20-1.キャンプで仲良し大作戦(前編)
――ピピピピッピピピピッ♪
「……はいはい……」
ワイは寝ぼけたままアラームを止めた。
時刻は朝の六時。七月二十五日、やっと日曜日や。
しかし、今日は身体を休めることも、パチに行くこともできへん。
なぜなら――
「おはよッス! おじさん!
いやぁ、日帰りキャンプ楽しみっすね!」
いや、ワイは“キャンプ”やなくて、“ギャンブル”に行きたいねん!
昨日までは割と楽しみやったんやが、いざ当日になるとダルくなってくる、“あの”現状に襲われとんねん。
ワイはいつも通り、無言でリモコンを手に取る。
いくらダルくても、朝のこの習慣だけは抜けなかった。
『――都内の食品製造会社で発生した設備破損について、現在も原因不明のままとなっております』
「……まだやっとるんか。
もう二週間経っとるで……」
『専門家は「通常の物理的損壊では説明がつかない」としており――』
「そらそうやろな、宇宙人の仕業なんやから」
「ニュース見てぶつぶつ独り言なんて、いよいよ親父くさくなってきたッスね〜」
「うっさいわ」
「ミクも部屋出た音しましたし、ウチらも行くッスよ!」
「……せやな」
ワイは押入れから引っ張り出した、キャンプらしい服装で外に出た。
カコもワークメン女子みたいな可愛らしいマウンテンパーカーを着ている。
……にしても、カコやミクちゃんの持ち物って、どこから支給されとるんや……。
◇
会社が近づいてくると、矢名井さんとミクちゃんが楽しそうに会話してる姿が目に入る。
「課長!カコさん! こっちですわよ〜!」
ミクちゃんはショーパンにスパッツ姿で、セクシーさも可愛さも兼ね備えとる。
矢名井さんは……、最初に比べたら大分露出は減ったが、山に行くにはあまりにも胸がはだけ過ぎている。
「もう矢名井さんも来てるッス!
急ぐッスよ! おじさん!」
休日くらい、のんびりさせてくれや……。
「遅かったですわね! お二人さん!
さぁ、本日は絶好のキャンプ日和ですわよ!!」
「テンション高いなぁ、矢名井さん……。
……ってか、さっきから気になっとったんやが、そのワゴン車――」
「ああ! これは今日のために、私がご用意させていただいた車ですわ!」
「いや、誰が運転すんねん!
ワイ、免許持ってへんぞ!」
「そこはご心配無用ですわ!
先日、地球の自動車免許を取得いたしましたので」
「……は?」
あまりの衝撃に、みんなの時間が止まった。
矢名井さんは、ドヤ顔で鍵を掲げている。
「いや、地球に馴染みすぎやろあんた!!」
「気に入った惑星の文化への適応は基本ですわ!
ちなみに最速で、一発合格ですわよ?」
「無駄に優秀過ぎるやろ……」
「もう、おじさん朝からうるさいッスね〜。
ウチだって、やろうと思えば余裕ッスよ」
「カコは、いつになってもやろうと思わないから学校で落ちこぼれだったんじゃないですか」
「ミクは八方美人だから、友達ができなかったんスよ〜」
「まあまあ、二人とも。
今日くらい、仲良くやろうや」
「そうですわよ!
とにかく、みなさん乗ってくださいませ」
ミクちゃんとカコは、早速ギスギスモードや。
そして、全員無言で車に乗り込んだ。
「シートベルトよし! ミラーよし!」
「ほんまに大丈夫なんやろな……」
「安心なさってください! 学科は満点でしたわ!」
「実技の方が大事やろ!!」
矢名井さんの車はゆっくりと動き出した。
◇
「――長! ザンテツ課長!
起きてくださ〜い!」
ミクちゃんがワイの肩を叩いとる。
目が覚めると、キャンプ場近くの駐車場に着いとった。
「……なんや、普通に運転うまくて、寝ちまったわ……」
「当然ですわ」
「なんか、腹立つわぁ……」
目を窓の外に向けると、カコがはしゃいでいる姿が見えた。
「お〜い!
あそこの山道から登って行くみたいッスよ!
