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28.対峙、宇宙検閲官


 ――ピピピピッ、ピピピピッ♪

 

 今日は、八月十四日の月曜日。時刻は午前六時や。


「今朝もバッチリ六人覚えとるな……。

 カコ〜、起きとるか……?」


『お盆休みを迎え、各地の行楽地は大変な賑わいを見せています――』


「あ、おはよッス!

 今日が楽しみ過ぎて、全然眠れなかったんスよ!

 おじさんの真似して、ニュース見てたッス!」


「お前、緊張とかしてへんのか?」


「そりゃ、するッスけど……、ウチは緊張も楽しむタイプなんス!」


「……まあ、頼もしいな」


 起き上がってテレビを見ると、画面には、人、人、人。

 海水浴場、テーマパーク、ワイらが以前行ったハワイアンプールリゾートも紹介されとった。


『こちらの高速道路では、早朝から既に――』


「……世間はお盆休みなんやな」


「全てが終わったら、またウチらとプールに行くッス!」


「……まあ、考えとくわ。

 せやけど、今日は“お仕事”や。

 ほな、行くで」


「ッス!」


 ◇

 

 会社に到着。


「……なんやこれ……。

 こんなに、社員多かったっけか……?」


 先週よりも、事務所内の人が明らかに多い。


「営業部の人たちも戻ってますからね」


 ミクちゃんが言う。


「昨日、ウチが復元した影響ッスね!」

 

 カコが自慢げに言う。


「つまり、いつも以上に“普通”ってことやな」


 ワイは肩を回し、呟く。


「これが、ワイらが守るもんや……」


「……はい」


「……ッスね」


 ◇


 そして、場所は調理室に移る。


「ほな、鈴香部長。

 最終確認、お願いしますよ」


 鈴香部長が、いつも通りのテンションで調理台の前に立っている。


「これが“ぐるぐるスプラッシュパフェ”のレシピね。

 サビ残くんの新作が承認されるの、久しぶりよね。

 ……で、この手順、理解してる人いるのかしら?」


 一同、沈黙。

 当たり前や、このデザートは宇宙で最も意味不明な手順で作られていると言っても過言やない。


「……いないのね。

 まあ、試食の時はアリだったし、いいわよ」


 鈴香部長は、迷いなく作業に入る。


 青いゼリー、赤いフルーツ、白いクリーム、黒糖ソース、そして謎のシュワシュワ。

 仕上げに……、七味唐辛子。


「……相変わらず、すごいデザートですわね」


「完全に非合理ッス」


「でも……、だからこそ宇宙を貫くんや。

 そして、鈴香部長はこの工程を理解してへん。

 “理解して作った非合理”は、もう合理や。

 せやから……、これは“本物”や……!」


 ◇


「……できたわよ。

 これなら、委託先の工場のフローに落とし込めそうね」


 ぐるぐるスプラッシュパフェが、完成する。


「……来るぞ。みな、構えよ」


 アイカが低く言う。


 その瞬間、空気が歪む。

 宇宙検閲官が異物に“気づく”。


「……大当たりやで」


 ワイは笑う。


「今や!

 VOID亀裂を開くんや!」


「ああ、展開する!」


 アイカは両手を前に突き出した。

 そして、空間が裂ける。


 黒い亀裂。

 その奥には、“向こう側”。


「……気をつけろ」


 アイカの声。


「ここは我と矢名井で守る」


「任せましたわ」


 矢名井が頷く。


 鈴香部長は、まだパフェを見ている。


「……これ、本当に食べられるのかしら」


「食べんでええです!!」


 ワイは叫んだ。


「ほな、行くで!!

