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賢君源実朝  作者: shingorou
第4章 賢君への道
43/54

43 後継者探し

 初めて夫婦の契りを交わしてから随分と経つのに、実朝と倫子との間にはなかなか子どもができない。周りの者達の中には、側室を持つように言う者もいたが、実朝には全くその気がない。

「私に遠慮なさらないで」

 悲し気に言う妻に対して、実朝は妻を気遣うように言った。

「私は、もともと体が弱いから。子どもができないのは、きっと私に原因があるのだよ」

「けれど……」

 実朝は、妻の唇を塞いで、それ以上言わせずに、妻を抱く腕に力を込めた。

「私だって、不埒なことをしたいと思うのは、御台だけだから」

 中には、将軍夫妻に子ができないのは、和田一族の祟りだという者さえいる。

 和田一族とて、己の誇りをかけて戦った末の最期だったのだ。そんな馬鹿なことがあるわけがない。実朝はそう思ってはいたが、心のどこかで気にしていたのかもしれない。夢で和田一族の亡霊にうなされる日々が続いた。

 実朝は、改めて、和田一族の法要を、行勇の指導のもと行った。


 実朝も倫子もまだ若いが、もし、このまま夫婦の間に実子が生まれなければ、後継者問題が生じるのは必須である。

 実朝に一番近い血筋の者と言えば、兄頼家の子ども達ということになる。

 頼家の次男公暁と四男禅暁がいるが、二人とも仏門に入っており、実朝が兄と兄の長男一幡を廃して将軍に就いた経緯と、三男の千寿が謀反の旗頭とされた末の最期を迎えたことを考えれば、彼らを後継者とするのは支障がある。

 だが、女児だったら問題はない。頼家には、竹姫と呼ばれる娘が一人いた。実朝と倫子との間に子が生まれなかった場合の備えとして、竹姫に婿を迎えて、その系統に後を継がせるという手も考えられる。

 しかし、関東の有力御家人の中から竹姫の婿を選べば、御家人間の均衡が崩れ、新たな問題が生じることになる。

 ならば、いっそ、京のやんごとなきあたりに、竹姫を嫁がせて、その子をもらい受けるというのはどうだろうか。

 御台所倫子の姉は、院の後宮として冷泉宮頼仁親王をもうけている。頼仁親王と竹姫は年も近い。竹姫を頼仁親王の御息所として京に嫁がせ、その子を後継者候補として確保する。

(これなら、源氏の血も北条の血も残り、御台や院とも縁繋がりになって、申し分ないのではないか)

 実朝は、まだ若く、愛する妻との間に実子を持つことを諦めてはいない。

 その一方で、実朝は、実子ができなかった場合に備えて、後継者の確保を模索し始めていた。

 

 建保四年、西暦一二一六年。

 後継者問題の布石として、実朝は、御台所倫子、母政子にある話をしていた。

「竹姫を御台の猶子にと思うのだが」

 頼家の娘、竹姫は数え年で十五歳になる。孫娘の身の上を案じていた政子は快諾した。

「私が、母になるのですか?」

 倫子も嬉しそうに尋ねた。

「娘というよりも、年が近いから、妹と言った方がいいかもしれないね。裳着を行って、縁談のことも考えようと思うのだよ」

「御所に心当たりがおありなのですか?」

 母の問いに、実朝は答えた。

「昔、三幡姉上に入内の話が出ていたでしょう。とはいえ、帝がお相手では、いろいろと難しい問題が出てくる。それで、帝の弟君冷泉宮様(頼仁親王のこと)の御息所として、竹姫を京に嫁がせる話を持ちかけてみようかと思うのですよ。宮様の御生母は、御台の姉君だから、御台や院様とも縁繋がりとなるし、宮様は竹姫と年も近い」

「このうえないよいお話ではありませんか。御所の心遣いを嬉しく思いますよ」

 まもなく、竹姫は、御台所倫子の猶子となり、裳着を行った。

 祖母、若い母親となった御台所、孫娘とが加わり、将軍の周りには、家族団らんの明るく温かい雰囲気が広がっていた。




 

 

 

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