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第255話 激闘の末

 ――すっごい痛かった! そして危なかった・・・もし魔法障壁を張り直されていたら、私は確実に殺されていた。

 ――全身を打ち砕かれて、光神剣の制御すらできなくなるまで追い込まれるとは。マジで最強なんじゃないか、あの女・・・


 ――とりあえず龍さんを生き返らせよう!


 龍さんの亡骸に向け、歩み出したその時!


 ドサッ! ドサドサドサドサッ!!


 乾いた地面を激しく打ちつける、連続した異様に重い落下音が響き、私の足は硬直した。

 勝利の安堵で弛緩しかけた意識が、強制的に引き戻される。


「 ――え? 」


 思わず音のした方向、セルフィアの亡骸付近へ振り返る。


 その光景はあまりにも唐突で、常識を超越していた。


 セルフィアが倒れているそのすぐ横、空間がまるでガラスのようにヒビ割れ、黒い亜空間の裂け目となっていた。

 その裂け目から、ダムが決壊したかのように、様々な形状のアイテムが次から次へと吐き出されている。硬質な金属音、木製品がぶつかる鈍い音、そして宝石や布地が落ちる乾いた音。大量の物が、重力に従って地面に散乱し、小山を築き始めた。


「 うおっ!? なんなの一体? 何コレ・・・ 」


 唖然として立ち尽くす私に、疲弊しきった様子のバルモアさんが、息を切らせながら駆け寄ってきた。彼はアイテムの山を見つめ、興奮を隠せない声で囁いた。


「 おそらく、あれは亜空間収納を魔力でロックしていたのでしょう。管理者の死亡により、その魔力ロックが強制的に解除されたのでしょうな。ヒヒヒッ、とんだ宝の山ですぞ! 」


 私はアイテムの山に目を走らせ、すぐにそれを認識した。龍さんから奪われた神剣だ。無造作に転がる雑多な物品の中にありながら、その刃は夜の闇を払い、独特の威圧的な存在感を放っていた。


 ――負けたら、所有権を私に戻すとかなんとか言ってたけど、嘘じゃなかったのか・・・


 私はアイテムの山に歩み寄り、神剣を拾い上げた。


 ――たぶんだけど、龍さんにはもうコレは必要ない。呪いをかけた張本人が死んだし、龍さんの呪いも消えてるはずよね?

          ・

          ・

 龍さんの無残な亡骸に掌をかざし、蘇生魔法を唱える!


蘇生(レザレクション)! 」


 白い光が、夜闇を切り裂き、龍さんの亡骸を優しく包み込んだ。

 光は瞬く間に凝縮し、まるで凍てついた時間が巻き戻るかのように、砕け散った鱗が結合し、肉体が脈動を取り戻していく。血濡れた大地が、みるみるうちに清浄な輝きに覆われていく。

          ・

          ・

 かつての威容を完全に回復した真龍。


 巨大な体躯を覆う鱗は、血を失ったかのような鈍い紫色から、生命力に満ちた鮮やかな瑠璃色へと変貌し、光源魔法を反射して幽玄に煌めいている。その四肢には大地を掴む力強い爪が蘇っていた。

 何よりも、その眼光。

 かつて苦悶を宿していた瞳は、今や紺碧の輝きを宿し、穏やかな、しかし全てを見透かすような絶対的な威厳を湛えていた。


 龍さんはゆっくりと、しかし確かな動作で首をもたげ、深い呼吸を一つした。

 その吐息は、冷たい夜気の中に生命の熱気を帯びた白い霧となって立ち昇る。

 そしてその神々しい瞳を、静かに私に向けた。


「 魔道士殿、いや、使徒ハルノ殿 」

 重く荘厳な声が、大地を震わせ夜空に響き渡る。その声は重厚さと、空を悠然と渡る風のような雄大さを併せ持っていた。


「 貴公は我が命の恩人! 呪縛は完全に解き放たれた。忌々しい苦痛から我を解き放ちしは、貴公が与えし『聖』の力なり! 」

 その言葉には偽りない感謝と、何者にも揺るがぬ真龍の矜持が込められていた。


「 そして我が宿敵を打ち破りし真の覇者なり! この大恩は、些末な私的報酬では報じきれぬ! 故にこの恩は、我が生涯をかけ王国の民に返すことで報いよう 」


 龍さんの宣誓は、夜の静寂の中に、明確な意志を持って響き渡った。

 私はその宣誓を、『 ちょっと会わない間に、かなり流暢に話せるようになってるな~ 』などと思いながら聞いていたのだった。


          ▽


          ▽


          ▽


 ~ライベルク王国~

 ~シャルディア城~


 私たちは、威容を取り戻した龍さんの背に乗せてもらい、夜明け前の空を裂いて一直線に王都へと帰ってきた。


 ちなみに、セルフィアが強制ドロップしたアイテムについては、全てを回収することは不可能だった。リディアさんの背負っていたドデカリュックに詰め込める物、各々のポケットに捻じ込める程度の宝石や小さな物は何とか持ち帰ったが、それでも一部にすぎない。


