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魔力使いリョウ  作者: A99
第一章 終焉討伐編
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第十四話

 遙か上空を舞う三つの影。巨大な一つの影の周りを、小さい影が舞うように見えていることでしょう。

 空を蹴り、『終焉』へと肉薄します。一足で百メートルも二百メートルも近づけるのも、姫様の肉体強化のおかげです。空を蹴るのは、魔力を一瞬だけ足元に固定、それを蹴るという簡単な技術によるものです。シンプルである以上、使い勝手の良さは抜群です。

 『高位肉体強化』のおかげもあり、普段とは比べ物にならないほどの速さで近づいています。ですが、それでも『終焉』と比べれば遅いのは言うまでもありません。

 『終焉』までの距離はあと僅か。もう一度空を蹴って加速すると同時に、右手の聖剣を振りかぶります。

 狙うは、『終焉』が私に向けているその後頭部。私の向かい側、つまり『終焉』の正面ではニノ殿が撹乱しており、『終焉』はそれに気を取られています。私が戦線に復帰してから、ニノ殿は『終焉』を撹乱することのみに集中し始めたのです。

 最大まで振りかぶり、そして――一気に振り下ろす。これ以上無い改心の斬撃。どのような名剣でも、この一撃の前では小枝のように折れてしまうでしょう。

 しかし、それでも『終焉』には届かない。気がついたら、振り下ろしたはずの聖剣が何かに弾かれていました。

 視界の端、何かが一瞬だけ通り過ぎます。目だけを動かして追ってみると、たった一発の魔力弾が弧を描いて戻ってくるのが見えました。終わりを感じさせる魔力。『終焉』が放った魔力弾です。

 迫ってくる魔力弾。しかし、まだ距離があります。魔力で足場を形成。体勢を立て直し、迫ってきた魔力弾を切り消します。

 安堵する私でしたが、その対応は間違っていました。切り消すのではなく、逃げるべきだったのです。

 切り消したせいで生じた一瞬の遅れ。気がつけば、『終焉』が私を向き、その大きな口を開いていました。その口には、膨大な魔力が蓄積・圧縮されていました。

 発射。

 絶望の砲撃が迫ります。それに対処することは……不可能。聖剣による防御は間に合わず、防御したとしても吹き飛ばされるのがだけ。避けようとしても、避けられる距離ではありません。

 まさしく、絶体絶命。普通ならば、諦める状況です。

 そうこうしている内に、『終焉』のブレスが目の前まで迫って来ました。目と鼻の先。一秒もしない内に当たってしまう距離です。

 少し前までの私ならば、絶望していたでしょう。諦めていたでしょう。しかし、今の私ならば、そのような感情を持つ必要はありません。

 何故ならば、私は一人で戦っているわけではありませんから。

 確かに、自らの力だけならば『終焉』には届かなかったかもしれません。いえ、届かなかったでしょう。だから、『高位肉体強化』の重ねがけという無謀な行いをしようとしていたのです。

 一人だけならば、その方法しかなかったでしょう。当たるか当たらないか、兆に一つという希望というものが遥か遠く、宇宙の果てに存在するような絶望的な賭けをする必要があったでしょう。

 ですが、今の私は違います。共に戦うニノ殿という仲間がいて、私を支えてくれる姫様がいるのですから。

<左に五十メートル転移ですわ>

 地上にいる姫様からの『念話』が届きました。姫様が視力を強化しているため、遙か上空にいる私達の動きをその目でみることが出来るのです。

 『念話』とは、術者の心の声、あるいは思考といったものを届かせる魔法です。比較的簡単な魔法なので、子供でも習得している事が多いです。

 姫様から届いた念話。それは、命令です。私にそれを行えという、命令なのです。

 ならば、騎士である私に出来ないはずがありません。

 ブレスが届く一瞬前に、私の体は転移していました。姫様の命令通り、きっかり左に五十メートルです。

 スキル『忠義の騎士』。主の命令に、最大限の力で応えるためのスキルです。泳げと言うならどこまでも泳ぎ、飛べを言うなら空を飛び、転移しろと言われたら空間を飛び越えます。

 私一人の力では、悔しいことに『終焉』を打ち滅ぼすことは出来ません。それは、確実かつ絶対的な事実です。しかし、私と姫様の二人ならば、『終焉』を討ち滅ぼすことが出来るかもしれません。

<『終焉』の前方に転移後、後頭部付近に再度転移ですわ>

 私の転移にすぐさま反応した『終焉』と睨み合っていると、再度姫様からの念話が聞こえてきました。

 姫様の命令通りに、私の体が勝手に転移します。まずは『終焉』の目の前へ。私がいきなり現れても、『終焉』は驚いた様子すら見せません。ただ、その大きな瞳で殺せそうなほど睨んでくるだけです。

 二度目の転移。転移後、先程まで私がいた位置を『終焉』がものすごい速度で通り過ぎました。通り過ぎる時、私ではなく姫様を見ていたように見えたのは、気のせいでしょうか?

