が死んでた。それと…」


「私の武器を見繕いに行った際村で発見した子供が、森の中で死んでいました。」


 ウツキが言い淀むと予測したルナティアは即座にカバーに入る。


 実際、そこまで関わりのない子供らの事をどのぐらい説明するか、はたまた『子供』だけで済ますのかを考えていた。

 もし後々ここに子供らがいる事の理由が重要な事だと分かったならば、関係性は事前に伝えておくべきだろう。しかし説明しようが無いのも事実。それをルナティアは簡潔に話してくれた。


「やっぱ俺ってコミュニケーション向いてねぇな」


 自分の、考えた結果横着する癖は早々に治すべきだと再認識した。


「何か言った?」


「いや別にッ!ただの独り言…」


「それなら行くよ。脅威的存在がいるなら対処しなくちゃね。」


 マオを先頭として、ソルティアルナティア、そして抱えられたヴィオラが続く。最後尾に着く形でウツキも後を追う。


「…あ〜、その。単なる感なんだけどさ?」


 いう機会を逃す前に早々に切り込む。


「あの子供らの遺体が残ってたって事は、食べる目的じゃ無いんだろうなって…だから、…アレだ。気をつけないとな…?」


 前回マオは腕を囮に隙を作ろうとした。しかし、肉を食らう事が目的では無い為、千切られた腕は時間稼ぎにもならずに放り投げられた。

 なにが『気をつけないと』だ。それを知るのはウツキだけなのだから、何をどう気をつけろのいうのだろう。


「…?確かにそうかもしれないね。気をつけるよ…?」


 困惑しつつも、言いたい事は伝わったようで何よりだ。


 そんなこんなで話していると、先頭を歩いていたマオが止まる。


「…先に…行っててくれ。僕はここに残る。」


 少し声の調子が落ち、ピリピリとした空気で辺りが充される。遠くの緑が動いたような気がした。それは断じて風で揺れる葉のような動きでは無くて、できるだけ目を凝らしてみる。


「……???」


「ぁ」


 声が上がる。それは日常的で、不意に漏れたような声。街中で知り合いに出会ったかのような、何気無い声。


「やっと見つけたぁ。もぅ、余の手を煩わせないで欲しいんだが?ほらおいでっ」


 後ろで『パンパンッ』と2回音が鳴る。すると、今まで目線の先で蠢いていた何かが颯爽と飛び出した。

 目の前を橙色の物体が、ウツキ達の間を駆け抜ける。決して見えない速さでは無く、ウツキでさえ身を少し引いて回避する事ができた。


 呆気に取られ、その場の全員が無差別に攻撃を行う事はなかった。ただこんな状況で森にいる部外者は、何かしらの形で襲撃に関わっている事は明白であった。


「跪け獣共よ。図が高いぞ?それとも余直々に頭をたれさせて欲しいのか、ん?」


 全員が声の方へ振り向く。煌びやかな衣装に小さな王冠を乗せ、まるで小さな王様かと思わせる容姿。


「…因みに聞くけどさ、この中でアイツと顔見知りな奴、いる?」


 帰ってくるは沈黙だけ。


「…つまりは敵ってことでいいんだな?」


 風で紙が捲られるような音がしたかと思えば、頬を水の弾丸が掠めた。長く伸びた黒髪の端がハラリと散る。


 打ち込んだのは正面の矮星———ではなく、こちらのチビッ子。少しばかり文句を言いたくもなったが、彼女の真剣な表情に水を差すこともできなかった。


 着弾した弾はバシャリと着弾面から弾けていく。目の前のそれはとてつもないスピードで放たれたものを顔面で受け止めた。

 

「チッ…」


 背後から舌打ちが聞こえた。


「あのさぁ。お前らみたいな屑共が余に勝てるわけないであろう。山すらも踏み台とす余に、積もるほどもいないお前らが勝てるわけないであろう。」


 ゆっくりと魔物が目の前の人物に這い寄る。ただ襲いかかる事はなく、虎視眈々とこちらを伺っているように見えた。


「この子らもっといたはずなんだけど、餓鬼共にころされちゃってさぁ。」


 周りを自分のペースに巻き込むように、余裕綽々と話し始める。気だる気な態度は変わらず、ただ己が中心に話すことが当たり前かのような話し方で。


「少しばかり、よろしいでしょうか。」


 それを遮った———そこに終止符を打ってくれたのは萌葱色の侍女、ルナティアであった。彼女は警戒しながらも物怖じせず、対抗するかのように毅然とした上で礼儀正しい歩き方で距離を詰めた。

