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望月と少年の非日常譚  作者: 義春みちを
4章 ループ・ザ
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4章 4話:近づく結末


現在、協力者してくれそうなのは1人。話ぐらいは聞いてくれそうな人を考え、1番に思いつくのはソルティアとルナティア。正直他は見当もつかない。ヴィオラは「馬鹿馬鹿しい」とか言って手伝ってくれはしないだろうし、キョウカとオウミョウのいる村は遠いし、流石に頼りすぎだ。ハナとウノとかいうイレギュラー要素は触れたく無い。そもそも敵かどうか以前に居場所もわからないのだから、頼りようがない。


その結果、ソルティアの居るはずの厨房の前に立ち、意を決して中へと踏み込んだ。

鼻をくすぐる茶葉の香りと厨房に立つ今日の料理人。足音に気づいた彼女が振り向き、クラシカルスタイルのメイド服の裾がふわりと広がる。


「何か用?」


「…今時間大丈夫か?」


「野菜を茹でているだけだから、ここを離れなければ問題ないわ。」


珍しく真剣な声のウツキを聞いて、ソルティアはただならぬ空気を感じ取る。火から少し目を離し、こちらに振り返る。


「突拍子もない話なんだが、5日後襲撃を受ける。それを防ぐために、ソルティアの力を借りたい。」


「本当に突拍子もない話ね。真剣に聞こうとして損したわ。私に客人の尻拭いをしろとでも?」


視線を逸らし、火の番に戻ってしまう。


「火の粉を払いたいだけなんだ…!協力してくれ!」


「わからないわね。どうしてそこまで無条件の交渉ができるの?私のメリットが何もないじゃない。」


彼女は野菜が底に付き焦げないよう、菜箸でかき混ぜながら片手間に言う。興味を示さない反応をされ、ウツキは狼少年にでもなった様なもどかしさを覚えた。


「ルナティアが…死んでもいいのか……?」


ソルティアとは向かいの壁に、何か超常的な力で吹き飛ばされる。背中を打ち、肺の空気が一気に押し出された。何をされたのか理解できない脳は、瞼を開ける様信号を出す。


「何してッ…」


壁に包丁が突き刺さる。その柄を握るのは、桃髪の侍女だ。睨んで切長になった目がこちらを向いている。


「ブチ殺されたいの?そんな事を考える脳を、発声する喉を、その嫌な目をこの包丁でギタギタにしても良いのよ?2度とそんな事を口にしないで。次は無いわ」


尖聲でそう言い放つ彼女の機嫌は、誰が見ようと火を見るよりも明らかだった。





やかんの音で、時が動き始めた。心音だけが響く厨房で、どれほどの時間対面していたのか図る術は何も無い。

ソルティアはふらりと力が抜けたように一歩後ろへ下がった。その場で、まだ何か言い足りなさそうにこちらを睨みつけるが、キリが無いと思ったのかまた台所に戻った。

緊張の走った空気が清み、ウツキはずるずると壁伝いに座り込む。無意識に呼吸が止まっている事に気づき、急いで再開させる。脳に血が巡り、止まっていた思考も回り始めた。


無いにも等しい距離で戯れる2人を見たはずだっま。ルナティアがどれだけソルティアを思っているか聞いたはずだった。ソルティアもきっと同じぐらいにルナティアを思っている。それぐらいの事、容易に想像出来たことだ。自分の愚かな発言を慚愧(ざんき)する。


「ごめん、言葉を選ばなかった。」


返事は無かった。これ以上無駄に言葉を交わせば、怒りを買うだけだろう。何を言っても今の彼女には火に油———無駄な言葉だ。そう悟ったウツキは厨房を後にする。


静まり返った厨房の壁には、包丁が刺さったままだった。


□ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □


「他に頼れるのはルナティアぐらいか…。正直後が無いな。ここで拒絶されたら…」


 火の海と化した森が想起される。無機質な彼らを見た。声がしゃがれて、音にならない叫びを聞いた。今まで生きてきた経験からの拙い読話、彼女は「逃げて」と言っていたような気がした。涙さえも蒸発する炎の渦で、他人を思うお人好し。


「…死なせたく…ねぇなぁ…」


何の為に戻ったのか。それを改めて思い出す。少し拒絶されたぐらいで、へこたれては居られない。腰に付けた剣を撫でる。この剣に恥じないように、この剣をくれたあの子に顔向けできるように。


