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小悪魔マユ  作者: 大橋むつお
92/118

92・黒羽美優の葬儀・2

小悪魔マユ・92

『黒羽美優の葬儀・2』    



「うぇ……」


 テレビドラマの、ちょっと抜けた三枚目の脇役みたいな声が出てしまった。ライターを差し出したのは、三年ぶりに顔を合わせた、アイツだった……。


「真田さん……」

「こんなことで再会するとはね。式が始まったら、お焼香だけさせてもらうよ」

「どうも……」

「……じゃ」

 

 由美子は、真田に教わったたばこを、一口だけくゆらせて控え室にもどった。こんなかたちで五年ぶりに真田にあうとは思いもしなかった。五年ぶりの再会の言葉が、あれで適切なのかどうかは計りかねたが、あれ以上の会話は、思いもしない感情を心の底から呼び戻してしまっただろう。

 真田は、左手を、ずっとポケットに入れたままだった。


 思いの外会葬者が多く、葬儀の時間は長かったが苦にはならなかった。今までの父の介護や看護のことを思えばなにほどのことでもない。一般焼香のときに真田の気配を感じたが、あえて、その手に指輪がされているかどうかも見ることはしなかった……。


 マユは、美優の命の灯が消えてからは、仁科香奈の姿になっていた。仁科香奈とは、マユとクララの姿を足して二で割ったアバターである。自分の本来のアバターは拓美に貸してあるので、これ以外はケルベロスのポチの姿しかない。

 マユは由美子と真田のことは気づいていた。あの清純で献身的な看護を続けてきた由美子に、こんな過去があるとは思いもしなかった。駐車場で二人が再会した時に、由美子の過去が思念といっしょに分かってしまったが、二人の心が、きちんとケジメをもったものなので、安心した。

 焼香の間、二人は意識の片隅でお互いを捉えていたが、それ以上になることは無かった。ただ会葬者の中に四歳ぐらいの子どもを連れた女性を見たときに、一瞬由美子の心が揺らめいた。真田との間にできた子を産んでいたら、ちょうどその子と同じくらいの年格好になっていたからだ。


 出棺の直前、親族で棺を花で満たしてやるときに、いろんな思念がいっぱい飛び込んできて、マユは一瞬クラッとしてしまった。


 美優の母親、美智子の悲しみが一番大きかった。その美智子をいたわる気持ちは、ポーカーフェイスの光ミツルが一番だった。

 黒羽の心を一番気遣ったが、美優の顔を見て、美優と、ちゃんと通うところがあったのだろう。小さくうなづいて、黒羽自身の手で棺の蓋をした。

 小悪魔の悲しさ、人間や、幽霊、妖精のたぐいの姿や思いは分かるが、天国に行く魂は見ることも感じることもできない。スタジオで美優の命の灯はオチコボレ天使の雅部利恵の手の中でエメラルドグリーンに輝いていた。それが、美優の魂が見えた最後だった。その美優と黒羽は、最後になにか語り合ったのだろうか、棺の蓋をしたとき、黒羽の心は温もっていた。


 パアーーーーーン


 二台の霊柩車のクラクションが長く響いた。


 あとは大丈夫だろう。


 人間たちは、苦悩を乗り越え支えながら生きていく。マユの仁科香奈は乃木坂学院高校の制服を着ている。明日には退学届けが受理され、週末にひかえたオモクロの研究生のオーディションを受ける。

 なんせ、サタン先生がオチコボレ用に用意してくれたアバターではない。人々の記憶や記録を、一から用意などできない。簡単に乃木坂学院の退学生としての仁科香奈しか用意ができていない。

 とにかく、これで脳天気なオチコボレ天使の雅部利恵が作った、想色クロ-バー、オモクロをなんとかしなければ。そう思い定めた、仁科香奈姿のマユであった。


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