早くしないと、置いてくッス!」
「元気やなぁ、アイツ」
ワイは重い腰を上げ、車の外に出た。
「……!? 空気うまっ!」
思わず声に出た。
山の空気って、やっぱ違うんやな……。
「課長、ミクさん。
私たちも参りましょう」
「そうですね、行きましょうか!」
こうして、四人は山の中腹のキャンプ場を目指して、歩き始めた。
◇
山を登り始めて、一時間くらい経つ。
「空気、美味しいッスね〜!」
「やはり、地球の自然は最高ですわね」
そして、カコが何かを見つける。
「あ! ここがキャンプ場じゃないッスか?」
脇道を見ると、「この先キャンプ場」と書かれている、かなり古びた……というか、朽ちた看板が立っとった。
ほんまに営業しとるんか……ここ。
「ほな、帰りまっか……」
「ちょっと課長! まだ着いたばっかりですよ!?」
「おじさん、根性ないッスね〜」
「仲良し大作戦は、まだまだこれからですわ!」
「矢名井さん、その作戦名、気に入ったんやな……」
◇
なんやかんやで場所を決め、みんなでテント設営を始めた。
「もう少し下を持ってください、カコ」
「ミクがもうちょい上持てばいいじゃないッスか!」
「それだとバランスが悪いでしょ?」
「……んー、この天使、やっぱムカつくッス!!」
ワイが割って入る。
「はいはい、一旦ストップな。
……まだ開始三十分やぞ。
このペースやとお昼ご飯前には戦争やで」
「ミクがいちいち細かいんスよ!」
「カコが雑だから教えてあげてるんでしょ?」
「二人とも、口やなくて、手動かしや……」
その後も、なんやかんやと揉めながらやが、ついにテントは完成した。
「できました!」
「ウチ、やっぱこういうの得意ッス!」
「ほぼ矢名井さんが組んだんやけどな」
「細かいことは気にしないッス!」
「カコは、もう少し大人になりなさいよ」
やっぱり二人はギスギスや……。
◇
次は昼飯のカレー作り……なんやが――
「ちょっと、カコ! 鍋に砂が入ってます!」
「自然の味ッス!」
「課長も食べるんだから、もっと真面目に作りなさいよ!」
「それより、早く水足さないと焦げてるッスよ!」
「今、計量してます!」
「そんな細かいのいいんスよ!」
そう言って、カコはペットボトルの水を直接鍋に入れた。
それを見たミクちゃんは……、キレた。
「大体、カコがカレールーを入れ過ぎるからこうなったんですよ!」
カコも応戦する。
「ミクが適当な分量入れろって言ったんじゃないッスか!」
「そういう意味の“適当”じゃないです。
アナタはもっと言語を学ぶ努力をしなさいよ」
「フンッ! うるさい女ッスね」
山の空気に反して、この二人の空気は最悪や。
◇
カレーは、なんとか形にはなった。
だが、炊いた米の量と比べて、あまりにもルーが多い。
ワイらは、無言でカレーを食べる。
ええ景色やのに……。
「……なぁ、なんで距離空いとんねん」
ミクちゃんとカコ、明らかに離れて座っとる。
「別に、いいじゃないですか」
「なんでもないッス」
沈黙。
そして――
「……ミク。
なんでアンタ、いちいち上からなんスか」
カコがついに口を開いた。
「事実を言っているだけです」
「その言い方がムカつくんスよ!」
「それは感情じゃないですか」
「はぁ!?」
……来たな。
「二人とも、やめとけって……」
「おじさんは黙っててほしいッス」
「珍しく同意見です」
「なんでやねん!」
カコはミクちゃんへの不満を連ねる。
「アンタさ、ウチのこと下に見てるじゃないッスか」
「そういうわけではありません。
ただ、正当に評価しているだけです」
「そういう言い方ッスよ!」
「結果が伴っていないから、教えてあげてるんです」
「……っ!!」
空気が一気に張り詰める。
「ウチだって、ちゃんとやってるッスよ!
見えないとこで頑張ってるッスよ!!」
「本当にそうですか?
地球に配属されてから、全然仕事してないじゃないですか」
ミクちゃんは一切引かへん。
「まだそういう言い方するんスね……。
そっちがその気なら……、上等ッスよ……」
カコの身体から、赤黒い粒子が漏れ出す。
「やっぱり悪魔認定の卒業生って野蛮ね……」
「やめろって!
ミクちゃんも言い過ぎや!
カコも、すぐに熱くなるなよ」
ワイはカコの腕を抑えた。
……しかし、カコはその手を振り払い、そのまま森へ走り出した。
「あっ、おい!!」
「……ついてこないで欲しいッス」
「遭難してまうぞ!」
カコは制止を聞かず、森の中へきえていった……。
◇
数分後。
「……戻ってけぇへんな」
「……あの子、また課長に迷惑かけて……」
「迷惑っちゃ、迷惑やが……。
今はそんなこと、どうでもええ」
「……はい」
「矢名井さんも、一緒に来てくれ」
「……分かりましたわ」
◇
森の中を探し回って一時間以上経つ。
「カコさ〜ん!
いたら返事をしてくださいませ〜」
返事はない。
気づくと、どんどん奥へ進んできてしまっていた。
そして――
「待て……。ここ、どこや」
「地球ですわ」
「今はそういうボケいらんねん!」
「……私たち、迷っちゃったんですかね……?」
「……かもしれへん」
◇
そして、完全に日が落ちる。
帰り道は不明のまま、辺りは真っ暗になった。
「……明日、仕事やねんけどな……。
無断欠勤とか評価下がるやろ……」
「課長、気にするところ、そこですか!?」
「二十二年間、無遅刻無欠席やったんやけど……」
その時――
ガサッ!
「……っ!!」
三人の動きが止まる。
暗闇の森。
風の音とは明らかに違う、“何かが動く音”。
「……カコか?」
ワイは声を張る。
「おい! カコ!
おったら返事せぇ!!」
――返事は、ない。
代わりに。
ガサッ……ガサガサッ。
「……これは……違いますわね」
矢名井さんが低く言う。
「人の動きでは……ございません」
闇の深まりに合わせて、不安も深まる森の中。
ワイらは、その音の方向を睨みつけたまま、固まっていた。
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