19.協力前提で作られとる世界
――ピピピピッピピピピッ♪
「……はいはい……」
ワイは目も開けんまま、アラームを止めた。
時刻は朝の六時。七月十一日……火曜日。
身体を起こす前に、昨日の光景が浮かぶ。
調理室。
金属の怪物。
床が割れて、壁が歪んで――
「……夢やないよな」
小さく呟いて、身体を起こす。
「おはよーございまッス……」
横を見ると、カコが布団でだらけとる。
……手にはポテチ。
「それ、完全に朝飯やろ」
「楽なんスよ〜」
「人としてどうなんやそれ……」
「人じゃないッスから」
「はいはい」
いつものやり取り。
やけど、今日は妙に現実感が重い。
ワイはリモコンを手に取り、テレビをつけた。
『――昨日、都内の食品製造会社において発生した原因不明の破損について――』
「……っ」
目が、はっきり覚める。
『現場では床面の陥没や金属設備の損壊が確認されており――』
「……いや、これワイの会社やん」
思わずツッコむ。
カコも画面を覗き込む。
「あちゃー、今回は完全にニュースになっちゃったッスね……」
ワイはそのカコの発言に違和感を覚えた。
「その言い方……、今までも、こういうの地球外生命が絡む事件とかあったんか?」
「そりゃ何回もあったッスよ!
でも、隠してたんス。ウチとかミクが」
「そうやったんか」
「でも今回は隠せなかったんス……」
カコの声が、明確に沈む。
「隠せなかったんスよ!
隠さなかったんじゃなくて……」
「……どういうことや?」
「宇宙人の死体は消したッス。
でも、それ以外に――」
言葉を切る。
「干渉できなかったんス」
「……は?」
「建物の破損も、痕跡も、全部そのままッス。
過去改変の能力が、“弾かれる”んスよ。
……正直、今までで1番、怖かったッス……」
ワイは、黙る。
テレビの音声が続く。
『なお、監視カメラの映像は一部欠損しており――』
「……そこだけは消せとるんやな」
「……そこだけはなんとか頑張ったッス」
「つまり、都合よく“完全には隠させてもらえへん”状態やな」
「……そうらしいッスね」
気味が悪い。
これは失敗やなくて、“制限”や。
「……“ナニカ”の仕業やろな」
「間違いないッスね……」
ワイはテレビを消す。
「……ほな、会社行くか」
◇
会社に着いた瞬間、確信する。
「……そのまんまやな」
昨日の調理室。
床はひび割れたまま。
設備は歪み、壁もえぐれている。
“何も直ってへん”。
「……これは……」
後ろから声。
「カコの能力でも、修復できなかったんですね」
ミクちゃんや。
「おはよ、ミクちゃん」
「おはようございます、課長」
軽く挨拶を交わす。
「ニュース、見ましたか?」
「ああ。しっかり晒されとったな、ワイらの会社」
「はい……本来なら、私たちが隠蔽と修復を行うはずなんですが」
「できへんかったんやろ?」
「……はい」
ミクちゃんは静かに頷く。
「干渉が弾かれているみたいなんです」
ワイは足元のひびを踏む。
「……なるほどな」
昨日の戦闘跡が、そのまま残っとる。
ミクちゃんの表情が曇る。
「これまでは、すべて“処理できていた”んです」
「でも今回は違うんやな?」
「はい……」
ワイは腕を組む。
「つまりは、“隠すな”っていう、“ナニカ”のメッセージなんやないか……?」
ミクちゃんは否定せえへん。
「……ほな、整理するで」
ワイは近くの椅子に座る。
「まずは、昨日のバトルについて、ワイが気づいたこと言わせてもらうで」
「なんでしょう……?」
ミクちゃんも向かいに座る。
「まず前提として――」
指を立てる。
「ミクちゃんの刀だけじゃ、斬れへんかった」
「……それは、事実です」
「そして、カコの魔気だけでも、倒しきれん」
「そうッスね。
致命傷にはなり得ないッス」
「でも、二つ合わせたら――」
一拍置く。
「勝てた」
ミクちゃんもカコもピンと来ていない様子や。
「……で、ここで確認なんやが……」
ワイは二人を見る。
「各惑星に派遣されとる天使と悪魔って、みんな同じ能力なんか?」
「はい。そうですよ。
全ての天使と悪魔が、学校で得る能力です」
ミクちゃんが即答する。
「じゃあ、決まりや……」
ワイは続ける。
「天使と悪魔が協力することで、宇宙人からの脅威に対抗できるように、最初っから神に仕組まれてるんやないか?」
カコが首を傾げる。
「どういうことッスか?」
「簡単や」
ワイは指を折る。
「敵は金属の皮膚や。刀だけじゃ斬れへん」
「はい」
「魔気だけでも致命傷にならん」
「そうッスね」
「でも、“錆びさせてから斬る”なら通る」
静かに言い切る。
「つまり、“協力前提の設計”や」
空気が変わる。
ミクちゃんが、ゆっくり口を開いた。
「……その発想は、ありませんでした……!
