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小悪魔マユ  作者: 大橋むつお
31/118

31・フェアリーテール・5

小悪魔マユ・31

『フェアリーテール・5』



「この人……白雪姫さんよね?」

 マユがたずねる。


「そう、眠れる森の美女じゃなければね」

 レミが答える……ため息混じりに。

「ね、そうでしょ!?」

 レミは、矛先をアニマ王子に向けた。

「あ、ああ……スノーホワイトかもしれないし、シュネービットヒィエンかもしれないけど」

「それ、英語とドイツ語に言い換えただけじゃないの」

「あ、ああ……そうだよね。でも彼女がスノーホワイトなら、英語じゃなきゃ伝わらないし、シュネービットヒィエンならドイツ語でなきゃ。ボクは日本語だから微妙に違うかも……なんて、言い訳はしないからね」

 アニマ王子は、長いため息をついて、うなだれた。

「まあ、現実を認めるようになっただけ進歩だけどね。ね、スニージー」

 レミはガラスの棺を撫でながら、つぶやいた。


 ハーックション!


 とたんに大きなクシャミがして、棺の向こうからドワーフが現れた。


「やあ、レミ、世話かけるね。そちらさんが?」

「うん、魔法使いのマユ。やっと来てもらえたの」

「そりゃあいい。もう、この世界はこんぐらがっちゃってるからね。よろしくマユ」

「こんにちは、スニージー。他のドワーフさんたちは?」

「みんな山に行ってるよ。鉱石掘りが俺たちの仕事だからね。夕暮れになったらみんな戻ってくる。もう少し時間があるから、俺も行っていいかなあ」

「いいわよ。でも、あの山の向こうで、つま先立ちしてるお星様たちが顔を出すまでには戻ってきてね」

「うん、分かった。それじゃ、ちょっくら行って来るわ」

 スニージーは、アニマ王子に一瞥をくれると、サッサと、ツルハシをかついで行ってしまった。


「ドワーフさんたちも、持て余し気味のようね」


 その見かけよりも速い足どりで山を目指して駆けていくスニージーを眺めながらレミが言った。とたんに彼方のスニージーが大きなクシャミ。そのコダマが収まる頃に、マユが訪ねた。

「ねえ、白雪姫のお話って、王子さまがキスして、白雪姫が生き返り、メデタシメデタシになるんじゃないの?」

「それが、そうならないから、苦労してんのよ」


「ああ、いったい、どうすればいいんだ……!!?」

 アニマ王子が、頭をかきむしりながら身もだえした。


「簡単でしょ。キスしちゃえばいいんだから」

「それがね……」

 レミが腕組みをした。

「ひょっとして、王子さまって○○……なの?」

「そんな、ボクは○○でもなきゃ××でもない! 心から白雪姫のことを愛している!」

「だったら……!」

「ボクが王子でなくて、白雪姫が王女でなきゃ事は簡単なんだけどね」

「ハア……」

 組んだ腕をほどいて、レミはため息をついた。


「ボクと、白雪姫がいっしょになったら、どうなると思う……」

 アニマ王子は、空をあおいでつぶやいた。


「ハッピーエンドにはならないの?」

「考えてもくれよ。一国の王子と王女だよ。それが好きになって結ばれたら、二つの国が合併することになるんだよ。うまく根回ししても、強力な同盟関係になったと思われるし、現にそうなってしまうだろう」

「そうなんだ……」

「ここは、北にシンデレラの王国、南に眠れる美女の王国、そのまた南が白雪姫の国だ。うちと白雪姫の国がいっしょになれば、この微妙なファンタジーの世界のパワーバランスが崩れ、緊張関係がいっそう増してしまう。王子であるボクは、自分の思い通りには行動できないんだよ」

「でもね、でもさ……そんなことやってみなければ分からない事だってあるんじゃない。塔の上のラプンツェルだって、その好奇心はハッピーエンドに終わったわ」

「あれはディズニーが、無理矢理話をねじまげたからさ。ファンタジーの世界はもっと残酷で、リアルなんだよ。なんなら、このグリムの原作を読んでみるといいよ」

「知ってるわよ。グリムの残酷さぐらいは魔法学校で習ったわ。でも、しっかり現実を見てごらんなさいよ!」


 マユは、見かけよりずっと強い力で、アニマ王子を白雪姫の棺の前まで引き据えた。


「マユ……」

 マユの強引さに、レミは、思わず声をあげた。

「愛しているんでしょ!?」

「う、うん……」

「だったら、何も考えることは無し。キスしちゃえ!」

 ありったけの魔力で、王子の顔を白雪姫の顔に近づけた……しかし、アニマ王子は渾身の力で抗い、その唇は五ミリの距離を置いて止まってしまう。


「……なんてガンコな根性無しなの!」


「だって、ここで二人が結ばれたら、白雪姫の国で内戦がおこるよ。王妃側と白雪姫側に分かれた血みどろな内戦が!」

「それをなんとかするのが、王子でしょうが!」

 アニマ王子が、顔を真っ赤にして、何か言おうとしたとき。人の気配がした。


「あの……このへんでライオンさん見かけませんでした?」


 その子は、白と水色のギンガムチェックに半袖パフスリーブのワンピース。髪はツインテール、バスケットを腕に下げ、赤い靴を履いていた……。



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