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魔力使いリョウ  作者: A99
第一章 終焉討伐編
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第十三話

 スキル『忠義の騎士』。

 その名の通り、騎士にしか発動しないスキルです。その効果は単純。主の命令に最大限の力で従うことが出来るようになるという効果です。

 泳げと言うならどこまでも泳ぎ、飛べを言うなら空も飛びます。すぐに来いと言うのなら、空間を飛び越えて駆けつけるでしょう。

 それが、『忠義の騎士』。不可能を可能にする、主と騎士の絆がなせる騎士のためのスキルです。欠点としては、一つの命令にしかその効果を発揮しないところでしょう。

 現在の姫様の命令は、終焉を滅ぼせということ。ならば、今の私に終焉を滅ぼせないはずがありません。滅ぼすための力は、私の手の中にあるはずです。

 ですが、滅ぼす力があるだけです。私の持つ『名も無き聖剣』で切り裂けば、それは大きなダメージを『終焉』に与えるでしょう。しかし、それは切り裂けばの話です。

「貫け!」

 空高く飛ぶ『終焉』からの何度目かの魔力弾を横っ飛びで避け、私は手に持った聖剣を『終焉』へと向けました。

 柄だけの聖剣から刃が伸び、終焉へと勢い良く伸びていきます。極限まで鍛えた達人すら見ることの出来ない速度のそれは、天を翔ける『終焉』の動きに合わせて右に左にと自在に動き、『終焉』を追い続けています。

 私が持つ聖剣は、『名も無き聖剣』というものです。

 『名も無き聖剣』には名前がついていません。名前がついていないということは、意味が無いということ。意味が無いということは、形を持たないということです。

 そのため、『名も無き聖剣』には刃がありません。使い手が聖剣に意味を込めることで、自在に刃を作り出すのが、この『名も無き聖剣』です。

 刃であり、槍であり、鞭であり、弾丸であるこの聖剣は、千姿万態の刃となって敵を討ちます。そして、私もこの聖剣を持って、多くの敵と相対し、撃破してきました。

 数多くの敵との戦いをくぐり抜けた私は、この聖剣のことを知り抜き、使いこなしているといっていいでしょう。

 ですが、それでも、それほどでも、『終焉』には――届かない。

 刃を千の欠片に分裂。それを全て、全方位から『終焉』へと雨のように降らせますが、『終焉』の咆哮だけでかき消されます。

 刃に続いて、霧の槍。ニノ殿が作り出した無数の槍は、『終焉』の鱗を貫くことなく、呆気無く弾かれてしまいます。

「――通らない」

 包帯に隠れて表情はわかりませんが、隙間から見えるニノ殿の目は、忌々しそうに歪んでいます。力不足を実感しているのでしょう。

 見上げる私達と見下ろす『終焉』。それは絶対的な力の差を表しているようで、ひどく不快です。それ以上に、『終焉』の圧倒的な巨躯から感じる恐ろしいまでの威圧感が、より不快です。

 『終焉』が動きを見せました。軽く視線を動かしただけですが、それに伴い圧力の矛先も変わります。

 ニノ殿が、『終焉』に睨まれていました。そして、数瞬遅れてニノ殿の表情が痛みに歪みます。

 魔力弾。速度に特化したそれは、『終焉』から放たれたものです。飛来した魔力弾は光線のごとく。ニノ殿の腕を貫き、地へとぶつかり消えました。

 単発の魔力弾といえど、それは『終焉』が放ったもの。それには終わりの力――終焉の効果が付与されています。

 終焉の効果。それは、乱暴に言えば触れた時点で腐敗し、崩壊し、死へと至り、そして無くなる力です。それこそ『終焉』が持つ力であり、『終焉』と呼ばれる所以となったもの。

 終わり、無くなってしまう以上、蘇生も回復もできません。

 ニノ殿も例外ではなく、触れた右腕から終わりが始まっています。ですが、そこはさすがの吸血鬼。咄嗟の判断で右腕を切り飛ばすと、胴体への終わりの伝搬を防ぎました。切り離してしまえば、それ以上終わることはありません。無限とも思える回復力を持つ吸血鬼だからこそ取れる手段でしょう。

