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小悪魔マユ  作者: 大橋むつお
81/118

81・期間限定の恋人・13

小悪魔マユ・81

『期間限定の恋人・13』    




 美優の命は、あと六日と三十分……にしちゃいけない。美優の体の中でマユは決心した。


 美優のガン細胞は、一万個ほど壊した。予想よりも早い速度だ。しかし、ガン細胞は眠っているとはいえ、数億個……間に合うだろうか。


 黒羽が、美優の家に下宿することが決まると、食事をすませ、二人で病院に向かった。

「すまない、美優ちゃん……」

「なにが……?」

「こんな親不孝なオッサンのために、婚約者の真似事させて」

「また……真似事なんかじゃないわ」

 その時、後ろから強引に追い越しをかけてきた車をよけるため、黒羽はハンドルを左にきった。

「あっぶねええなあ……!」

 ハンドルをきった勢いで、美優の頭が、黒羽の肩にぶつかってしまった。

「ごめん、急にハンドルきって」

 美優は、黒羽の肩に寄り添ったまま、体を動かさなかった。

「……英二さんの温もりを感じる」

「……美優ちゃん」

「この温もりを、自然に感じるぐらいでなきゃ、本物の婚約者には見えないわよ」

「そ、そうだな……」

 黒羽は、自分でも意外な自然さで、美優の肩を抱いた……。


「親父、婚約者なんだけど……」

「ハハ、やっぱりハッタリ……そんなもん、いやしないだろう」

「兄さん……」

 妹の由美子が困ったような顔をした。

「それが、その……」

「いいよ、ハナから期待なんかしてねえから」

「……廊下に待たせてある。いいかい入れても?」

「……英二」

「入ってもらっていいかい?」

「もちろんよ!」

 由美子がドアを開けると……真っ正面に美優が立っていた。


「「わ……!」」


 あまりの近さに、由美子と美優は同時に驚いた。

「し、失礼します……」

「あ、あんたが……」

「吉永美優と申します。英二さんと結婚します…………………………………………よろしいですか?」

 美優の緊張した間の空き方に、父と妹はクスクスと笑った。

「あ、ごめんなさい。わたし妹の由美子です。美優さんこそ、いいんですか、こんなオッサンで?」

「そうだよ、歳が離れすぎとる。それに英二には可愛すぎる」

「わたしバカだから、若く見られますけど、英二さんとは十歳しか離れてないんです」

「あ……十一歳。オレ、先月誕生日だったから」


 それから、四人の楽しい語らいになった。


 由美子は年下の義姉ができることを面白がり、その語らいの間は父の死が間近であることも、自分自身、最近こうむった心の痛手を忘れることができた。英二は、父にせがまれるまま、二人の成り染めを話した。ただ婚約した時期は二か月ほどサバを読んだが。

「え、じゃあ、美優さんの方から、その……プロポーズしたの!?」

「口ではね。態度では、英二さんの方が先でした」

「そりゃ、そうだろう。こんな可愛くて、歳の離れた子なんだもんな」

「親父も、母さんとは八つも開いていたじゃないか」

「確かにな。しかし母さんは、こんなに可愛くはなかったからな」

「え、じゃあ、こういう偏屈オヤジと可愛くない母さんの間に生まれたわたしは、可愛くないってこと?」

「いや、由美子は可愛いぞ。由美子を製造したときは、俺、キャンディーズの蘭ちゃん思いながらだったもんなあ。由美子が生まれる前の晩なんか水谷豊の写真付けたわら人形に五寸釘打ち込んでたからなあ、アハハ!」

 黒羽の父も、死が間近に迫った病人とは思えないぐらいの陽気さだった。

 

「さあ、これで親父も納得しただろう」

「うん。したした」

「そろそろ帰る。明日も早いから。じゃ、美優ちゃん……」

「はい」

「なんだ、もう帰んのか……」

「また、明日も来ますから……ん?」

 

 黒羽の父が、美優のスカートの端をつかんでいた。


「ちょっと、美優ちゃんと二人にしてくれんか」

「親父……」

「いや、黒羽家の嫁として話しておきたいことがあるんでなあ」

 仕方なく、由美子と黒羽は廊下に出た。


「美優ちゃん……すまんなあ。婚約者のフリをしてくれて」

「お父さん……」

「本物かどうかは、この歳になりゃ分かるよ。俺の命が長くないから……引き受けてくれたんだろう」

「違います。わたし、本当に英二さんのこと愛しているんです」

「……だとしたら、それは錯覚だよ。婚約者の役を引き受けたのは、俺の命が長くない……そう聞いてからだろう。二人を見ていれば分かるよ……二人は、まだ清いままだ」

「え、あ、わたしたち……」


 そこまで言って、言葉につまる美優であった……。


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