↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者刑執行局 〜英雄を封印する仕事ですが、暴走を売った奴から潰します〜  作者: シュバルツ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
40/45

第40話:名簿を、燃やす

 廃棄命令は、届いていた。


 だが、写しの方が、先に出ていた。


「確定取り消しの、前の晩です」シキが、無線で叫んだ。「軍務省の受領印が、押されてます。上位十名分の、回収予定表。……実行日、今日です」


「場所は」


「南の、療養院」


 カイは、既に、馬に乗っていた。


    *


 麦畑の道を、荷馬車が三台、療養院の門をくぐっていた。


 幌のない荷台に、鉄の枠。人を、寝かせて運ぶための枠だった。


 門の内側に、軍務省の外套が、十二。その中央に、痩せた男が立っていた。手には、四角い箱。表面に、細い術式の線が、走っている。あの検査場の術式盤を、持ち運べる大きさに落としたものだった。


「勇者刑執行局です」


 ノエルが、走り込んだ。息が、上がっていた。


「順位表の確定は、取り消されました。配点表は、無効です。回収の根拠は、ありません!」


「回収ではありません」


 痩せた男は、手元の書類を、示した。


「軍務省・資産回収班、エーメリヒと申します。本件は、療養院の収容能力を鑑みた、収容先の変更です。順位表とは、無関係の事務手続きです」


「無関係な事務手続きが」カイが、言った。「なぜ、名簿の上から十人だけを、運ぶ」


「偶然です」


 男は、真顔で、そう言った。


 病棟の入口に、ロゼ・ファルケが、立っていた。


 黒い外套。書板を、抱えている。


「ロゼさん」ノエルが、彼女を見た。「止めてください。あなたが、実務監督官でしょう」


「オルグレン執行官」


 ロゼの声は、いつもと同じ、氷だった。


「私の職掌は、暴走適性審査の実務監督です」


「はい」


「審査は、無効になりました」


 ロゼは、そう言って、書板を、傍らの卓に、置いた。


「よって、私はこの場に、職掌を持ちません。監督すべきものが、ありません。……失礼します」


 彼女は、歩き出した。


 三歩、進んで、足を止めた。振り返らないまま、言った。


「書板は、置いていきます。中に、私の職掌に属さない書類が、混ざっているかもしれません。私には、確かめる権限が、ありません」


 そして、彼女は、行った。


 ノエルが、書板を、開いた。


 配点係数の出所。ハウゼル・クリーグとの折衝の記録。回収予定表の、原本。そのどれにも、同じ判が押されていた。


 軍務卿、バルカ・オルデン。


「病室から、離れてください」


 エーメリヒが、箱を、掲げた。


 術式の線が、光った。


 病棟の中から、音がした。一つではなかった。十、あった。封印鎖の環が、内側から押されて軋む音。緩められている。


「何を、してる」


「搬送前の、出力調整です」エーメリヒは、事務的に言った。「封印されたままでは、荷が重い。少し緩めて、歩かせます。……ご存じでしょう。あなたも、一度、これをかけられた」


 カイの目が、細くなった。


「歩かせて、どこへ運ぶ」


「収容先です」


「暴走させて、どこへ運ぶ」


 エーメリヒは、答えなかった。


 病棟の窓が、内側から、白く光った。


「先輩!」


「ノエル、病棟の中へ。緩められた環を、片端から締め直せ。三つ目の環だ。順番を間違えるな」


「はい!」


 カイは、前へ、出た。


 外套が十二、剣を抜く。カイは、そのどれにも、目をくれなかった。


 見ていたのは、箱だった。


 封印鎖が、空気を裂いた。


 一本目が、外套の列を、束ねて薙いだ。人は傷つけない。剣だけを、絡め取って、地に落とす。二本目が、荷馬車の車輪に巻き、三台を、その場に縫い止めた。


 三本目が、伸びた。


 エーメリヒは、箱を、抱えた。抱えて、背を向けた。守るために。


 鎖は、その箱に、届いた。


 乾いた音がした。硝子でも、鉄でもない、術式の線が断たれる音だった。箱の光が、内側から、消えていく。病棟の軋みが、止まった。


「……なぜ」エーメリヒが、膝をついた。「なぜ、我々ではなく、箱を」


「あんたらは、事務手続きだそうだからな」


 カイは、鎖を、引いた。


「事務手続きは、封じても、死なない」


「エーメリヒ」


 カイは、名を呼んだ。


「軍務省・資産回収班。……勇者刑執行局の名において、あんたの力を、永久に封印する」


 鎖が、男の両手に、巻きついた。術式盤を扱う手が、その日、使えなくなった。


    *


 病棟の廊下に、ノエルが座り込んでいた。


 十人分の環を、締め直した手が、赤く腫れていた。


「……全員、戻りました」ノエルは、言った。「誰も、暴走してません」


 いちばん奥の病室の戸が、開いていた。


 ダリオが、寝台の上で、身を起こしていた。


 彼は、廊下の光景を、じっと見ていた。倒れた荷馬車。砕けた箱。鎖を巻かれた男。そして、腫れた手で環を締め直していた、小柄な執行官を。


「……あんたら」


 ダリオが、掠れた声で、言った。


「あんたら、俺みたいなのを、十人ぶん、走って来たのか」


「はい」


 ノエルが、顔を上げた。笑おうとして、失敗した。


「四位の人だけじゃなくて、十位の人も、来ました。……順番、無いので」


 ダリオは、しばらく、黙っていた。


 それから、両手で、顔を覆った。


 声は、しなかった。


    *


 その夜、療養院の中庭で、名簿を燃やした。


 二十七頁。千七百人。


 ノエルが、一枚ずつ、火にくべた。急がなかった。一枚ごとに、上から順に、名前を、声に出して読んだ。四位のところで一度、詰まって、それから、続けた。最後の一枚が灰になるまで、カイは、隣に立っていた。


 燃やしたのは、名簿だ。制度ではない。制度は、まだ、一行も残っていない。だが、この娘は、ゼロじゃないところから、また積む、と言った。


    *


 三日後、局に、書状が届いた。


 赤い封蝋。三本の剣を鎖が束ねた、あの意匠。


 『貴局の申し立てにより、順位表は取り消された。異論はない。制度とは、順序をつけぬ限り動かぬものだが、あなた方はそれを、力量で補えると仰る。


  結構。ならば、見せていただこう。


  王都中央広場にて、貴局の自制指導の公開実演を要請する。対象は、貴局の推す一名で構わない。日時は、追って通達する』

 執行局が推せる男は、一人しか、いなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。