35・フェアリーテール・9
小悪魔マユ・35
『フェアリーテール・9』
「なんだ、てっきり白雪姫が生き返ったと思ったぜ!」
おこりんぼのグランピーが鼻息荒く言った。
「でも、そのバラ色のくちびると声は白雪姫だ。ま、いいじゃないか」
照れ屋のパッシュフルが、頬を染めてため息をついた。
「でも、これって、どういうこと?」
おとぼけのドービーは、まだ分かっていない。
「だから、今言ったろ……ハーックション!」
マユや、レミの説明に、スニージーがクシャミ混じりに解説を加えるので、七人のドアーフたちは、もう一つよく分かっていない。
「つまりだな、ここにいる魔女のマユが、魔法でなんとかしてくれるってことだ……ってぐらいは、なんとなく分かった」
リーダー格のドックが、とりあえずまとめた。
「だから、明日の朝、アニマ王子がやってきて、白雪さんのくちびるをした赤ずきんさんにキスして……ま、それで、どうにかなるだろうってことなの!」
マユがじれったそうにくり返した。
「ま、どうにかなるんだから、どうにかなるんだろ。ハッピーじゃないか!」
ポジティブなハッピーが素直に喜んで、なんとなくドアーフたちは納得した。
「山から帰ったばかりで、お腹空いてるでしょう。今夜は、わたしが晩ご飯を作ってあげるから」
レミが、とりなした。
「ああ、お腹空きすぎて、眠いのも忘れちまったよ」
ねぼすけのスリーピーがうなづくと、七人のドアーフたちのお腹が、いっせいにグー……と鳴りだし、みんなで大笑いになった。
「でも、今日は、山で働きすぎて、燃料の薪を集め損なったな!」
おこりんぼの、グランピーが腕を組んで、右足で地面をドンドンした。
すると、さっきから、三人娘たちが盛大にまき散らした!や?や……が、ピョンピョン跳ねだした。
「これは、いい薪になるよ。純粋な!や?だ、グランピーのは不完全燃焼になるんで使えたもんじゃないけど、これなら、今夜のぶんの薪には十分だ」
「……も、よく乾いていて、いい種火になりそうだ」
ドックとハッピーが!や?を集めはじめた。
「アチチ、この!!は、もう熱くなってるぜ!」
グランピーが拾ったのは、白雪姫が最初に言ったやつ。
「ああ、もう、やってらんないわよ!!」の!!であった。
にぎやかな晩ご飯が終わって、マユは赤ずきんを庭に連れだした。
庭は、お月さまも満腹になったのか、まん丸の満月で、ひっそり話すのにはぴったりだった。
「なにか、お話でもあるの?」
赤ずきんが白雪姫の声で言った。
「最初に現れたとき、なんだか顔色が冴えないって感じて……でも、こちらのお願いは喜んで引き受けてくれて……なんか、あるんじゃないかって……」
マユは、切り株のベンチに、赤ずきんをさそった。月の光に縁取られた赤ずきんの姿は、マユがびっくりするほど美しかった。
「わたし、思ったより大人だったでしょ……」
「うん。十歳くらいのガキンチョかと思ってた」
「わたし……時間の流れが、他の物語の登場人物と違うの」
「え……?」
「お婆ちゃんを、オオカミさんから助けて、それで、わたしの物語は終わるはずなんだけど、終わりにならなくって……気がついたら、こんな……多分十八歳ぐらいの女の子になってしまって。なんだか、芝居が終わったのに、まだ幕が下りない役者さんみたいに戸惑ってるの」
赤ずきんは、足もとの松ぼっくりを、そっとけ飛ばした……松ぼっくりは、コロコロ転がって、白雪姫の棺の下まで転がっていった。自然に二人の目は、白雪姫に向けられた。
「同じファンタジーの、それも同じグリム童話の仲間。その役にたてたら、それで、わたしはいいの……」
バランスが悪かったのだろう。松ぼっくりは、コトリと音を立ててこけた。
「アイデンティティーのない主人公って、なんだかね……」
「アイデンティティーとか、レーゾンデートルの問題だけじゃないように思える……よ」
マユも足もとの松ぼっくりをけ飛ばした。松ぼっくりは、見事に赤ずきんの松ぼっくりに当たった。
「ビンゴ……かな?」
「明日……白雪さんのことがうまくいったら……ああ、やっぱりダメだ」
赤ずきんは、うつむいてため息をついた。
「ねえ、あの松ぼっくりたち、なんだかお話してるみたいだよ」
「ほんとだ……」
「明日、そんな気になったら話してよ。赤どぅきんちゃん」
「いま、赤ドキンちゃんって言った?」
「え、そう聞こえた?」
「わたし、アンパンマンのキャラじゃないんだからね」
「ウフフ、そうだよね。赤どぅきんちゃん」
「ほら、また!」
「あ、そう?」
「もう……」
赤ずきんがふくれた。
マユは、手を伸ばして、赤ずきんのホッペをつついた。
「プ」と音がした。
「アハハハ」
「やっと笑った。赤どぅきんちゃんの負け。この件が終わったら話してね」
「はいはい。さすが小悪魔ですね」
「おちこぼれだけどね」
「アハハ……」
明るく笑う二人を照らすお月さまの光が柔らかくなったような気がした……。
人の気配に気づいて振り向くと、七人のドアーフたちが、白雪姫の棺の周りにあつまり、口々に「お休み」とささやいていた。
七人のドアーフは、白雪姫への「お休み」が終わると、小屋へと帰っていく。
小窓から、レミがドアーフたちの優しい「お休み」のあいさつを見守っていた。
――明日は、たのむよ。
リーダー格のドックが、メガネをずらして、マユの方を向いた。
――まかしといて。
そう想いをこめてうなずくと、ドックは、ニッコリ笑って、小屋の中にもどった。
あいかわらず、お月さまは星々を従えて、柔らかく微笑んでいた……。