 ミクちゃん、カコ、ついてこい!!」


 ワイは飛び込む。


「了解です!」


「いくッス!」


 ミク、カコも続く。


 ◇


 ――落ちる。

 感覚という概念が、崩壊する。


「……っ!」


 上下がない。

 距離がない。

 ただ、“移動している”。


 ――そして、視界が定まる。


「……ここが、宇宙検閲官の領域なんか……」


 ただひたすらに、白い壁。

 直線、平面。

 完璧に整合性の取れた構造。


「……なんやここ。

 綺麗過ぎて逆に不自然っちゅうか……」


「揺らぎが、ありません」


 ミクが言う。


「……気持ち悪いッス」


 カコが顔をしかめる。


 ――その時、空間が急に“乱れる”。


「……来たで」


 ワイの目の前。

 そこに、“奴”は現れた。

 銀色の皮膚を持つ、のっぺらぼうの宇宙人。


「課長、あれが宇宙検閲官です」

 

 人型やのに、“顔”だけが存在してへん。

 だが……、確実にワイらを“見とる”。


「翻訳、頼むで」


 それを聞いたミクちゃんは、すかさずワイとカコの手を握る。


「――異常ヲ検知シタ」


 重く、冷たく、正確な声。


「非合理因子、三ツヲ確認」


 三人は一歩前へ出る。

 カコが笑う。

 ミクちゃんが息を整える。

 ワイは拳を握りしめる。


「やるッスよ」


「……ええ、打ち負かします」


「ワイはな、お前からしたら非合理な生き物なのかもしれへん……。

 毎日毎日、朝から晩まで働いて、理不尽に叱られて……。

 そのストレスを発散するためにギャンブルにのめり込んで、結局そこでも負けて負けて……。

 ほんまに碌でもない生き物やと思う」


 ワイは泣きそうになる。

 

「けどな……、そのお陰で、小さな幸せを噛み締められるねん!

 たまにパチで大当たりを出したり、可愛い部下と一緒にプールに行ったり、考えたデザートが商品化したり……、お前はそんな幸せを感じたことがあるんか!?

 せやから、お前ごときに、こんな幸せな日常を消される理由なんて、あらへんねん!!」


「下ラヌ……、ソンナ事デ一喜一憂スルナド、生命活動ニトッテ無駄デシカナイ」


「せやろな!!」


 ワイは笑う。


「でもな……」


 一気に踏み込む。


「それが“生きてる”って事なんや!!」


「ヤハリ、地球ハ低次元ナ思考ガ蔓延シテイルナ。

 予定変更、直チニ排除スル」


「……来るで」


「はい!」


「ぶっ壊すッス!」


 “完全な非合理”の三人組。


 それに対峙する――


 全宇宙で唯一の、“完全な合理”と呼べる存在。


 ワイはニヤリと笑う。


「ほな、人生最大の賭けや。

 勝ちに行くで……!」


「任せてください」


 ミクちゃんが一歩前に出る。

 そして、その身体が淡い光へと変わっていく。

 粒子がほどけ、収束し、一振りの刀となった。


 透き通るような白銀の刃。

 握るだけで、空間が澄み渡るような感覚。


「めちゃくちゃ進化しとるやないか……」


『課長、聞こえますか?』


 その声は、刃の中から響いていた。


「ああ、バッチリや!」

 

『では、私が“道”を切り開きます』


「……頼むで、ミクちゃん」


 ザンテツが刀を握る。


「じゃあ、ウチも行くッスよ〜!」


 声と共に、カコの身体が、黒い霧へと変わった。

 禍々しく、それでいてどこか楽しげな魔気。

 そして、ワイの口の中へと流れ込む。


「うぷっ……!

 やっぱこの感覚、苦手や……」


『ほんとッスか?

