32・フェアリーテール・6
小悪魔マユ・32
『フェアリーテール・6』
「キミはライオンを探しているのかい?」
目を輝かして、アニマ王子が聞いた。
「ライオンじゃなくて、ライオンさん」
少女が言い返した。
「でも、ライオンなんだろ?」
「そう。でも二本の足で歩くし、人の言葉だって喋るし、何よりも勇気を誇りにしているわ。で、ライオンさん見かけなかった?」
「いいえ」「ううん」と、レミとマユが答える。少女の視線は、王子にもどった。
「ぼくも知らないけど、ライオンさんに会えたら伝えてくれたまえ」
「なにを?」
「あ……その……つまりだね」
「あの、わたし急いでるの。分からなかったら、他をあたらなきゃならないから」
「もし、ライオンさんに会えたら伝えてくれたまえ……」
「だから、なにを!?」
「どうやったら……勇気が持てるか」
「そんなもの、自分でどうにかしなさいよ。まったく今時のオトコってきたら!」
少女は捨てぜりふを残して回れ右をし、一歩踏み出して……立ち止まった。
「いま、わたし『オトコ』って言ったわよね……」
「う、うん」「どうかした?」
「う、ううん。なんでも。じゃあね」
少女は、ギンガムチェックのスカートとツインテールをひるがえしながら行ってしまった。
「……あの子、ドロシーよね。『オズの魔法使い』の」
「そうよ。今頃は、エメラルドの国に着いてなきゃいけないんだけどね」
「やっぱり、これもゆがみの一つなの?」
「たぶんね。でも、ドロシーは所属がMGMで、そこにワーナーやソニーが絡んだり、ややこしくって、よく分かんない」
「でも、そのややこしい中でも、ケナゲにオズの国を目指してんのね」
「そう、だれかさんと違ってね」
レミは、ストローハットをあみだに被り直し腕組みをした。
「じゃ……ボクはこれで失礼するよ」
アニマ王子は肩を落として、マントを被りなおした。
「明日も必ず来てね」
「ああ、もちろん!」
「そして、キスするのよ!」
レミは、きつい口調で言った。
「ああ、前向きに考えるよ」
「なに、その政治家みたいな言い方!?」
「母上に教わったんだ。こういう状況で使う言葉……じゃ」
「待って、これをあげるわ」
マユは、胸ポケットからシャ-ペン……いや、歯ブラシを出した。
「歯ブラシ?」
「それで今夜と、明日の朝、歯を磨いて」
アニマ王子は、手に息を吐きかけて、臭いを嗅いだ。
「臭うかな……?」
「似合うわよ」
「え……」
「ロゴを見て」
「……ライオン歯ブラシ」
「分かった?」
「ハハ、どうもありがとう。少し勇気が湧いてきたよ」
少しだけ明るくなった背中を見せて、王子は行ってしまった。
「なかなかいいシャレね」
「シャレじゃないわ」
「え……?」
「あの歯ブラシには魔法がかかっているの」
「どんな魔法?」
「あれで歯を磨くと、好きな女の子にキスしたくなる魔法」
「え……それじゃ!」
「でも、アニマ王子に効くかどうか自信はないわ。小悪魔程度の魔力じゃどうしようもないほどの落ち込みだもん」
「それにしても白雪さん、可愛そう……」
レミが、棺の白雪姫に目をやった。マユも自然に目をうつした。
「あ……白雪さんの顔?」
マユは、白雪姫の寝顔に不吉なものを感じた……。




