3章 14話:ぽっかり空いた穴
「おかえり!お風呂沸かしてあるよ!」
明るく出迎えてくれたのは天使———リリレヴァだった。自然な笑顔を取り戻し、きらきらと微笑んでいる。ダンピールだが、ウツキにとって太陽のような存在。何かしようという原動力は彼女がいなければ無かっただろう。
「ありがとう。るなてぃ、お姉様先に入ってきてくれよ。」
女の子はどんな事を考えているのだろう。異性の入った風呂に入るのは抵抗があるのか。それとも、自分の入った後のお湯に入られるほうが嫌なのか。ウツキは前者だと仮定し、提案した。
「ええ。そうさせてもらうわ。」
「では、お先失礼しますね。お嬢様も、お風呂の準備をさせてしまい申し訳ございません。ありがとうございます。」
手を重ね、肘をグッと引き、綺麗なお辞儀をする。こちらにも振り返り、微笑みと会釈をしてみせた。
そうして2人だけになった玄関。まっすぐで純粋な視線に耐えられず、そっぽを向いた。近くにいるのだから、話せばいいのに。いつか遠く離れてしまうのではないかと怖くなる。
いつもそうだな。
前の世界でも、卒業して、疎遠になって。もう会えなくなる前に、何か残せる物は無いのか。
「ウツキ、入らないの?」
「あっ…!いや…その、外にいるから。だ、大丈夫」
支離滅裂だ。何を言えば良いのか、分からない。言い淀む前に話そうとすると、言葉がまとまらない。頭に浮かんだ言葉だけが、意味を成さず、先行した。
「ふ〜ん。」
リリレヴァは扉の向こうへ消えていった。
悲しみより先に、安堵した。それがなぜか、とても嫌だった。
カルデラを満たす水のほとりで、芝の上に寝転んだ。太陽は相も変わらず、明るく周囲を照らしている。
「…太陽が無いと、何も見えない。」
ふと、そう思った。
何故上手く言葉が出ないのか。普段はもっと出るはずなのに。1番伝えて、知りたい人と話せないのか。
好きで所謂『コミュ症』になったわけじゃ無い。失言するのは誰にだってある。それぐらいわかってる。みんな理解して、立ち直ってる。
ただ他の人よりも、転んだ傷が治りきらないだけ。
「いつからこうなったかなぁ…」
自分の真上。手の届かないところから太陽の光が差す。目が眩み、瞼を閉じる。
「こうすれば、眩しくないよ。」
頭を優しく持ち上げられる。そして、乗せられた所は柔らかかった。
目を開けると無邪気な笑みを浮かべるリリレヴァ。
「日傘取ってきたんだ。マニャーサに行ってから、あまりお話しできてなかったし。一緒にお外にいたくて」
「ぁ…」
嬉しい。けれど、何を返せばいいのか分からない。相手のどこを見て、目はどれぐらい開いて、声の大きさはどれほどで。
なにも、分からない。わからないから、顔を隠した。何も分からないから、その場から逃げようとした。
「私といるの、嫌?」
「そ、そんな事無い!」
あまり突拍子も無い事を言うので、声が大きくなる。否、リリレヴァからしたらそう感じる態度だったかもしれない。
「お話しするの、嫌い?」
首を横に振る。
「そっか。
…じゃあ、逃がしてあげない。」
頭の上に手を乗せて、撫でられる。
「元気ない時に、お母様がこうしてくれたんだ。ウツキ、疲れてるのかなって思って。元気出してほしいなって、思って。」
心音がうるさい。それでも、リリレヴァの声ははっきりと聞こえた。
「ウツキ…さ、もしかしてお話しするの苦手?」
小さく頷く。
「私も、そうだったんだ。引っ込み思案で、人の目を見れなくて。…でもね、誰かと話せないのはとっても寂しいから、お話ししようって思ったの。ウツキが嫌だって言うまで、寂しくなくなるまで、ずっと一緒にいるから。」
顔を覆う腕を少しずらし、リリレヴァの目を見る。口元は隠して
「嫌なんて…思わない、から」
今まで、こんなにも気にかけてもらった覚えがない。嬉しさと気恥ずかしさで、再び顔を覆う。
リリレヴァは予想していなかったのか、驚いた顔で数秒固まる。口をぱくぱくとさせ、言葉が詰まる。言いたい事がまとまったのか、少し微笑んだ。
「じゃあ、ずぅっと一緒…だね。」
ウツキはその表情を見る事ができなかった。何処か切なそうで、嬉しそうで、儚げな表情を。
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見覚えのない天井があった。いつの間にか寝ていたようだ。体を起こすと、自分がソファで寝ていたことに気づく。
「…確かここは」
ガラスのテーブルに、空のポット。お洒落なタッセルに固定されたカーテン。ここは以前、説明してもらった応接間であった。
「もう起きたの?私の見張りという名の休憩が無くなったじゃない。永遠に寝てなさい。」
部屋の入り口に目をやると、ソルティアが茶葉と2つカップを持って立っていた。
「殺そうとするなよ!…てか、なんでこんな所で寝てるんだ?もしかしてさっきまでのは夢…⁈」
「さぁ…?確かめる為にもう1度夢の中に行ってくればいいじゃない。」
ソルティアは応接間の蛇口を捻り、ポットに水を汲む。対面のソファに座るとクッションが反発し、桃色の髪はふわっと揺れた。無言で淡々と紅茶を淹れる。
出来た紅茶をそれぞれカップに注ぐ。ウツキは1つカップを取ろうとするが、下げられる。
「紅茶なんて飲んだら寝れなくなるでしょ。香りで落ち着くだけにしなさい。」
「それって温かい紅茶だった場合冷めねえか?」
目を丸くして、ぱちぱちと瞬きをする。
「貴方、紅茶の1つも飲んだことないわけ?寝る前に香りを楽しんで、起きたら火で沸かして飲む…当たり前じゃない」
ボッ…
目の前で一瞬にして火が着き、消えた。
どこにも引火せず、カップの中の紅茶だけが湯気を出している。
「…あちっ」
吐息で冷ましても尚、熱いほどの温度。———もしかすれば、ソルティアが猫舌なのかもしれない。
「…くたばりなさい」
「理不尽ッ!」
「寝ないなら何処か行きなさい。私はこのままサボるわ。やるべき仕事は終わっているもの。」
本当に意味もなくやれ永眠だの、くたばれだの言われたのか。そう思ったが口には出さなかった。わざわざここに残る理由もないので退室する。
「あ、そうそう。風呂って今誰かいる?」
「いないはずよ。私と姉様はもう入ってるから覗こうったってそうはいかないわよ。」
「の、覗かねーし⁈」
おはこんばんちゃ、みちをです。
ハイ、更新劇遅です。で、でも!来週分はもう書いてますし!なんならこれ予約投稿で日曜の0:13分に書いてますから!
実質土曜日ですから!
うん。わかってますよ。そもそも遅れてる時点でね。よく無いよね。
イ、イヤ、ボクニモ ボクノ セイカツガアッテ
ケッコウ カツカツ ノ ギリギリデスゴシテタリ ラジバンダリ
ソモソモ、 x ノ コウシン モ シテマスシ オスシ…
で、ではまた次回も見てくださると幸いです!(逃げ)




