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望月と少年の非日常譚  作者: 義春みちを
4章 ループ・ザ
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4章 2話:意気消沈

少し、怪我の表現があります。ご注意ください

 轟轟と燃え盛る炎。皮肉にも、暗くて静かな森はもう無い。何故こんな事になっているのか。わけもわからず、ただ誰かを探して走る。

 ひと呼吸が重く、喉が焼けそうになる。ジリジリと頬を炙る様な熱気に、意識は遠のきそうになる。


「俺が止まってどうする…!マオは、ヴィオラは、ソルティアは、リリレヴァは。誰かの為にこの力を使え…」


 水をばら撒きながら走る。水がすぐに蒸発し、ウツキは蒸される。それでも走った。


「大丈夫、みんな俺より強い…心配要らないはず」


 それでも走るのは、やはりどこかで今までの光景が思い出されるから。山火事ならそれで良い。ただ、もし誰かの策略だったら。

 そんなことを考えていた。人影を見つける。ゆらゆらと動く炎の先に、誰かを見つけた。ウツキはその方向へと走り、水をぶっかける。


「誰かに会えてホッとしたわ!なにがあっ」


 人影に水が当たり、倒れる。放出した水は、量こそあったものの、水圧は強くない。人が倒れるほどの威力は無かった。


 それが、自立している人ならば。


 人影が倒れた地面を見る。2つ、何かが転がっていた。片方は黒い髪の細身だが、がっしりとした体つき。片方はすらっとした体格に、桃色の髪。


「…なんで」


 皮膚が爛れて、赤くなっている。外傷はそれだけではない。

 打撲。それも転んで打ったものではなく、大きな者に蹴られた様な。そうまさに、目の前の大きな蹄に。


「なんだよ…」


 得体の知れない目の前の生物。白い体毛に覆われ、蹄を持つ。かと思いければ、立て髪と牙もあるし、尻尾は別の生物かの様にうねっている。生物のツギハギの様な、異様な何かがそこにいた。


「…『キマイラ』か。」


 マオとソルティアの死体を運ぼうとした。勿論、コレを囮にする事だってできる。しかし、短くはあるが一緒に生活した人を贄として逃げる事は、ウツキにはできなかったからだ。

 結果、運ぶことすらできなかった。

 足元に目がいってしまったから。傷口はもはや赤くは無く、光すら飲み込みそうな黒。その周りに、じわっと溢れ出たであろう赤。一見、何か分からなかった。黒の中に、薄く、限り無く白に近いピンクの何か。

 それが何なのか。理解した時、痛みを想像して、足———厳密には何かが露呈していたのと同じ脛がすくんだ。えずきこそしないが、何かが喉を逆流しそうだった。


 その気の迷いが、キマイラをウツキに近づける主な要因となった。犬歯が腹に食い込む。前歯も背と腹に刺さる。


「がぁあああッ!!!」


 痛みでその場に倒れた。ドクドクと脈が激しく動く。ゆっくり。ゆっくりと、血が、熱が、零れ落ちる。比熱の大きい水分が流れているからだろうか。こんなに燃え盛っている森の中なのにも関わらず、少し寒くなる。悪寒かもしれない。もう、何も分からない。

 うつ伏せで倒れる脹脛に、キマイラの足が触れる。

 決して脆くない、固いものが砕けた鈍い音がなる。必死で声を抑えた。必死で痙攣を抑えた。必死で息を抑えた。


 キマイラは簡単に潰せるのにも関わらず、あえて噛みついてた。2人の死体はそのまま。食べる為じゃない、生きる為でもない。ただ暴れたくて暴れて、断末魔が聞きたくて、簡単に殺さない様に弄んでいる。だから、あえて死んだフリをして飽きるのを待つしかない。


 キマイラは灼熱の如く熱い鼻息を出しながら、匂いを嗅ぎ、様子を伺う。死んでいる———反応を示さない状態と判断したのか、大きな歩幅でゆっくりと森の奥へと消えていった。


「…危険だけど、ろくに動けない状況で動いて敵に見つかったら」


 そんな自己中心的な考えを、もう一つの考えが塗り替えた。自分の身よりも、大切なものを探さないといけない。すれ違わなかった事、2人がここにいた事、屋敷の位置から、行くべき方向を定めた。

 煙があたりに充満し、頭痛や吐き気がする。まるで脳味噌にも煙がかかった様だ。ひしゃげる足を引き摺りながら、手を当て壁伝いならぬ木伝いに歩く。

 瞳孔が開き、音が細かく聞こえ、焦げ臭い匂いが鼻の奥に充満する。痛いはずの足でも、普段なら尽きている体力でも、自律神経が乱れふらつくような体でも、地面を踏み締めて立っていられる。


 乱れながらも、ほぼ一定になる音。彼女への微かな道標の様で、他に行く様な所もなく、それを辿る。

 音は近づく。音はだんだん少なくなる。邪魔な炎に水をかける。視界が広がる。人影を見つける。動いている。走る。走った。動く人影に幻想を抱いた。幻想に縋った。幻想は現世と重なった。目の前に少女は現れた。目の前の少女はこちらをみた。パチパチと木の燃える音がした。

 彼女は叫んだ。声にならない声で。普段の可憐な声が、それを出す喉が焼けている。


「う゛…つき゛……」


 視界に映る彼女は口を開いた。木の燃える音が大きく鳴った。視界とは反して声は耳に届かない。答える様に手を伸ばした。指先が彼女に触れそうになった。彼女が目の前で発火した。発火した様に見えた。


 目の前の炎の塊はしゃがれた声で、何か言っている。ウツキの指にも火が移った。近くにいるだけで発火しそうなぐらいの熱。

 炎に包まれる彼女を解放したい。早く冷やしてあげたい。


「俺の全魔力をここで放出しろッ…!」


 意を決して、手からは大量の水が放出する。酸素が押し出され、燃えられない様に。水が焦げたリリレヴァの体に触れた。水は蒸発し、体積は増えた。

 水とリリレヴァの設置面積が広がる。そんな事、ウツキは感知もできなかった。




 体は宙を舞い、地面へ叩きつけられた。咄嗟に瞑った目を開けてみた。元から何も無かったかの様に、リリレヴァの影は無くなっていた。木々も、枯葉も。手にベッタリとついた血液以外、そこには何も残っていない。ただ炎が燃しきっていた。


「…これは、夢だ。」


 何もかもめちゃくちゃだ。何をしたのかも、何が起こったのかもわからない。自然と笑いが溢れる。もうどこも痛まない。


「そうだ…きっと、あの性悪女だ!意味のわからない事ばっかり言いやがってッ!きっと俺を弄んで、楽しんでやがるんだッ!殴り込んでやるッ…!」


一度だけ、振り返った。

やはり、そこには何も無かった。気にせずに走り始めた。


夢だったとして、リリレヴァの最後表情は悪趣味で、心にこびりついたまま取れることはなかった。


皆さんおはこんばんちゃ、みちをです。

投稿遅すぎますね。いや、先週投稿し忘れただけで書けてはいたんですよ…

色々調べながら書こうと思いまして、複雑骨折(骨が出てるやつ)を検索してSAN値ピンチです。思い出すと脛のとこ、うわぁあってなります。皆さんにもうわぁあってなって欲しいので書きました。

あとは爆発のとこです。辻褄無理やり合わせて自分を納得させてます。細かく説明しないと辻褄合いませんが、細かく説明するのは粋じゃ無いのでしません。調べたのでわかります。

まあ某有名作品も似た様なことしてるし、物理専攻理系マンの皆さんはお口チャックで飲み込んでください。


調べたおかげで知見が広がったぜ。

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