 以前よりは口当たりよく、スッキリと飲みやすくなってるはずッスよ』


 身体の中から、カコの声が響く。


「なんやその日本酒の謳い文句みたいな……」


 握る刀、満ちる魔気。

 ワイは確かに、人間の枠を外れていた。


「……準備完了やな」


 しかし、前を向くと、そこに広がるのは無機質な空間。

 論理で構築された宇宙検閲官の領域。


「宇宙検閲官……、どこや!」


『やはり、準備が整っていないのでしょう。

 一度退いたのかもしれません』


『変身シーン中に動くのは、地球では御法度ッス……』


「今思えば、それも非合理やけどな……。

 さすが、地球の常識が通用せん相手や」


 ――その時、ワイは近くで気配を感じた。


「なあ、宇宙人って、“透明化”とかできるんか?」


『理論上は、可能です』


「そうか……、なら、試す価値はありそうやな」


 ワイは床を蹴る。


「うおおおおおお!!」


 何もない場所へ、刀を振り下ろす。

 白銀の軌跡が、空間を裂いた。


「くそっ……、気配斬りなんか、無闇に振っても“当たらん”か……」


『おじさん、パチンコも“当たらない”じゃないッスか……』


 その瞬間――


『課長、下がってください!』


 ワイはミクちゃんの声を信じて、身体を後方へ退いた。

 直後、さっきまでいた場所が、フッと“消えた”。


「……おいおい」


 冷や汗が流れる。


「あんなの、一撃必殺やんけ……」


『ビビってるッスか?』


「……全然や」


 ワイは、さらに刀を振る、振る、振る。


「“当たる”まで回し続ける。

 それがワイのモットーや!」


『おじさん、完全にギャンブル依存症の思考ッスね……』


「そうは言っても、振らな当たらん……!

 うおおお! まだまだや!!」


 奴には、ワイが一心不乱に刀を振り続けとるように見えるやろが――


「ちゃう。“当てに行く”から外れるんや」


『……課長?』


「人生ゲームで分かったやろ」


 一歩、踏み出す。


「全部、思い通りになるわけやないが――」


 空間を睨む。


「“外れ続けること”も、ちゃんと意味があるんや!」


 そして、振り抜いた刀は、ついに奴を捉えた。


「見つけたで……!」


「ナ……ニ……!?」


「お前、避け方が“合理的”過ぎるんや。

 カッコよく言うなら、“ワイがお前の癖を見抜いた”ってことやな……!」


「シカシ、当タッタカラト言ッテ、斬レル訳デハナイ」


「なんやて……?」


 確かに、当たりはしたが、手応えが妙やった。

 

「これは、肉やない。金属や……!」


 ――ガキンッ!


 ワイとミクちゃんの渾身の一振りは、弾かれた。

 その反動で、体勢が崩れる。


「しまっ……!」


 その瞬間、姿を現した宇宙検閲官の腕がぬるりと伸びて――ワイの頭を、正確に貫こうとする。


「アカン、やられちま――」


 その瞬間、思い出す。

 今年の元旦を。


「あれ、夢やなかったんやな……。

 でも“今回”は、天使だけやない……、悪魔の力も宿っとるんや……!」


 ワイは咄嗟に左手を前に突き出し、魔気を放った。


「くらいやがれっ!」


「ナ、何ヲスルッ!」


 宇宙検閲官の腕は錆び、首元は完全に熔けている。


「この刀に、ワイの全てを賭ける……!」


 ワイは一気に距離を詰める。

 そして、振り抜いた刀は、確かに首を捉えた。

 刃が輝き、合理の中に生まれた“非合理”に亀裂を入れる。


「ナッ……!?」


 宇宙検閲官が、揺らぐ。


「非合理ガ、合理ヲ侵食シテイル……ダト?」


「それが地球や!

 ……訳分からんやろ!?

 ワイ自身も分かっとらんけどな!!」


 最後の一歩を踏み込む。


「これが――」


 全ての力を込める。


「ワイの人生最大の賭けやあああああ!!」


 振り下ろす。


 その一撃は――


 確かに、鉄でできた宇宙の“合理性”を斬った。

 そして、検閲官の存在が崩れ始める。


「……宇宙ノ、秩序ガ……」


 検閲官は、光の粒子となり、音もなく消えた。

 全宇宙で最高の“合理性”は、失われた。


「……安心せぇ。

 検閲なんかされへんでも、地球は今日も回っとるんやで……」


 ワイは、その場に崩れ落ちた。


『やったッスね、おじさん』


『課長、本当にお疲れ様でした』


「……ああ」


 ワイは、天を仰ぐ。


「ほんまに……」


 一息。


「ギャンブルなんか、二度とせんわ……。

 ……賭けてもええで」


 笑いが、広がった。


 非合理で、めちゃくちゃで――

 それでも、確かに“生きている”笑いだった。

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※作者は特級の声優ヲタです。キャラクターの脳内再生CVなど、お気軽に自由なコメント待ってます!

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