 苦痛に顔を歪めたかと思うと、ニノ殿はすぐさま霧へと変化します。次に姿を表した時には、右腕は綺麗に再生されていました。

 吸血鬼でも再生できない絶対の終わり。終焉とは、本当に恐ろしいものです。

 触れるだけで全てが終わる『終焉』の攻撃。最強のドラゴンに相応しい能力といえるでしょう。しかし、『終焉』は一つだけ失敗を犯しています。

 見せすぎたのです。

 究極的ともいえる姫様の魔法の適正。何度も観察しているならば、それを見切ることは容易いこと。『終焉』は、姫様にその力を見せすぎてしまったのです。

 ほら、姫様の気配が近づいて来ました。数秒も経たずに、私達の元へと到着します。

「終焉効果、解析完了ですわ」

 心強い一言です。守りは万全とかいきませんが、これで『終焉』に対していくらか有利になったことは確かです。

「『高位鈍化』。続いて、『高位肉体強化』ですわ」

 続いて、姫様の魔法が発動。上位の魔法よりも効果の高い、高位の魔法を使用しているということは、出し惜しみはなしということです。

 ズシリと、重りをいきなり載せられたように『終焉』の動きが鈍くなりました。ほんの一瞬、一呼吸にも満たない時間です。人間には判別できないほどの僅かな時間。それがわかったのは、姫様が私達にかけてくれた肉体強化のおかげです。

 そして、強化した今の私達ならば、その一瞬だけで十分です。その僅かな時間が、十分な隙となるのです。

 聖剣を『終焉』へと向け、刃を弾丸として発射。狙いは頭部です。同様に、ニノ殿も自らの魔力を砲撃として発射しています。威力も速度も十分な一撃です。『終焉』が動き出す前に、私達の刃と砲撃が『終焉』を襲うでしょう。

 そう、考えていました。しかし、それは希望的観測というものです。

 どんな攻撃も無駄だ。そう伝えてくるかのように、刃は噛み砕かれ、砲撃はその鱗の前に消え去りました。

 驚愕のあまり、私は動きを止めてしまいました。一瞬です。ほんの一瞬、硬直してしまいました。しかし、『終焉』からは目を離さなかったはずです。常に『終焉』の魔力を感知し、動きを把握するように努めていました。

 不意に、後方に巨大な気配を感じました。その代わり、私の目がしっかりと捉えていたはずの『終焉』はいつの前にか姿を消していました。

 『終焉』。地表スレスレ、地面に触れるか否かというところまで降りてきて、大きな両目でしっかりと私を睨んでいました。既にその口元には魔力が蓄積・圧縮され、今にもブレスとして撃ち出そうとしています。

 避けるには……少し遅い。避け……いや、避けられない。

 逡巡している間に、『終焉』がブレスを吐き出しました。もはや、避けられません。いや、元々避けるなど考えてもいません。

 聖剣を盾へと変化。私の背後にいる姫様も守れる巨大な盾です。巨大なその盾を、目の前に突き出します。一瞬後、その判断を後悔しました。ブレスには終焉の効果が付与されています。このままでは、私は盾ごと貫かれて終わってしまうでしょう。

 そんな私の窮地を救ったのは、愛すべき主に他なりませんでした。

「間に合いなさい! 『高位終焉耐性付与』!」

 聖剣への終焉耐性付与。当たる瀬戸際、触れるか否かという瞬間に、姫様の魔法が間に合いました。これにより、聖剣は終焉の効果に対して強力な耐性を手に入れました。いずれこの耐性も消えることになると思いますが、この戦闘中の間だけ保ってくれれば十分です。

 終わるという恐怖から一時的に開放されて力が抜けそうになりましたが、グッと耐えて砲撃に備えます。

 しかし、甘かったと判断したのは、すぐのことでした。ドラゴンのブレスというものを侮っていたのでしょう。一瞬で、腕が吹き飛ばされそうになりました。

 しかし、意地で耐えます。私が終わったら、誰が姫様を守るというのですか。私以外の誰かが姫様を守るなど、死んでも終わっても許しません。

 歯を食いしばりながらブレスに耐えますが、すぐに限界というものはやってきます。ドラゴンのブレスを真正面から受け止めようなど、人間には到底無理なことだったのです。

 再度の窮地。そして、それを救ったのも、またしても愛すべき主でした。

「先に謝っておきますわ! 『固定化』!」

 ピシリと、私の体が石のように動かなくなりました。姫様が唱えた『固定化』の魔法のせいです。

 本来ならば、建物などにかけて衝撃や腐食などといったものから守る魔法です。それを、姫様はあろうことか私にかけたのです。

 ですが、今回はそれに感謝です。英断といっても過言ではありません。おかげで私の体は、私の意思とは関係なく固定化され動かなくなりました。ただ、体が動かないのに意思はあるというのは、慣れそうにありません。

