36・フェアリーテール・10
小悪魔マユ・36
『フェアリーテール・10』
ドアーフたちは、朝の八時には小屋を出て行ってしまった。
いつもなら、白雪姫の棺の番をするために一人が残るのだけれども、今朝はエルフの王女レミと、小悪魔のマユ、それに、赤ずきんがいるので、みんなで「ハイホー」を唄いながら、揃って行ってしまったのだ。
今朝は勝負の朝だ。
くちびるを白雪姫と取り替えた赤ずきんが、白雪姫の服を着て、白雪姫の声で唄いながら、庭のお花に水をやっている。念のため白雪姫の棺には白いベールが被せてある。万が一、アニマ王子が白雪姫に目を奪われないための用心。
しかし、その用心は必要ではなかった。九時前に森の小道にさしかかったアニマ王子は、歌声にひかれて、ゆっくりとドアーフたちの庭に入ってきた。ちょうど九時。
「きみは……」
「はい……」
王子と、赤ずきんの目が合った。
王子の目は、一瞬戸惑った。かわいいという共通点はあるものの、白雪姫とは別人である。しかし、くちびるを中心に感じるオーラは、白雪姫そのものである。
赤ずきんも、その一途な想いをたたえた目には惹かれるものがあった……赤ずきんの元カレと同じ切ない想いを感じた。
赤ずきんは、そっと目を閉じた。王子の気配が、だんだん近づいてくる……。
そして、二人のくちびるが重なった……!
赤ずきんは、くちびるになんの感触も感じなかった。だって、くちびるは白雪姫のそれだから。
でも、王子の熱は感じた。
元カレのそれとは違うけれど、思いの丈は同じ。赤ずきんの閉じた目から、涙が一筋流れ落ちた。
小やぶに隠れていたマユは、急いでスマホ型携帯魔法端末を操作して、くちびるを入れ替えた。
すると、白いベールがフンワリ飛んでいき、棺のガラスの蓋が開き、自分のくちびるにもどった白雪姫が、ゆっくりと起きあがった。
「アニマ王子さま……」
そうして、めでたく、アニマ王子と白雪姫はむすばれた。
その様子は、レミがビデオに撮って、ファンタジーの世界にライブで流され、山で仕事にとりかかろうとしていたドアーフたちも、ファンタジーの世界のキャラたちも集まった。もう、グリムもアンデルセンもディズニーも宮崎アニメもへったくれもなしに集まり、二人の幸せを祝いまくった。中には、刺激を受けて目を覚ました眠れる森の美女の王女さままでやってきて、「わたしの王子さまは!?」と叫び、その間の良さにみんなは暖かい拍手で応えた。
後日談ではあるが、「わたしの王子さまは!?」というのは、その年、ファンタジーの世界の流行語大賞にもなり、あくる年の春には、眠れる森の美女の王女さまにも、めでたく王子さまの婚約者ができた。
しかし、マユ一人、他のキャラに気を取られていた。
そう、赤ずきんである。
赤ずきんは、くちびるを入れ替えたとたんに、使い捨てられた赤ぞうきんほどにも意識されなくなった。
赤ずきんは、小屋にもどるとそっと、服を着替えた。
そして赤ずきんの衣装にもどって、お祝いの輪を避けるようにして、その場を去ろうとした。
あんまりの人だかりで、当たり前なら十秒ほどで出て行ける庭を出るのに五分もかかってしまった。
「ちょっと、すみません……ごめんなさい」
まるでAKBのライブの人混みをかき分けるような状態。
目立つ赤いコスの赤ずきんだけれども、だれも、街角の郵便ポストが動いたほどにも関心を示さなかった。
マユが、追いつけたのは、森の外れの分かれ道のところだった。
「よかった、ここで追いついて。ここ分かれ道だから、ここを過ぎたら、会えなかったかも……」
「なにかご用?」
ふりかえった赤ずきんは、とても寂しげな笑顔だった……。