天使と悪魔は、本来対立する存在ですから……。
ほら、私とカコも、仲悪いじゃないですか!」
「ハッキリ言ってくれるッスね〜。
まあ、事実なんで別にいいッスけど」
「おいおい、何も今揉めへんでも……」
ワイは肩をすくめる。
「でもな、現実は違うで。
協力せんと勝てへんようにできとる」
カコがぽつりと呟く。
「……なんか、めっちゃ性格悪い設計ッスね」
「せやな。
きっと、仲の悪い者同士でも協力し合えるような、理不尽な存在に脅かされた時のためやと思う。
それが、その惑星が持つ、唯一の対抗手段なんやないか?」
ミクちゃんとカコは、何か心当たりがあるかのように、考え込んでいる。
「課長。もしそれが本当なら――」
「ん?」
「昨日の戦闘での勝利は、“偶然ではない”ですね。
そして、年末に訪れる宇宙検閲官との決戦も――今の私たちなら、勝てる……!」
「まあ、飽くまでもワイの仮説やで?
期待させたなら悪かったな」
「いや、おじさんの仮説は筋が通ってるッス!
とりあえず、ミクと仲良くすれば、この地球を救える可能性が高くなるってことッスね!」
ワイは頷く。
「ほな、仲良くせんとな?
まずはその、机の下で蹴り合っとる脚、直さなアカンで?」
ミクちゃんとカコは苦笑いする。
その瞬間――
ゾワッ。
空気が歪む。
「……来たな」
「……はい」
「……ッスね」
誰もいない空間。
でも、“確実におる”。
「課長、私の手を握ってください。
今から、“ナニカ”が意思を伝えてくるはずです……。
カコも握りなさい。
アンタ、卒業したくせに、翻訳できないんでしょ?」
「その一言が余計なんスよ……」
そして――
ピリッ。
頭の奥に、意味が直接流れ込む。
『地球の天使、悪魔よ。
お前たちの協力による突破は想定済みだ』
ワイは笑う。
「……バレとるんかいな」
『我は次段階移行への準備を開始する。
破滅の未来は、免れない。
過去の繁栄は、消去される』
そして、ノイズが消える。
「……はぁ」
ミクちゃんが肩を落とす。
「もう、普通に喋るようになってきてますね……」
「せやな」
ワイは立ち上がる。
「隠す気、もうないんやろ」
ミクちゃんも立つ。
「完全に“対話フェーズ”です。
しかも、私たちの破滅が前提の……」
「そういうの、対話って言わへんけどな……」
ワイは肩を回す。
「ほな、やること決まったな」
「そッスね……、あんま、気が乗らないッスけど」
「やること……とは?」
ミクちゃんが聞く。
ワイはニヤッと笑った。
「協力前提なんやろ?」
二人を見る。
「ほな、もっとパワー上げるで」
「……どうやって、ですか?
私とザンテツ課長はいい感じですし、刀の切れ味は最高です!
でも、カコの魔気が微妙なんですよねぇ……」
それを聞いたカコは、呆れたような様子や。
「そういうとこッスよ! ミク!」
「せやで〜。
ミクちゃん、優しそ〜な口調とは裏腹に、カコに対してはエグいところ、あるからな……。
まぁつまりは、ミクちゃんとカコは仲良くせぇっちゅうことや」
その時――
ガッ……ガガラッ!
壊れかけの扉を開けて、矢名井さんが入ってきた。
「話は聞こえてましたわよ……!
地球の存亡を懸けた作戦。
この矢名井が全力でプロデュースいたしますわ!」
「なんかこの宇宙人、嫌なところで来るッスね……」
矢名井さんは指を天に掲げ、ポーズを決めている。
「では、次回、“20.キャンプで仲良し大作戦”にてお会いしましょ〜!
また読んでくださいますわよねっ!?」
「メタいねんっ!」
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