第四十一話:果たされる小さな約束の先へ
小さな雨粒が、サラの頬を撫でる。
涙と見紛うほど綺麗な雫は、ファルの袖に拭われた。
「移動…しよっか」
「大丈夫、なのか?」
「…うん」
サラが、ファルの背に回していた腕を解く。
惜しむように、ゆっくりと解かれた腕は、ファルの衣を掴む。
「ファル…ルヴィエラに……『灰刻の保管庫』に行こう」
真っ直ぐ、ファルの瞳を見据える。
ファルの瞳に淡く浮かぶ、途切れた金の円環。
それが、揺らぐことなくサラを写す。
「ちゃんと知らないと…後悔、するから」
「…わかった。行こう」
立ち上がろうとするファルの衣を、強く引いて、留めてしまう。
少しだけ、うつむいてしまったサラの頭を、そっと大きな手が撫でる。
その指が、少しだけ乱れたサラの髪を解かした。
「私…だめだね」
小さな雨粒に紛れて、ファルの衣に滲んだ涙。
雨粒と競うように、小さな染みができては消えていく。
「…やっぱり……だめだ」
激しく揺れる声。
衣を掴む手が、ファルの手に包まれる。
「だめじゃ…ない。サラは、こんなに…優しいんだから」
ファルの僅かな声の揺れ。
不意にファルの顔を見上げてしまうほどなのに、優しく微笑んでいる。
「ずるいよ……うそつき…」
「おや…ばれちゃいましたか」
「敬語禁止って…約束」
「それも覚えていたか」
ファルが少しだけ笑って見せた。
それを不満気に見つめるサラの涙は、止まっていた。
ファルがサラの頬に残る涙を、指で掬う。
「ほら…忘れてないだろ。だから、大丈夫だ」
「…もう。そんな直ぐに、忘れないよ」
サラが仕方ない顔で笑って見せる。
サラの手が、ファルの手をしっかりと握る。
そして、深く息を吐いた。
「ファル、行こう」
勢い良く立ち上がり、ファルの手を引く。
そのサラの手は、小刻みに震えている。
ファルは、サラの震えを隠すように、強く握り返し立ち上がる。
サラが見上げた顔は、優しく微笑んでいる。
ファルが見下ろした顔は、悲しく微笑んでいる。
「ねぇ、ルヴィエラについたら、さ…。また、街を回りたいな…」
「…思う存分回ろう」
「ありがと…」
二人同時に歩きだす。
雲が流れ雨が止む。
濃灰色の空は、朝日を遮る。
湿った広野には、同じ歩幅の足跡が列を作っていた。