 それはともかく、次の転移先は『終焉』の後頭部付近。絶好の位置です。これを逃せるはずがありません。

<さあ、打ち滅ぼすといいですわ。その聖剣で、見事『終焉』にとどめを刺しなさい>

 攻撃命令。姫様、承りました。

 『終焉』の頭へと着地。嵐の中心部のような風が私を襲いますが、『終焉』の鱗を掴んで何とか耐えます。肉体が強化されている私の握力はコインすら軽く捻じ曲げるのですが、『終焉』の鱗は指が食い込みすらしません。凄まじい耐久性です。

 ですが、これには耐えられないでしょう。『終焉』特化のこの聖剣の一撃、食らってみなさい。

 聖剣にナイフのような短い刃を生成。逆手に構え、一気に振り下ろします。

 サクリと、ゼリーにナイフを突き立てたように、ほとんど抵抗なくナイフが突き立ちました。これほどまでに効果があるのかと一瞬だけ驚きましたが、気を取り直して聖剣の刃を伸ばそうとして――『終焉』から大きく体が離れてしまいました。

 咆哮。

 これ以上ないほど大きく強い、『終焉』の咆哮のせいです。それが生み出した衝撃が私とニノ殿を襲い、抵抗することも出来ずに、『終焉』から吹き飛ばされてしまったのです。

 『終焉』は止まりません。頭、腕、脚、翼、尾、その巨躯のあらゆる部分を使い、縦横無尽に暴れまわっています。幸いにも終焉の効果は付与されていないようですが、それでも危険なことに変わりはありません。

 咆哮により飛ばされたとしても、それでもまだ『終焉』の射程距離内に私たちはいます。腕を掻い潜り、尾を弾き、その牙にわざと吹き飛ばされることで噛み付かれるのを防ぎます。

 まさしく手負いの獣。いや、手負いのドラゴンです。一撃で決めなければならないはずだったのに、何たる失態。その結果、暴れるという単純かつ効果的な方法で、私たちは追い詰められています。

 私は避けることしか出来ず、ニノ殿は再生に力を集中し、姫様には取れる手段がありません。姫様の強力な補助魔法でも、今の『終焉』にはまったく効果がないのです。暴走しているが故に、その他一切の状態異常を無効にしているのです。

 現状を認識すればするほど、先ほどの私の失態が重圧となって圧し掛かってきます。

 空を蹴り、一度退避して態勢を立て直します。完全に『終焉』の攻撃範囲内から脱出したのを確認し、私は魔力の足場に立ち考えます。

 どうすれば『終焉』の懐に飛び込めるか。どこに『終焉』の隙があるのか。どうやって、どのように、どうすれば。

 グルグルと思考が回り、無数の選択肢が浮かんでは消えていきます。普通のドラゴンならば有効そうな手段でも、『終焉』相手ではまったく通用しません。

 駄目ですね、こういう時こそ落ち着いて、『終焉』を観察して突破口を見つける必要があります。

 現在、『終焉』の相手をしているのはニノ殿一人のみ。申し訳ありませんが、しばらく頑張ってもらう必要があります。

<姫様、しばらくニノ殿の補助をお願いします>

<何か考えがありますのね?>

<はい>

 そこで念話は終了。姫様はニノ殿と『終焉』の動きを見ることに集中し、私は『終焉』を観察することに集中し始めました。

 心なしか、先ほどよりもニノ殿の動きがよくなっています。姫様が補助魔法をかけたのでしょう。それにより、ニノ殿には『終焉』に攻撃する余裕が出てきたようです。

 といっても、苦し紛れに反撃をする程度のものです。圧倒的不利な状況なのは、いまだ変わっていません。

 そして、その苦し紛れの反撃も、『終焉』は腕や尾など、様々な部位を用いて迎撃しています。暴走しているにも拘らず、見事なものです。

 それだけでなく、『終焉』はニノ殿の動きを阻害するような動きも見せています。ニノ殿が避ける方向や霧になるタイミング、再生時間などを考慮して、猟師が獲物を罠に誘導するように、じっくりとその動きを制限しているのです。

 魔力弾や肉体による攻撃、ブレスなど、『終焉』が持ち得るありとあらゆる手段で、ニノ殿を確実に仕留めにかかっています。そう、確実に、仕留めにかかっているのです。

 暴走状態で?

