91・黒羽美優の葬儀・1
小悪魔マユ・91
『黒羽美優の葬儀・1』
意地悪なくらいの秋晴れ……
遺族控え室にいたたまれなくなり、黒羽由美子は葬儀場の駐車場に出た。
父の死は覚悟していた。しかし自分より年下の義姉の葬儀をいっしょに出すとは思わなかった。
兄の黒羽英二も、美優の母親であるローザンヌのマダムも落ち着いていた。しかし、悲しみに耐えているのは痛々しいほどよく分かった。兄の英二にはクセがある。悲しみや怒りを堪えているとき、表情は穏やかなのだが、まばたきが激しくなる。人が見て分かるほどではないのだが、兄妹だからよく分かる。針でつつけば破裂しそうなほどに兄は悲しい。
女なら悲しいだけ泣けばいい。しかし、男は、たとえ身内の葬儀でも涙をみせちゃいけない。
母が亡くなった時。当時、まだ元気だった父が由美子と兄の英二に言った言葉である。
まだ中学生だった由美子は、人目もかまわずに泣いたが、兄は泣かなかった。ただ、いつもより少しだけまばたきの回数が増えていた。それに気づいたのは、骨揚げの時だった。
――あ、まばたき止めたら、お兄ちゃん泣いちゃうんだ――妹の直感で、そう思った。
いま、控え室にいる兄は、その骨揚げの時と同じくらいのまばたきをしている。もう口やかましいお父さんもいないんだから、美優ちゃんのために泣いてやってもいいのに。あんなにお父さんに反抗ばかりしていたくせに、こういうところは、どうして親子似ちゃうんだろ。
でも、ふと気づくと涙していない自分にも気が付いた。気づくと、間欠的に悲しみが胸にせきあげてくる。ひょっとしたら、自分が最初に崩れてしまうかもしれない。また、崩れない自分も予感され、それはそれで、いたたまれなく、控え室を飛び出した。
「あ……」
やっぱ、自分もバカ。タバコを吸おうとして、タバコを持ってきたのにライターを忘れた。指にタバコを挟んだまま、どうしようかと思っていると、すっと横から火の点いたライターが差し出された。
「わ……」
テレビドラマの抜けた三枚目の脇役みたいな声が出てしまった。
ライターを差し出したのは、三年ぶりに顔を合わせた、アイツだった……。




