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勇者刑執行局 〜英雄を封印する仕事ですが、暴走を売った奴から潰します〜  作者: シュバルツ


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第14話:回収

 松明の列が、谷を、上ってくる。


 軍の回収部隊だった。整然と、無言で、廃村へ向かって、進んでくる。逃げ惑う元勇者たちを、ジルドの仲間が、村の奥へと、誘導していた。老人が、子どもの手を引いて、駆けていく。


 カイの腰で、無線が、鳴り続けていた。


『――カイ。聞こえるか、カイ』


 ヴェルナーの声だった。


「聞こえます」


『令状は、生きている』局長の声は、平らだった。『お前は今、ジルド・ヴェレンティの、目の前にいるはずだ。……執行しろ。それが、命令だ』


 カイは、井戸端に立つジルドを、見た。ジルドも、カイを、見ていた。逃げも、身構えもせず、ただ、静かに。


「局長」


『なんだ』


「この村には、暴走勇者は、一人もいません。いるのは、鍬を握る老人と、積み木で遊ぶ子どもだけだ。……ここで俺が鎖を振るえば、それは執行じゃない。虐殺です」


『……令状は、生きている』


 同じ言葉を、局長は、もう一度、繰り返した。だが、その声の底に、カイは、かすかな、何かを聞いた。押し殺した、ためらいのようなもの。


「局長は、これが正しいと、思ってるんですか」


 無線の向こうで、しばらく、沈黙があった。


『……私が思うことは、関係ない』


 そして、通信は、切れた。


 カイは、無線を、腰に戻した。味方なのか、駒なのか。あの灰色の霧は、今夜も、晴れなかった。だが、今は、それを、考えている暇はない。


    *


「ジルド」


 カイは、大賢者に、向き直った。


「療養院が、落ちた。オーウェンが、また、連れて行かれた。……封印を、こじ開けられる。今度こそ、兵器に戻される」


 ジルドの、表情が、動いた。


「西の、旧国境要塞だ」ジルドが、低く言った。「バルカが、回収した英雄を集めている場所。ロゼの施設など、比べ物にならない。……あそこには、封印を一斉にこじ開ける、巨大な術式装置がある。運び込まれた者は、みな、一晩で、兵器に変えられる」


「あんたは、知ってたのか」


「調べていた。いつか、潰すために。……だが、私の力では、あの装置の中枢は、止められない」ジルドは、カイの腰の鎖を、見た。「封印を、断てる者でなければ。――あの鎖で、なければ」


 カイと、ジルドの、視線が、交わった。


 十年、正反対の場所を歩いた二人が、今夜だけ、同じ一点を、見ていた。


「先輩」


 ノエルが、進み出た。木彫りの小鳥を、握りしめて。


「オーウェンさんを、迎えに行きましょう。木彫りの小鳥、まだ、孫さんに、渡せてない。……約束、しました。一緒に、帰るって」


 カイは、要塞のある、西の空を、見た。


 令状は、ジルドの執行を命じている。だが、カイが向かうのは、逆だ。国家が「作る」暴走の、その中枢へ。今夜、あの要塞で起きようとしているのは、大量の再兵器化――つまり、大量の、人為的な暴走だ。


「暴走を止めるのが、執行局の仕事だ」


 カイは、封印鎖の環を、一つ、確かめた。


「今夜、あの要塞で起きるのは、国家が作る、十二人分の暴走だ。……なら、止める。令状が、何と言おうとな」


 ジルドが、微笑んだ。今度は、狂気のない、静かな笑みだった。


「この村は、私と、私の仲間で守る。部隊など、逃がすだけなら、造作もない」ジルドは、魔杖を、握った。「要塞は、任せた。カイ。……お前の鎖でしか、あれは、止められない」


「一つだけ、言っておく」


 カイは、背を向けながら、言った。


「今夜、要塞で会っても。俺は、あんたを、味方だと思わない。あんたのやり方は、間違ってる。……ただ、今夜の敵が、同じだ。それだけだ」


「ああ」ジルドは、頷いた。「それで、十分だ」


 カイとノエルは、松明の谷を背に、西へ、駆け出した。


    *


 西の空の下、旧国境要塞は、青白い光を、脈打たせていた。


 あの光を、カイは、知っていた。火の色ではない。力を、精錬する色。ロゼの施設で見た、あの色の――何十倍もの、規模だった。


 要塞の中で、今、十二人の英雄が、一斉に、封印を、こじ開けられようとしている。オーウェンも、その中に。


「ノエル」カイは、走りながら、言った。「今夜だけは、俺の後ろを、離れるな。……封印を"解く"力が、あそこには、渦を巻いてる。俺の鎖が、乱れるかもしれない」


「乱れる?」


「俺自身が、一番、あれに、近いからだ」


 ノエルには、その意味が、まだ、分からなかった。


 だが、カイの横顔が、いつになく、張り詰めていることだけは、分かった。封印鎖で、自らの力を、常に封じている男。その男が、封印を"解く"力の渦の中へ、飛び込もうとしている。


 青白い光が、近づいてくる。


 二人は、光の要塞へ、駆け込んでいった。


 最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


 令状はジルド執行を命じ、カイはそれに背く。「今夜あの要塞で起きるのは、国家が作る十二人分の暴走だ。なら、止める」――第9話の論理を、最大規模に押し広げた回でした。ジルドとは味方にならないまま、今夜の敵だけが同じ。その距離感を大事にしました。


 次話、第一部の締め。大量再兵器化の中枢へ、封印鎖が牙を剥きます。そして、封印を「解く」力の渦は、カイ自身の封印を、揺さぶり始めます。


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