表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者刑執行局 〜壊れた英雄を狩る俺と、救いを諦めない新人〜  作者: シュバルツ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/12

第4話:英雄としての、死

 悪は、裁いた。


 だが、それで救われる者と、救われない者がいる。


 リアム・セドリックは、後者だった。


 局の保護室で、若い元勇者は、ベッドの上で震えていた。二度と目を覚まさないでほしい、とカイは半ば思っていた。目を覚ませば、また、波が来る。


 シキの解析結果は、非情だった。


「賦活剤が……二回、打ち込まれてます。デュランの記録どおり。もう、体の奥の力が、こじ開けられきってて……」


 シキは、画面から目をそらしたまま、小さく言った。


「元には、戻せません。飲む前の、普通のリアムさんには。次に暴走したら、たぶん、もう……自分では、止まれない」


「治療は」ノエルが食い下がる。「どこかに、方法が。賦活剤を抜くとか、力を鎮める薬とか」


「ないです」


 シキの声が、震えた。


「あったら、私が、とっくに作ってます。……ごめんなさい。ほんとうに、ないんです」


 保護室の中で、リアムのまつ毛が、動いた。


    *


「……ここ、どこだ」


 目を覚ましたリアムは、最初、穏やかだった。


 自分が暴走したことも、賦活剤を飲んだことも、途切れ途切れに覚えていた。彼は天井を見つめて、ぽつり、ぽつりと話した。


「運送の仕事、クビになってさ。力が抜けてから、俺、荷物ひとつ、まともに持てなくなって。昔は、魔物の群れを吹き飛ばせたのに」


「リアムさん」


「あの薬売り、言ったんだ。もう一度、力が戻るって。……戻ったら、また、働けると思ったんだよ。誰かの役に、立てると」


 ノエルが、ベッドの脇に膝をついた。手を、そっと、リアムの手に重ねる。


「まだ、間に合います。あなたは、悪くない。騙されただけです。だから――」


 その時、リアムの手が、こわばった。


 指先から、白い紋様が、にじみ出す。


「あ……」リアムの顔が、恐怖に歪んだ。「また、来る。だめだ、来る、逃げろ、頼む、逃げてくれ――」


「リアムさん!?」


「ノエル、離れろ!」


 カイが叫んだ時には、遅かった。


 波が、来ていた。リアムの体が跳ね上がり、力が制御を失って膨れ上がる。ベッドが砕け、壁が軋む。焦点を失った目が、一番近くにいるもの――ノエルを、捉えた。


 膨れ上がった腕が、彼女へ振り下ろされる。


 カイの封印鎖が、その腕を、寸前で搦め捕った。


 ノエルは、尻もちをついたまま、動けなかった。今、たしかに、救おうとした相手に、殺されかけた。その手が、自分に向いた。


「……っ」


「ノエル」カイの声は、鎖を握ったまま、静かだった。「見ておけ。これが、"間に合わなかった"だ」


 リアムは、鎖に縫い止められながら、泣いていた。


「ごめん……ごめんなさい、俺、また、誰か……お願いだ、もう、止めてくれ、俺を、止めて――」


 カイは、封印鎖の最後の環を、リアムの心臓の上へ、当てた。


 いつもの、静かな声で。


「リアム・セドリック。勇者刑執行局の名において、あんたの力を、永久に封印する」


 白い紋様が、潮のように引いていく。


 リアムの体から力が抜け、二度と戻らない。二十二歳の元勇者は、ただの、疲れ果てた青年になった。彼はもう、誰も傷つけない。もう、誰の役にも立てない。


「……ありがとう、ございます」


 リアムは、ノエルのほうを見て、笑った。


「あんたが、最後まで、救おうとしてくれて。俺、それだけで……」


 言葉は、そこで途切れた。眠りに落ちたのだ。搬送を待つ、静かな寝息。


 保護室に、沈黙が満ちた。


    *


 ノエルは、しばらく、動かなかった。


 やがて、彼女は、崩れたベッドの脇に、もう一度、膝をついた。眠るリアムの顔を、じっと見つめる。その頬を、涙が伝っていた。


「……救えなかった」


 声が、掠れていた。


「私、救うために、ここに来たのに。目の前で、一人も、救えなかった。悪いやつは、先輩が裁いてくれた。でも、リアムさんは、戻らない」


「暴走を止めるのが、俺たちの仕事だ」カイは、静かに言った。「救うのとは、違う」


「違わない!」


 ノエルが、顔を上げた。涙で濡れた目が、まっすぐカイを射た。


「違わないはずです。止めるのと、救うのは。……今日は、できなかった。方法が、なかった。でも、方法がないなら、作るんです。シキさんが薬を作れないなら、別の何かを。私が、探す」


 彼女は、涙を拭って、立ち上がった。


「まだ、諦めてません。次は――次こそ、救います。処分じゃなくて。救済だって、私が、証明してみせる」


 カイは、その横顔を、少しの間、見ていた。


 諦めない、という言葉を、昔、誰かが同じように言っていた気がした。魔王を倒す前の、まだ全員が生きていた頃。背中を預け合った、あの仲間の一人が。


 その名が、今、第二期被験者リストの、筆頭にある。


「……勝手にしろ」


 カイは、それだけ言って、背を向けた。


 突き放したつもりの言葉が、自分でも、ずいぶん柔らかく響いたことに、少しだけ、戸惑いながら。


 最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


 悪は裁けても、救えない人がいる。その現実を、ノエルは初めて、その手で受け止めました。それでも「次は救う」と誓う彼女を、カイはかつての仲間に重ねます。


 次話、第1章の区切りです。噛み合わなかった二人が、初めて背中を預けます。そして、カイの古い仲間の名が――。


 続きが気になったら、ブックマーク・評価で応援いただけると、とても励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