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魔力使いリョウ  作者: A99
第一章 終焉討伐編
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第十五話

 『終焉』のブレスが私を貫く直前。私の命が終わろうとしているその刹那、それは起こりました。

 聞こえてきたのは、『終焉』の咆哮にも負けない、鼓膜が破れるのではと思うほどの爆発音。その爆発音が響いたかと思うと、私の体は大きく吹き飛ばされていました。

 爆発といっても、光も熱も感じませんでした。感じたのは強い風のみ。その風に私は吹き飛ばされ、結果ブレスを避けることが出来たのです。

「……え?」

 理解が追いつきませんでした。誰も私を助けられる状況ではなかったはずです。ニノ殿も、姫様も、もちろん私も……。

 強く、誰かに抱きとめられました。一体誰なのかと考える前に、私の視線は『終焉』へと固定されていました。

 不可解な現象はまだまだ続きます。

 強化されているはずの私の目が捉えきれない速度で何かが飛来。『終焉』の顔へと当たったかと思うと、それが爆発したのです。おそらく、先ほどの爆発はこれが原因だったのでしょう。

 爆発で『終焉』は怯むだけでなく、もがき苦しんでいました。そう、その爆発は『終焉』にダメージを与えるほどの強烈なものだったのです。

 そして、最後に『終焉』の上からそれは落ちてきました。

 太陽のごとく巨大な純粋魔力。そして、それから感じる魔力は、私達にも馴染みのあるものでした。

 巨大な魔力は『終焉』の頭部に命中。『終焉』は地へと叩き落とされ、魔力は雪のように消えていきました。

 そう、魔力です。おそらく、爆発したものも魔力だったのでしょう。そして、魔力に関連する二つ名を持つ人物を、私は一人だけ知っています。

 魔力使い。そう呼ばれている人物を、私は知っています。

 しかし、彼は死んだはずです。『終焉』の手によって、跡形もなく終わってしまったはずなのです。

 だから、これは夢か幻のはずです。散り際に私の脳が見せた、幻覚に違いないのです。

 ですが、彼は話しかけてきます。炎獄山脈の調査に行く馬車の中で見せた、あの不敵な笑みを私に見せて。

 男性にしては長めの黒い髪と、髪と同色の瞳。特徴的な赤いジャケットを無造作に羽織ったいつもの姿。旅ですっかり見慣れた、彼のいつもの格好です。

「すまねえ、遅れた」

 幻にしては、ひどく現実味があります。夢にしては、ずいぶんとはっきりしています。

 ならば……ああ、そうなのですね。生きてくれて……いたんですね……。

「生きて――」

 そこまで言いかけて、私の言葉は彼の人差し指に遮られました。

「感動の再会は後だ。今は、あのデカブツを倒すぞ。俺も手伝う」

 そう言って、彼――リョウ殿は獣のような獰猛な笑みを浮かべました。『終焉』もリョウ殿に気がついたのか、どこか嬉しそうに咆哮をあげています。

 今、私とリョウ殿がいるのは、魔力で出来た薄い板のような足場。リョウ殿がスキルで作り出したものでしょう。自由自在に魔力を作り、操るスキル『魔力使い』。本領発揮といったところでしょう。

「自由に攻めろ。俺がサポートする」

 魔力による足場は消え、落下する私の体。すかさず空を蹴って、地へと落ちた『終焉』へと肉薄します。チラリと見ると、リョウ殿は足全体を覆うように魔力を貼り付けていました。まるで魔力で出来た靴のようです。

 少々羨ましい気持ちを感じながら、『終焉』にまっすぐ突っ込みます。この頃には姫様とニノ殿も既に復活しており、私とリョウ殿の話が聞こえていたのか、私をサポートするような動きをとっています。

 目眩ましか、ニノ殿の霧が『終焉』の視界を覆います。それでも尚、『終焉』は私に向かい魔力弾を放ちます。一撃でも食らったら、私は終わってしまいます。恐怖を感じないわけではありませんが、しかしそれ以上に信頼を感じています。

<魔力弾の背後に転移ですわ>

 私の絶対なる主への、信頼を感じています。

 瞬間、命令に従い転移する私の体。『終焉』の魔力弾を置き去りにして、さらに私は突き進みます。

 再度、魔力弾。光と見紛うほどの速度ですが、しかし無駄。私の背後から飛来した魔力弾に迎撃されました。

 近づく私。睨んでくる『終焉』。口内から光が漏れていることから、ブレスの準備をしているのでしょう。しかし、その時間を与えるつもりはありません。

 空を蹴り、さらに加速。繰り返し、繰り返し、さらに加速、加速、加速。近づく地上、近づく『終焉』。もう少し、あと少しというところで、私の体は奇跡的に反応してくれました。

 薙ぎ払われた『終焉』の腕。生存本能か、それとも直感か。私の意思とは関係のないところで、私は無意識のうちに聖剣を突き出していました。

 それにより軽減されたとはいえ、それでも感じる強い衝撃。木の葉のように吹き飛ばされ、追撃の腕に対処する術はありませんでした。

 慌てる私でしたが、腕が当たるよりも前に、私の視線を遮る影がありました。霧が集まったように出現したその影。こんなことが出来るのは、この場では一人しかいません。

「――バリア」

 ニノ殿がそう言うと同時に、『終焉』の腕が弾き飛ばされました。バリアと言っていましたがそんなことはありません。ニノ殿がそのスペックをフルに使って、全力で殴り飛ばしただけです。