「…剣、肌身離さず持ち歩いてるんですね。」


突然背後から声をかけられる。声の主は、探していたルナティアであった。


「ああ。カッケェだろ、この剣!真っ白の剣に紅い宝珠!柄の部分も包帯巻いただけってのが、逆に良い!」


「あまり一般的な形では無いですけど、良いと思います。ただウツキ殿には宝の持ち腐れですし、見た目も似合いませんね。」


切れ味の良い言葉がウツキの心臓を突いた。確かにその通りではあるのだが。そもそも、ジャージ姿に剣が見合わないような気がする。


「そ…そそ、それは今からこの剣に見合う男になるの!!!」


『説得力の無い』とでも言いたげな目線がまたもや突き刺さる。確かにマニャーサではただの指示厨で、村では真っ二つにされただけ。ウツキ自身は何も戦っていない。


「と、いうか…お洒落で持ち歩いてるわけじゃ無いから…!ほら、神様に捧げたとか、魔除けだとか神格化だとか、自分を奮い立たせる為とか言うじゃん⁈切ること以外にも刀に役割あるから⁈俺の場合後者3つね⁈」


「はぁ。そうですか。それで、なんでこんな所で突っ立ってたんですか?まあ、いつも奇行に走ってるウツキ殿ですから、何を言われても納得はしますが。」


自身の評価が底である事に驚きを隠せない。確かに振り返ると、自分でもよくわからない奇行に走ってなくも無いが。

しかしやっと、本題である『襲撃への備えの提案』ができる。


「るなてぃを探してたんだ。お前の協力がないと…正直詰む。なんて説明すればいいか、わからないんだが…。えっと…」


先ほどのソルティアの二の舞にはしたくない。自分可愛さではなく、あれほど怒るほどの発言をしたくない。言葉選びを慎重にするほど、言葉が出なくなる。


「…な、何でもない!ちょっと変な事言ってみただけだ!ほら、いつもの奇行だよ。」


「嘘。誰からでも分かりますよ。…お嬢様なら騙されるかもですけど。

良いですよ、私を使ってくれて。」


本当に、自分の不器用さを痛感する。他人に気を遣わせる事しか出来ない。もっと明るく振る舞って、誰からも好かれるようにならなきゃいけないのに。


「有難い。有難いんだが…」

理由も説明していないし、」


心当たりが何も無い。どうしてそこまで即決してくれたのか。


「なんでか、聞いて良いか?」


「…貴方が私を、私の居場所を守ってくれたから。私の勝手な行動を、隠してくれた。…私にはウツキ殿が太陽の民かどうか測りかねます。でも、追い出さないでくれたのは、事実ですから。」


あの時何も言わなかったのは、ただなんとなくバレてしまったらまずいと思っただけだった。彼女の立場が悪くなってしまうのではないかと。

身に染みた『自己犠牲で自己満足の悦に浸る』が出ただけだった。自分以外誰も知らないけれど、誰かの役に立てたと、自分を肯定できるようになりたいだけだった。


「赦してほしいなんて言いません。一方的に悪いのは私です。わかってます。

ただ、恩を返したいだけです。」


そんな最低な癖が出ただけ。ウツキにとってはそれだけなのに。恩を着せて、彼女を縛り付けているようで、とても可哀想だ。


「…そう、か。なら、頼みたい」


それでも、頼らなければどうにもならない。そんな無力で傲慢な自身に腹が立った。


□ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □


人手はできる限り揃えた。他にできることと言えば、水魔法の強化。1度に出せる量も、魔力量も足りない。火には水が強いと相場は決まっているのに、まさに焼け石に水であった。

