20-2.キャンプで仲良し大作戦(後編)
ガサッ……ガササッ。
そして、草むらから現れたのは、
「……なんや、鹿かいな」
普通に鹿やった。
拍子抜けする。
「びっくりさせやがって……」
矢名井さんは冷静に分析する。
「……普通に野生動物でしたわね。
しかし、カコさんの能力が使えない今、熊などの強力な動物には気をつけなければなりませんわね……」
「……ああ、生身のワイとミクちゃんの刀じゃ、ちょっと辛いかもしれへんな……」
「いざという時は、私も参戦いたしますわよ」
「そういや、矢名井さんは戦闘得意なんか?」
「それは、次回以降のお楽しみにしててくださいませ」
「……また、メタいな……」
ワイらの会話に呆れたのか、鹿は一瞬こちらを見て、森の奥へ消えた。
――そして残る現実。
「……カコ、どこに行ってしまったのでしょう……」
ミクちゃんは、責任を感じとる……というよりは、本気で心配しとる顔や。
「……ミクちゃん、安心せい。
ワイが必ず見つけたるわ」
そして、歩き始める。
歩く。歩く。ただ、ひたすら歩く。
暗闇の中、頼りないスマホのライトだけで。
「……電波、入らへん」
「当然です」
「当然ですわね」
短い会話。
空気は重いままや。
「……」
ミクちゃんは前だけを見て歩いとる。
でも、分かる。
いつもより、足が速い。
「……焦っとるな」
「焦ってません」
即答。
「……ただ」
一瞬だけ、言葉が止まる。
「……無駄な行動だったと思っているだけです」
「誰の、何がや」
「……」
答えん。
けど、分かる。
――自分のことも含めて、や。
◇
さらに奥へ進んだ。
同じような景色。
同じような木。
「……アカンな」
ワイは立ち止まる。
「引き返す方向すら分からへん」
「……はい」
ミクちゃんも認める。
「……申し訳ありません」
珍しく、矢名井さんが頭を下げた。
「私がもっと早く止めるべきでしたわ」
「いや、誰のせいでもない」
ワイは首を振る。
「……いや……、ワイのせいやな」
「課長……」
「止めきれへんかった」
それは事実や。
あの時、もっと強く言えばよかった。
――その時。
カサッ。
さっきとは違う音。
近い。
「……!」
三人同時に振り向く。
「……今の……」
「……人の音ですわ」
息を潜める。
「……カコか?」
ワイは、少しだけ優しく声を出す。
「おい……おるんやろ」
数秒間の沈黙。
やがて――
「……」
木の陰から、ゆっくりと影が動いた。
そして現れたのは――
「……カコ」
間違いない。
カコや。
でも、いつもと違う。
顔を伏せて、こっちを見ようとせぇへん。
「……お前なぁ」
思わず、ため息が出る。
「どんだけ探した思うとんねん……」
「……」
カコは黙ったままや。
拳をぎゅっと握っとる。
やがて――
「……迷惑、かけたッス」
小さい声。
「……ごめんッス」
らしくない。
ほんまに、らしくない声や。
「……でも……、ウチ、ちょっと一人になりたかっただけッス。
そしたら、みんな追いかけてくるから……」
「……はぁ」
ワイは頭をかく。
「無事なら、それでええわ」
「……っ」
カコの肩が、少し揺れる。
その瞬間――
「……やっぱり、バカね」
冷たいミクちゃんの声。
いつも通り、カコと話す時の調子。
「一人で飛び出して、案の定迷って」
「……」
「本当に、何も考えてないんですね」
カコが俯く。
空気がまた張り詰める。
でも、ミクちゃんの声が、ほんの少しだけ震えとる。
「……どれだけ心配したと思ってるんですか」
「……え」
カコが顔を上げる。
「課長も、矢名井さんも」
一歩、踏み出す。
「……私も」
一瞬、視線が揺れる。
「……心配、してたんです」
「……っ」
それでも続ける。
「でも、無駄なことしてる暇なんて、ないんです」
「……」
「カコ一人の問題じゃないんですよ」
いつも通りの正論や。
でも――
「……心配、する側の気持ちも……」
一瞬、言葉が漏れるが、すぐに口を閉じる。
「……っ」
カコの目が揺れる。
「……なんや」
ワイはニヤッと笑う。
「ミクちゃん、ちゃんと心配しとるやん」
「……」
カコが小さく笑う。
ほんの少しだけやけど。
「……ミク、相変わらずッスね」
「カコもです」
視線がぶつかり、まだ火花が残っとるように見える。
でも――
さっきまでとは違う。
完全な敵やない。
「よっしゃ!」
ワイは手を叩く。
「全員揃ったな」
「……課長」
ミクちゃんが言う。
「ここからどうしますか?」
「決まっとるやろ」
周りを見ると、当然のように暗闇の森。
「今日はここで耐える」
「……はい」
「……了解ッス」
カコも頷く。
「まったく……」
矢名井さんがふっと笑う。
「問題児ばかりですわね、地球のチームは……」
少しだけ、空気が軽くなった。
◇
それからは、みんな協力的だった。
まずは火を起こすための、枝を集め始める。
さっきより、少しだけスムーズや。
「……カコ、もうちょい枝を寄せてください。
酸素の道を作ると、燃えやすいんです」
「こうッスか?」
「そうです」
「お、ええ感じや」
動きが、噛み合い始める。
完全やない。
でも、バラバラでもない。
そして、火がつく。
ボッ、と小さな炎。
その光に照らされて、みんなの顔が並ぶ。
「……寒くないッス」
「……ですね」
「そらよかった」
ワイは火を見つめる。
この二人、仲良しとは言えへん。
でも――
「……まあ、ええやろ」
この距離なら、ちゃんと生き残れる。
そんな気がした。
――せやけど。
ここが安全やなんて、誰も保証してへん。
それでも今は、この火の前で、三人が揃っとることの方が大事やった。
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※作者は特級の声優ヲタです。キャラクターの脳内再生CVなど、お気軽に自由なコメント待ってます!