 苦し紛れとばかりに、『終焉』がブレスを吐き出します。蓄積も圧縮もされていないその砲撃は、全力時の威力とは比べ物にならないほど弱いです。

 そのブレスを、ニノ殿は霧に紛れるように消えて避け、私は聖剣を盾にして防ぎます。

 拮抗するブレスと盾。『終焉』が全力でブレスを吐いたのならば、私ではとても防ぎきれません。ですが、全力でないのならば、拮抗することは十分に可能です。

 そして、拮抗してできた時間は、姫様にとっても十分です。

<転移、そして終幕ですわ>

 私の姿は消え、次に現れた時には『終焉』の目の前にありました。未だにブレスを吐き続ける『終焉』。つまり、私の攻撃を防ぐ手段はないということです。

 視線を交わす私と『終焉』。『終焉』の瞳には、どこか称えるような、そんな光がありました。

 空を蹴り、『終焉』の背後へと回ります。狙うのは、その太く長い首。

<セリス! 決めなさい!>

「了解!」

 聖剣の形を変化。ひたすら長く、重いものに。どこまでも長く、どこまでも重く。

 形成完了。求めたものは、全てを断ち切る圧倒的な重量。そのため、強化された私の体でも、持つことがやっとの代物となってしまいましたが、構いません。これが、私の求めたものなのですから。今の聖剣ならば、『終焉』の首どころか、城壁すら断ち切ることが出来るでしょう。

 上段に構えた聖剣。ここまでくれば、型も何もありません。無心に、何も考えず、愚直に振り下ろすのみです。

 力任せの一撃。それは、偉大な巨人の剣閃のごとく。聖剣自身の重量もあり、それは恐ろしい速度で『終焉』へと迫ります。迎撃のためか『終焉』が魔力弾を何発も放ちますが、それすら意に介さず聖剣は突き進みます。

 強い衝撃。何か固いものに当たったような、そんな手応えです。両手に軽く痺れも感じます。

 見ると、聖剣は『終焉』の障壁により阻まれていました。『終焉』特化となった聖剣すら防ぐほど強固なものです。一体、どれだけの魔力を注ぎ込んだのか、想像すらつきません。

 破ろうとする聖剣と、防ごうとする障壁。障壁には次々と魔力が注ぎ込まれているはずですが、『終焉』が魔力切れを起こしそうな気配はありません。人間ならば、既に魔力切れを起こし、生命すら危ぶまれるほど消耗しているはずです。

 聖剣が障壁を破る気配はまったくありません。むしろ、障壁に押し返されているような気がしてきます。

 いえ、事実押し返されているのです。徐々に徐々に、微々たる速度ですが、『終焉』の障壁はその範囲を広げているのです。

 歯を噛み締め、全力を上回る勢いで力を込めますが、慰めにもなりません。無常にも、聖剣が障壁に負けているという事実を強く実感するだけです。

「手伝うって言っただろ?」

 重ねられた手。それと同時に、聖剣が障壁を押し返し始めました。見ると、聖剣を魔力が包み込み、聖剣の後ろに向かって炎のようなものが吹き出しています。それが莫大な推進力を生み、『終焉』の障壁にも負けない力を作り出しているのです。

 間違いなく、リョウ殿のスキルによるものです。リョウ殿のその助けが、今はこれ以上ないほど有り難い!

「アアアアアアァァァァァァ!」

 意味を成さない叫び声。獣のようなその声は、私の口から出たものです。

 壊れてしまえと両腕に力を込め、全て持っていけとばかりに全魔力を腕の強化に注ぎ込みます。今度こそ、正真正銘最後の機会。これを逃せば、もはや『終焉』を倒すことは叶わないでしょう。

 だから、私は全てを注ぎ込みます。全魔力、全生命力、死の一歩手前まで、払えるものは全て払います。

 その甲斐もあり、聖剣は『終焉』の障壁へと徐々に食い込んでいきます。『終焉』も咆哮を上げて耐えようとしていますが、しかし聖剣の刃は障壁を侵食していくのみ。

 そして……その瞬間はやってきました。

 パリン、というガラスが割れたような音。不意に軽くなる聖剣の手応え。そして、嬉しそうに吼える『終焉』。

 最後は、思った以上に呆気無いものでした。何の抵抗もなく、まるでゼリーでも切るかのように、聖剣はスルリと『終焉』の首を落としたのです。

 如何に『終焉』といえど、首を落とされて生きていることは出来ません。グラリと力を失ったかと思うと、『終焉』のその巨躯は、ゆっくりと地上へ落ちていきました。

 ゆっくりと『終焉』が落ちていくのを見ながら、私は実感が持てませんでした。いえ、私だけではありません。この場にいる全員が、実感を持てなかったでしょう。

 時が止まったかのように、呆けた様子で落ちゆく『終焉』の亡骸を眺めているのがその証拠です。

 そして、轟音を立てて、『終焉』の亡骸が地に沈みました。その勢いで、砂埃と灰が舞い散ります。不思議な事ですが、舞い散ったそれを見て、私はようやく『終焉』を討伐したのだと実感しました。

 終わったのです。ようやく、終わったのです。

 それを認識した瞬間、私の体には疲れがドッと湧いてきました。それと同時に、意識が急に遠のいていくのを感じます。

 ああ、駄目です。いけません。このまま眠ってしまっては、落ちて……。

 しかし、抵抗むなしく私は意識を引き止めることが出来ませんでした。当たり前のことですが、全魔力、全生命力を消費した私は、それほどまでに疲れていたのです。それこそ、もう一歩も動けないほどに。

 落下し始める私の体。遠のく意識の片隅で、誰かが支えてくれるのがわかりました。

 誰なのか。それは……わかりません。もう何も、考えられません。幸せな眠りの沼に、浸っていたい……。

「ゆっくり休みな」

 聞き覚えのある声。どこか、優しい声です。

 はい、わかりました……。すいませんが、私は休ませていただきます……。

 ああ、眠いです……。意識が落ちて……。

 どこまでも……どこまでも……。

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