マオが言っていたように、何度も使う事で魔法の質を向上を促す。


ひたすら水魔法を繰り返して4日目。その日もカルデラの水に向かって魔法を放っていた。


「訓練、お疲れ様です。買い出しの時間ですよ。」


「『お疲れ』って言う割には労わらねぇのな。」


「明日はダメだと言ったのはウツキ殿の方です。さっさと買い出しして、さっさと寝ましょう。明日に備えて。」


5日目———明日に森が燃える。前回は買い出しから戻ってくる際にもう燃えていた。ウツキが居ない間に。

今回は、燃やされる前に叩きのめす。燃え広がる前に消火する。そう心に決めているのだ。


「…ああ。そうだな。…うん、さっさと買って、サクッと勝って、ハッピーエンドを迎えようぜ!」


「何を言ってるか分かりませんけど、『サクッと勝って』には同意です。」


無表情だった彼女の顔が少し緩んだ。この世界の女性は皆、顔が整っている。心に決めたただ1人に狂恋だというのに、不覚にも素敵だと思ってしまった。

そう呆けていたウツキの頬を青東風が撫でた。


「さ、行きましょう。荷物持ちぐらいにはなってくださいね。」


正直なところルナティアが持った方が早いのだが、それを言うのは野暮であろう。それに華奢な女の子に荷物を持たせるのは、本当に自分の価値が虚無と化してしまいそうだった。


「で、できる限り…!全部持つから任せろ!」


「…そこは言い切ってくださいよ」


この前まで引きこもりのもやしだった奴が、無謀にも堂々と啖呵を切ることは出来ない。それでも何か貢献できるように、精一杯荷物持ちを果たすつもりだ。


 館から離れて、レームルの街まで降りてきた。本当は少しでも館を離れたくはなかったが、女の子を1人で出かけさせるというのも何処か不安であった。


「少なくとも、前のクソカス供はこの街にいるだろうしな。次会ったら俺の水魔法が火を吹くぜ」


「水が火を吹くんですか…?」


 ルナティアならそんな奴らに怖気付いたり、力負けはしないだろうが不快になるだろう。流石に隣に男の居る女の子をナンパなんてことはないと信じたい。生憎、ウツキの体は弱いし、ここは異世界だ。力無い者から略奪は当たり前かもしれないが。


「…もしかして俺ってあんまり意味無い???」


「…正直、連れてきた利点はないです。退屈はしませんけど」


 退屈しないと言ってくれるのなら、それに応えるべく道化を演じるまでだ。


「さてさて!今日は何を買うんですかい、ルナティアの姉御!」


 ウザ絡み———もとい軽快な態度で接してみる。ルナティアは如何にも失言したと言わんばかりの表情を浮かべている。恐らく気の所為だろうと、気にせずその態度を続行する。尤も、人と関わってこなかったウツキはお堅い敬語か、これ以外の話し方がをからないのだが。


「あ、そうそう!ここの店のスイーツがマジで美味くて!」


「果実飴ですか。…いつ食べたんです?もしかして前に渡した非常時用のお金を…」


 まずい。お怒りである。しかも本当に非常時以外で使ってしまったので、反論の余地も無い。

 ゆっくりと姿勢を落とし、彼女の足元にしゃがみ込む。手をきっちりと前に置き、深く息を吸い腹を括る。


 でこを地面に打ち付ける。鈍い音が響いた。


「申し訳ございませんでした…。リリカてゃそとのデートで浮かれて買ってしまいました…。どんな処遇も受け入れます。」


「お嬢様にも買ったんでしょうね?」


「はい勿論。最初はリリカてゃそに買う目的だったのですが、あまりに美味しそうでしたので。かと言って一口貰うなんて…か、間接キス、ですし…?そんな恐れ多いことできない故、買ってしまいました。自制心のない俺の失態過ち咎です。殺してください」


 自分で稼いだわけでもない金を、あろうことか美食のために消費した男を前に、ルナティアはゴミを見るような目で見ている。ため息をひとつ、肩の力を抜いた彼女はしゃがみ込み、ウツキに目線を合わせる。


「顔をあげてください。ここでは少々目立ちますし、通行の邪魔です。…お嬢様に買って差し上げたのなら、まぁ許しましょう。ですが、非常時にお金が足りないと困ります。お出かけ用のお金を逐一渡しますから、次から事前に言ってください。」


帰ってきたのは想像だにしなかったものだった。優しいと言うよりも甘い。


 この世界で、自立出来るようにならなくてはと改めて思わされる。自分のことは自分で完結させる。いつまでも脛齧りでは居られない。


「このままヒモにでもなったら目も当てられねぇ…」


「もう既にろくでなしですよ。」


 彼女はぐずぐずしているウツキに痺れを切らし、裾を掴み目的の店まで引っ張っていった。

おはこんばんちゃ〜、みちをです。

先ほど確認した時、4章3話が投稿できてなかったみたいで

危うく1 2 4とか言う謎すぎる投稿順になるところでした…

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