 私たちは急ぎ、ドロップ地点から少し距離があるが、視界に入った岩陰までアイテムを皆で運び、できるだけ人目につかないよう隠した。


 後ほど、龍さんにゴンドラを背負ってもらい、王国の兵士を二名連れて行って、残りのアイテム群を全て回収する手筈だ。


 シャルディア城の上空に到着した頃には、東の空が茜色に染まり、夜は完全に明けていた。


          ▽


 龍さんがシャルディア城の広大な中庭に着地した時、そこは異様な熱気に包まれていた。


 巨大な龍さんの背から降り立った私とリディアさん、バルモアさんを待ち受けていたのは、王国の最高指導層が一堂に会した壮観な光景だった。


「 ハルノ殿! 真龍殿も御無事でしたか! 」

 国王陛下を中央に、その隣にオリヴァー殿下が立ち叫んでいた。


 彼らの背後には、主要な貴族たち、そして近衛騎士団を筆頭とする重装の騎士たちが、歓喜と驚愕の面持ちで整然と居並んでいた。


 龍さんと共に私たちが無事に戻ったという事実が、王国の存続に対する全ての不安を払拭したのだろう。


「 ハルノ殿! 真龍殿よ! 無事なご帰還、心より歓迎いたします! 」


 陛下がそう声を上げると、集まった貴族と騎士たちも一斉に右の拳を胸に当て、深く頭を垂れるという最大の敬意を示す礼をとった。


 オリヴァー殿下は喜びを隠せない様子で私に駆け寄ってきた。


「 ハルノ殿! そして真龍殿もよくぞ御無事で! 一体何があったのですか? 」


 殿下の視線は私の顔に釘付けになった。


「 ・・・ハルノ殿? その、御顔の色が、まるで数日眠らずに戦い抜かれたかのような・・・大丈夫ですか? 」


 殿下は私の顔をじっと見つめながら、言葉を選んでいる様子だった。


 全回復したとはいえ、激しい消耗と極限の戦いの後遺症で、普段の私とは明らかに違う疲労の色が顔に出ていたのか?


 いや、多分違う。


 急激に老いているからだろう。これだけ時間が経てば、すでに顕著に肌に出始めている。自分の手の甲を見れば分かる。

 殿下は「 なんだか老けました? 」などとは口が裂けても言わないだろうが、普段の私を知っているからこそ、その変化に即座に気がついたのだろう。


「 大丈夫です。魔道士が単独で襲撃してきただけです。ミルディアの使者から聞いてるでしょうけど、南の大国に所属する魔道士でしたね。あくまで個人で動いてるっていう(てい)にしてたようですけどね 」

「 龍さんに呪いをかけていた張本人でした。そんでもって初めから私の命を狙ってたようでしたね。かなりの強敵でしたけど、なんとか辛勝(しんしょう)って感じで斃しました 」


「 まぁ、たぶん戦闘の激しさからくる一時的な消耗です。ご心配には及びません 」


 私は努めて力強く答えた。まだ――、この極秘の呪いを、私みずから公にする段階ではない。


「 そう――、ですか・・・しかしご無理はなさらないでください! 今は、まずはお身体を休めるのが先決! 」


 殿下は心底心配そうな表情を浮かべ、すぐに侍従へと振り返り指示を出していた。


―――――――――――――――――――


 そして私は、セルフィアが強制ドロップした未回収アイテムの中に、自らの命運を決定付ける『鍵』となる物品が混ざっていたことを、この時点では露ほども考えてすらいなかったのだった。

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― 新着の感想 ―
更新して頂きありがとうございます。 龍さんが復活してすごく嬉しいです。 セルフィアさんの遺品見てみたいですね。 お宝もたくさんありそうです。 ハルノさんの命運を決めるアイテムって何でしょうか。…
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