 数秒という永遠とも思える長い時間が過ぎた後、ようやく『終焉』はブレスを吐くのをやめました。

「『固定化』解除。何とかなりましたわね……」

 それを確認した姫様が、私にかけた固定化を解除します。動けるようになったのを見計らい、私は姫様の隣へと後退しました。

 死の恐怖を感じた私と姫様の呼吸は、ひどく乱れています。幸いにも、『終焉』はニノ殿が相手をしています。強化したおかげか、翼で空を飛ぶニノ殿の速度は、『終焉』の速度に負けていません。弱いドラゴンでも、その飛行速度は音を超えると言われています。究極のドラゴンともいえる『終焉』ならば、その数倍の速度は軽く出せるでしょう。また、ニノ殿は霧と化す吸血鬼の能力を上手く使い、『終焉』の一撃を上手く回避しているようです。それもまた、『終焉』と戦えている要因の一つです。

 呼吸を整え、『終焉』について思考を巡らせます。

 わかっていたこととはいえ、あまりにも強すぎる。せめて攻撃が当たればいいのですが、当たる気配すらありません。

 力を持っても、当たらなければ意味がありません。当たらない力には意味が無いのです。

 予想以上に、生物としての性能が違い過ぎます。私の場合は、姫様に『高位肉体強化』をかけてもらい、ようやく何とか食らいついているという状況です。

 まともに戦おうとするならば、さらに二、三段階は強化する必要があります。しかし、そうしてしまえば、私と姫様の体はボロボロになってしまいます。一度でも動いたら、その時点で体は崩壊するでしょう。死ぬことはないでしょうが、果たしてどの程度の代償が必要になるのか……。

 しかし、逆に言うならば、一度だけなら攻撃できるのです。例え体が崩壊するとしても、一度だけ攻撃出来るなら……。

 そのためには、この一撃を確実に当てる必要があります。『終焉』の動きを読み、思考を読み、あらゆる戦闘の要素を読みきった上で、確実に『終焉』に攻撃を当て、その上で『終焉』を打ち倒す必要があります。

 分の悪い賭けだというのはわかっています。万に一つというレベルではありません。億に一つ、もしくは兆に一つというとてつもないレベルでの話しなのです。しかし、それしか方法がないのも事実。少なくとも、私にはそれしか思いつきません。

「姫様……」

「なんですの?」

 躊躇い、意思とは無関係に私の口は閉じてしまいました。失敗したらという恐怖。兆に一つという確立。臆病な心が、私の決意を鈍らせます。

「『高位肉体強化』の……重ねがけを……お願いします……」

 恐怖を殺して、臆病な心に蓋をして。無様な私を見せないように。

 これが終わったら、しばらく守れなくなることを姫様に謝らなければなりませんね。ですが、この程度の代償なしに倒せる相手ではありません。姫様には迷惑をかけてしまいますが、きっと許してくれるでしょう。

「さぁ、姫様……早く……」

 覚悟は出来ました。後は決めるだけです。

 集中して、集中して、ただただ一点、『終焉』を仕留めるただ一点目掛けて、ひたすら真っ直ぐ一直線に。

 風を超えて、音を超えて、その肉体性能の限界を超えて、壊れるまで力を出して……そこまでしてようやく、『終焉』というのは倒せる存在でしょうから。

 そう、そこまでしないと倒せないのです。それは、姫様もわかってるいるはずです。少なくとも私はそう考えていましたし、姫様も考えていると思っていました。

 ですから、次に聞こえた言葉には耳を疑いました。

 何故、その言葉が出てくるのですか? 何故、ここでその言葉なのですか?

 『終焉』を滅ぼしたくは……ないのですか?

「嫌、ですわ」

 姫様……何故?

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