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虚飾の歴史に、夢は解けて。――二人の罪人は再演の旅を  作者: はる
【第四章】染まらぬ世界

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第四十二話:変わる街は変わらぬものを抱き

 潮の香り。

 白亜の建物に施された装飾が、雨のように降り注ぐ『美の都ルヴィエラ』。


「なんか、変わった?」


「ルヴィエラは…季節によって、装飾を帰る風習があるんだよ」


 僅かに重みのあるファルの声。


 その声で、握られた手に少しだけ力が入る。


 華やかに彩られていた街は、日の暑さを和らげるような、涼しげな装飾が施されている。


「そう…なんだ……。次も、見たいな」


 小さく呟いたサラの願い。

 それは、街の喧騒に飲まれて、消えた。


 ファルの視線は、サラの口元を捉えている。

 たったの一言も逃すまいと。


「季節なんて…直ぐに巡る。…見られるよ」


 ファルの返事に、サラが少しだけ驚いて、堪えるように口を噤む。

 瞳だけは、しっかりとファルを見ている。


「そうだ。サラには仕返しをしないとな」


 

 ファルが楽しげにサラの手を引き、甘い香りの先にある屋台へ、半ば強引に向かう。

 

「ちょ…ファルっ!」


 少しだけよろめいても、繋いだ手が無理なく支えてくれる。

 

 視線を前に向けたら、以前来た時の、灰色ではない。

 偽りの無い、黒い背中。


 甘い香り中に混じる、微かな匂い。

 サラは、足を早めた。


「もうっ!あぶないってば」


 ファルは、サラを横目に見て笑って見せた。

 

 初めて、本当に笑っている。

 そんな気がした。



 屋台で焼き菓子を買うファルの姿は、何処か不釣り合いな光景。

 サラは、思わず笑みが零れる。


「似合わないね」


「俺が食べるわけじゃないからな」


 ファルは受け取った焼き菓子を、サラの口の前に運ぶ。


「ほら、あーん」


「…え?」


 突拍子もないファルの行動に、サラは焼き菓子を見つめた。


 徐々に笑いが込み上げる。


「ファルっ…仕返しって、それ?」

 

 サラは、笑いながら、差し出された焼き菓子を口にする。 


「ん……やっぱり美味しいね」


 懐かしくはない。

 でも、忘れない味を噛み締めながら歩く。


 サラの視線の先に綺麗な宝石が並ぶ店が見えた。

 つい、視線を奪われる。


「綺麗…」


 胸元で揺れた藍方石を握りしめる。

 冷たい石の感触が手の中に広がる。


「おんなじの、ないね」


 サラは、握っていた手を開き藍方石を見つめた。


 変わらない冷たさ。

 変わらない色。


「私だけしか持ってないみたいだね」


 掌の上、親指だけで軽く撫で、優しく胸元に戻した。

 そして、店から目を反らした。


「もう、いいのか?」


「うん」


 サラは軽く返事をすると、足取りを変えずに歩きだした。


 道は変わらないのに、装飾が変わっているため、別の街にいるような気持ちになる。


 賑わう街。

 彩る花。

 煌めく装飾。


 全てが新鮮に思えた。



 一通り街を回り、サラの足が徐々に重くなっていく。


「サラ、今日はもう――」 


「行こう」


 強く、堪えた声。

 ファルの言葉を遮り、重い足を向ける。


 装飾の中で唯一、真実の姿で鎮座する『灰刻の保管庫』へ。

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