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望月と少年の非日常譚  作者: 義春みちを
3章 鍛冶屋を求めて。
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3章15話:リラクゼーション

洗面所の扉をノックする。返事は無い。扉を開けても案の定誰もいない。安堵しつつ服を脱ぎ端に置いておく。2枚のタオルを持ち、いざ浴室へと入る。

扉から広がる湯気、洋風の広い浴槽に流れる温泉。


「やっぱ広すぎるだろ…。1人で入るには贅沢すぎるというか」


かといって、女性陣の多いこの屋敷に一緒に入れる人はマオしかいない。ノリが悪い訳でもないが、そこまでテンションが高いかと言われるとそうでもない。親しくも無い上、会話を繋ぐのが下手なウツキにとって、2人きりとは酷だ。


「なんて、考えてもしょうがないか…。1人の方が落ち着くと言えばその通りだし。気だったり、見栄だったりを張らなくていいしな。」


お湯で濡らしたタオルにボディソープを垂らし、泡立てる。浴室に蔓延する温かい煙が体を温める。ふわふわとした感覚に包まれる。耳に入る音は温泉の流れる音と、足音のみ。


「…ん?足音?」


ガラリと扉が開く。逃げ出す出口を見つけた湯けむりは、一斉に入り口へと集まる。揺れるタオル。透き通るような肌と髪。


「あっ、ウツキだ!ちょっとお願いがあるんだけど良いかな?」


「ありがとう湯けむり、ありがとうタオル。出血多量で死ぬところだったぜ。」


唐突に入ってきた思い人(リリレヴァ)。目をぎゅっと瞑り、最低限隠すべきところを隠す。お目汚しするわけにもいかない。無様な醜態だけは晒してなるものか。


「そ…それで、お願いとは…?それって後でじゃダメなやつですかね…」


「今じゃなきゃダメ!あ…流石に体流してからでも良いからね⁈その、背中とか、髪の毛洗って欲しいなって…。いつもなら侍女の2人か、マオにやってもらうんだけど、丁度ウツキがいたから…。ダメ、かな…?」


「ダメじゃないです。」


声だけで分かる可愛さ。条件反射で即答する。


「バスタオルとかだけ、巻いてもらっても…?」


「ばす…?大きい手拭いの事?良いけど…」


余程のお嬢様なのか。肌を晒すという意味を理解していない様子だった。ここで『なんで肌を見せたらだめなの?顔は良いのに?』なんて聞かれでもしたら答えられる自信は無い。

その上、身の回りのお世話をしてもらっているときた。『どれだけお嬢様なんだ!』とでも言いたくなる。


「ウツキ、巻いたよ?」


「じゃあ、そこに座ってもらって…」


「その席は?」


「…お、俺の席だから…?」


よく分からなさそうにしつつも、言われるがままに座る。当然だろう。言った当の本人さえよくわかっていない。自分なんかが座った椅子に座らせたく無いとなんと無く思った。それを説明しろと言われても、気持ちの問題でもあるのでウツキには不可能だろう。


「じゃあ、お願いね」


そう言って、リリレヴァは隣に座った。


ウツキは傍にあったタオルを取り、腰に巻く。目を瞑り、滑りそうになりつつも彼女の後ろにたどり着く。


無防備に背中を預ける少女。今ここで何をされようともおかしく無いというのに。———何をするかと聞かれても、そもそも思い付かないが。


「で、では…お(ぐし)を失礼して…」


髪を結っているリボンを外し、白銀の髪を手に取る。シャワーで濡らし、泡立ち易くしていく。

手に10円硬貨ほどのシャンプーを垂らし、両の手に伸ばしていく。髪の下に指を入れ、指の腹で揉むように洗う。


「痛く無いか…?」


「…うん。すごく、気持ち良い、よ。」


暖かい湯気が満ちる。甘く(とろ)けそうな声を聞き、どんな表情か気になった。ふと、目線を正面に向ける。そこには鏡に反射するリリレヴァがいた。瞼は今にも落ちきりそうで、うつらうつらしている。


「ぁ」


鏡に映るということは、鏡の正面が反射するということ。それに気づくや否や、すぐさま身を背けた。


「ウツキは…揉みほぐすの得意なの…?」


「特にやった事はない、けど…」


「そっかぁ…。今度また、お願い…しようかな」


「…考えとく」


丁重にお断りしたい。しかし、面と向かって言うのはいささか問題がある気がした。実際、物理的に面と向かってはいないのだが。


毛束を手に取り、髪の流れに沿って優しく洗う。綺麗なお髪を雑に洗ってぐしゃぐしゃにするわけにはいかない。


「と、いうか女の人の髪ってどうやって洗うんだ…?」


ウツキは髪がある程度長いが、汚れるであろう頭皮を洗い、一緒に髪も泡立ちシャワーで流す。最低限、汚れが落ちれば良いだろうという事だけを考えて洗う。しかし、女性ならどうだろうか。サラサラな髪を保つ為に何かするのだろうか?見たところリンスのような物はこの世界に無いらしい。米のとぎ汁なんて都合良くウツキが持っているはずもなく。