 クラシカルスタイルの厳かなロングスカートを掴み、カーテシーをする。半月のような形になるスカートは雇い主の気品を感じさせる。


「わたくしはソーカミキ家専属、食事奉仕護衛担当侍女、ルナティアと申します。僭越ながら、お名前と本日はどういったご用件でいらっしゃったのかをお聞きしてもよろしいでしょうか。」


「…まぁ及第点だな。余は寛大だから、答えてやるとしよう。」


 丸い耳をピクリと動かし、


「余の名はレオ。全ての獣を従え、いずれは一等星———全ての頂点に君臨する王となる女。今日ここへ足を運んでやったのは命を受けた為。」


 スラリと伸びた足が強調されるオー・ド・ショースを履き、足先は大型の獣のように力強い足。胸元にはヒラヒラとジャボを付け、何処ぞの中世貴族かと言わんばかりな服装をしている。


「不躾ですが、そのような煌びやかな格好で『命』とは…?」


「いいであろう。お前のような頭も足りぬ輩に余は説明をしてやろう。我は『いずれは』一等星となると言ったであろう。お前らには負けぬとしても、さらに上がいるそれまでよ。無策で格上に突っ込んでいくような脳筋馬鹿ではない。頂戴した命はこうよ。」


———黒色の人間、白銀の吸血鬼の始末。


「…ええ、よくわかりました。情報提供ありがとうございます。その礼といってはなんですが…食事奉仕護衛担当のわたくしがおもてなしさせていただきますわ。」


 最後の一言。それを聞いたレオが飛び蹴りを喰らわす。


「是非、愉悦の極意まで案内していただこう。因みに余は貴様のような小動物が食物連鎖に飲まれるのを見るのを愉悦とするが…」


「ええ、勿論連れて行きますとも。家畜の餌箱でも地獄の淵でも何処へでもッ!」


 レオが強力な爪で襲いかかる一方、ルナティアは殺傷能力の上がったナックルで殴るしか無い。爪は深く食い込めば致命傷になりかねないが、ナックルでは何発も叩き込み、ようやく意識をなくせると言ったところだろうか。ルナティアの力は決して弱くは無いし、日常生活で力不足に悩むことなんてまず無いだろう。それなのに相手は大きく吹き飛びやしない。

 しかしルナティアが特段不利というわけでもなく、爪の攻撃を腕や足など直接触れないように弾いて躱している。


「もう姉様は…ッ!マオ、私は姉様を援護するわ。周りの獣の警戒もしないとだし、先に行っていなさい。」


 撫子色の侍女も飛び出し、周りの獣達の注目を自身に集める。素早い動きで飛び回りながらも、ルナティアの邪魔にならないよう、器用に隙間を縫っている。


「2人の間に入ればかえって彼女らは戦いにくくなる。ここは2人任せていこう、まだ敵がいるみたいだしね」


 飛ばされたソルティアをルナティアが受け止めてその勢いのまま投げ返したり、攻撃を防いだ後の切り返しなどに互いを上手く利用しあっている。これを阿吽の呼吸と言わずして何というのか、と言いたくなるような身のこなし。ここに心の通わない———彼女達ほどの信頼や互いを熟知した関係を持たない者が助けに入ったとしても戦いにくいだろう。

 マオの言う通り、他の敵を探して叩くのが先決だろう。


「絶対、戻ってくるからな!」


 声をかけることぐらいしか2人にしてやれることはなかった。



本当に遅れましたみちをです。

最長記録更新してしまったんではないでしょうか。3週間も空いてしまいました。

それなのに物語の進展が全く無いという…

ここいらの話いつから書いてるんだ…

来週には一区切りつけるつもりです。



まあ来週というか次回()

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