 まさかという気持ちで、『終焉』を観察し直します。魔力で視力を強化し、どんな細かいものでも見逃さないように、じっくりと観察します。

 そして、気が付きました。もし、これが正しいのならば、最悪の事態です。焦りばかりが募り、それがより一層現状を認識させます。

 

 暴走などしていない。

 

 『終焉』は、暴走などしていません。私が傷を負わせる前よりも、より冷静に冷酷に、最強種たるドラゴンの力と知恵の全てを尽くして私達を全力で狩ろうとしているのです。

 おそらく、今までは手加減していたのでしょう。胸を貸す、あるいは私達の実力を図っていたのかもしれません。そして、私が『終焉』に傷を負わせたことにより、合格ラインに達したと判断したのでしょう。

 それはつまり、敵と認めたということ。『終焉』が、私達を強者と認識したということです。

 そして、それが姫様の援護や命令があってようやくだということも、『終焉』は理解しているのでしょう。そうでなかったら、姫様を狙わないわけがありません。

 あの時、『終焉』は姫様を見ていました。私ではなく、姫様を。

 思えば、あの時には既に『終焉』は姫様の役割がわかっていたのでしょう。だから、姫様に攻撃をしなかった。

 私達と戦うために。

 本気で私達を殺すつもりならば、『終焉』はとっくに姫様を攻撃しているのです。そうすれば、私達は援護を失い、為す術もなく無様にやられていたでしょう。

 悔しさ。そして、無力さ。手加減されていたという現実、そしてそれで尚『終焉』を倒せないという私達の力の無さが私を襲います。

 これ以上『終焉』を観察しても無駄でしょう。『終焉』の隙や弱点、そういったものが見つかるとは到底思えません。

 ならば、作り出せばいいのです。幸いにも、今は『終焉』はニノ殿に集中しています。ニノ殿と姫様も、『終焉』に集中しています。つまり、私一人だけが自由に動ける立場にいるのです。

 誰一人として私を見ていない今こそが、『終焉』を仕留める次のチャンスといえるでしょう。

 チャンスはまたしても一度。ニノ殿を『終焉』が仕留めようとしたその時です。完全に『終焉』がニノ殿に意識を向けたその隙を、今度こそ完全に狙います。

 この時、私は気づいていませんでした。自らの失敗。『終焉』の観察。そして、究極とも言える相手との戦闘によるストレス。数々の要因はあれど、私は焦り、そして勝負を急いでいたのです。

 ですから、こうなるのも必然だったのです。

 『終焉』がニノ殿を仕留めようとする刹那、私の姿は『終焉』の後頭部付近にありました。姫様からの命令がないため自ら跳んでいったのですが、どうやら『終焉』は私に気づかなかったようです。

 狙うのは私が傷をつけた場所。今度こそ、完全に『終焉』の息の根を止めるために、私は再度『終焉』に剣を突き立てようとしました。

 『終焉』へと迫る聖剣の刃。触れるか否か、もう少しで刺さるというその瞬間、私の体は吹き飛ばされていました。

 考えてみれば、わかること。『終焉』が、近づく私に気づかないわけがないのです。『忠義の騎士』による転移にも反応した『終焉』なのですから、見るまでもなく私の動きがわかっていたことでしょう。

 だから、気づかないふりをして、今まで放置していたのです。私を確実に仕留めるために。そうすれば、『終焉』に傷をつける手段がなくなるのですから。

 私の目の前から『終焉』の姿が掻き消えました。ただ、移動しただけです。見ることは出来ませんでしたが、いる場所はわかります。『終焉』から放たれる心臓が止まりかねないほどのプレッシャー。感じないはずがありません。

 後ろに振り向くと、大きく口を開いた『終焉』の姿がそこにありました。既に膨大な魔力をその口に蓄積・圧縮しており、もはやブレスを放つだけという段階。

 ニノ殿が私に迫っていますが、間に合わないでしょう。姫様の命令も、間に合いません。

 そして、あらゆるものを終わらせるそのブレスが――放たれました。

 時間がスローになったように、周りの風景がゆっくりと動いています。実際にスローになったわけではなく、私自身がそう感じているだけでしょう。

 『終焉』を滅ぼすためにここまで来たはいいものの、結局滅ぼすには至りませんでした。私に力不足が、このような結果を生んでしまったのです。

 ブレスがすぐそこまで迫っています。もはや、何も為す術がありません。自らの終焉を待つのみです。

 ああ……無念です……。『終焉』を討ち滅ぼせないことが、何よりも無念で仕方ありません。

 

 姫様、リョウ殿……申し訳ありません……。

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