そもそもこの世界でも米のとぎ汁は使うのだろうか。


無理にわからない物をどうこうしようと悪化するだけ。そう考え、『何もしない』をする事にした。


砂やちりがある程度取れるぐらいに洗う。


「リリカてゃそ、流すから。目、閉じて。」


「…多分私の方が長生きしてるんだけど」


頬を少し膨らませ目を閉じる。反応が女児のような純粋さである。温水で泡を落とす。水流によって、指の隙間から白銀の髪がサラサラと流れ落ちる。


「…ありがと。最後に背中だけ洗ってもらえる?」


「なんで背中だけ…いや、別に良いんだけどね?」


言い方に語弊があった。他の部分は良いのに、何故背中だけは洗ってもらわねばならないのか。


「その、手が届きにくいじゃない?それに背中の洗い方ってどうすれば良いのかわからないし…」


確かに。洗ってもらっているなら、洗い方が分からない物かもしれない。幼少期、誰かしらと一緒に風呂に入る際に覚える事だ。しかし、親の存在は少なくとも今は無く、いたとしてもその人も洗ってもらっているような気がする。


「そ、そうか。背中ぐらいなら…」


日和(ひより)ながらも泡立てたタオルで拭う。白い肌を傷つけないよう、優しく、丁寧に。


「い、痛く…ないか?」


「大丈夫、」


ささっと洗い、リリレヴァにタオルを押し付ける。


「はい終わりッ!後は自分でやってくださいネ!」


スッと立ち上がる。

上から純粋無垢な少女を見る。


「スゥゥッ…。二の舞…」


いつも布の少ない服を着ているため、普段から見ている———意図的では無いが、不可抗力で視界に入ってはいる。しかし、そういう問題では無いのだ。場所、シチュエーションの問題だ。案外、それらによって人の感じ方というのは左右されるものだ。


隣の、元々座っていた椅子に座る。そして何事もなかったかのように髪を洗う。

その間にリリレヴァは洗い終えたようで、足音が聞こえる。その足音は丁度真後ろで止まる。


「ウツキ、ありがと」


左後方から聞こえた声は透き通っていて、まるで湯けむりのように今にもふわっと消えそうな声だった。

耳が今にも煮えたぎり、蒸発しそうになる。体が自然と硬直し、 心臓の音だけが響く。温かい湯気に包まれて血行が良くなったのか、心臓や頸動脈が脈打つ。


少し冷静になれたのは、温泉の水音がしてからだった。 何もせずぼうっとしそうな所に、正常に酸素が周る。硬直していた体を動かし、体を洗い、さっさと流して出ようとした。


「ウツキは入っていかないの?」


「…あ〜、その、うん。なんか今入るとのぼせそうで…。」


「え⁈大丈夫?お水飲んで⁈」


まだ大丈夫である事を伝えると、安堵したのちに「自分の体調管理が出来るのってすごいと思う」なんて純粋な返答が返ってくる。穢れた心と嘘で騙す罪悪感が湧き出る。


「…出る前に、1つだけ。お願い聞いてくれないかな…?」


「な、なんでしょうか」


「私、ダ…ダンピールだって言ったでしょ?その、吸血鬼って流水を渡れないから…。運んでもらわないと出れなくて…」


それがわかっていて何をしているのか。いや、自分だって同じ体質だとしても、温泉には入りたい。


「…引っ張り上げて欲しいな、なんて…。ダメ、かな?」


温泉に当てられたか、真意は分からないが頬が紅潮している。申し訳なさそうに言ってみる彼女の目線は、物理的に上にいる者全員の心を射止めるに違いない。温泉の滴るいい少女とでもいうべき彼女の願いを誰が断れるだろうか。流れる水滴が肌の輪郭を強調させる。強い力を持っていると聞く彼女でも、今は無防備かつ無力という状況。吸血鬼にこんな事を思うのもなんだが、天使であろうか、神であろうか。本当に後光が差しているように見える。白い光が視界を包み込んで、世界が歪んで


「ぇ…うそ、ウツキ?ウツキーーーーーッ!」


焦る声も可愛いらしい。

そこからの記憶はない。


□ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇ □ ◇


「リリィの声には血の気が引いたよ。洗面台には君の着替え。ギタギタのズタボロにしてやろうと思ったけど、浴室を見たらすでに君は満身創痍だった。」


目覚めると自称:比較的プライベートの守られた自室にマオといた。あのまま倒れず、一緒に浴室にいたことがバレていたら。流石に何回殺されるのかも分からない。

ちなみに、のぼせる前にリリレヴァは温泉から上げられたらしい。


「頭を打って、鼻と後頭部から大量出血。

なんで生きているのか不思議なぐらいさ。ウツキは人間…だよね?」


「もしやこれ、異世界チート能力の類いではなくギャグ漫画体質なのでは…」


場面転換すれば完全復活、とまではいかなくとも、ある程度治っている。それだけ聞けばギャグ漫画の特徴のようにも思える。この体質について、謎は深まるばかりである。

なんか途中でとんでもない量の文章が消えていて絶望しました。みちをです。

リリレヴァについて知ろう!のノリで書いてたはず…

兎に角、

・甘やかされまくり箱入り娘

・水が弱点だよ

って事を書きたい回でした。

「吸血鬼は流水を渡れない」って、合ってますよね…?

水に入れないっていう解釈が多いイメージですけど…

流水は清いものだから悪しき者は渡れない的な奴だと認識しています。それだとリリレヴァが悪しき者となるのは釈然としませんが、弱点無いと強すぎます。てか、現状リリレヴァの設定強すぎて全力ナーフしています。リリレヴァが出るほどのインフレが起こるまで、彼女自身はしばらくは戦わないかも。

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