第三十七話:求める色は視線の先に
濃紺色に染まった大聖堂へ向かう道。
先ほどまでの悲鳴や怒号が嘘のように、更に激しい静けさが支配している。
人々は、動くことすら躊躇い、異色な二人をただ黙って見送っている。
その視線には、優しさなどなかった。
「大聖堂に何かあるの?」
サラが、高くそびえ立つ尖塔を見上げて呟く。
一点の曇りもない白が残る塔。
その建物は、巨大な檻のように見える。
「ただ、祭りたくもない神と…ソフィアだった者たちを、祭っているだけの場所だ」
ファルは、迷いを消すように言い放つ。
その冷淡に発しようとした声は、建物に弾かれ反響する。
「……そんなの、ただの記録だよ。記憶なんかじゃない」
サラは僅かにうつむき、冷たく吐き捨てる。
ファルからは見えない瞳が、かすかに揺らぐ。
「私の思い出は……私のものだよ」
絞り出すような、けれど研ぎ澄まされた言葉に、ファルは足を止めた。
言葉が、出ない。
進んでいくサラの背中が、不意に止まる。
「ファル……私ね、ファルだけの思い出になんて、なりたくないよ」
「……それは」
「だって……二人の思い出になるんだから」
サラは振り返らない。
蒼い瞳に、濃紺色の石畳を写している。
ファルは黙ってサラの横に立ち、大聖堂の白が残る尖塔を見上げる。
サラの手が、何かを探すように袖に絡む。
「…行くか」
少しだけ力を込めたファルの声。
その声に答えるように、サラは袖を強く握る。
「うん…」
二人だけの足音が、静けさを保った街に響く。
その音を、大聖堂の前で止めた。
草花の呼吸が聞こえてきそうな静寂を破り、ファルが大聖堂の扉を開く。
「これって…」
扉の先に広がった見覚えのある庭園が、サラの視線を奪う。
サラの足が、思わず後ろに引かれた。
「つまらない演出だと思うか?」
不意に場を支配した声が、庭園に響き渡る。
隣からではない声。
なのに、酷く聞き慣れた声。
その声に、サラが視線を巡らせた先、ただ一人の男が立っている。
その男は白い衣を纏い、背を向けていた。
だが、酷く見覚えのある背中。
サラが、掴んでいる袖の先を思わず見上げると、ファルと目が合う。
袖を掴んでいる手に、大きな手が重ねられた。
優しく、力強い手。
「サラ…」
隣から呼ばれた名は、暖かい。
同時に、庭園に立つ男は、ゆっくりと二人に向き直る。
その黒い瞳は、サラを見つめ、冷たく微笑みかけた。




