第三十六話:混ざる者、混ざらぬ光
更新が数日空いてしまい申し訳ありませんでした。
「暴れちゃおっか」
満面の笑みで言われた言葉。
それに堪えられない笑いを押し殺し、ファルは口を手で隠した。
「まったく…予想外すぎるだろ」
押さえた口から、楽しげに息が漏れた。
静な街に、二人の楽しげな声が木霊した。
同時に二人を、冷たい視線と声が包む。
まだ、サラは笑っている。
「凄い、目立ってるね」
サラは、楽しげに裾を翻し、ありのままの自分を見せつけるように。
やがて、街の人々の目と声の色が変わり出す。
恐怖の震え。
嫌悪の声。
警戒の視線。
重く、押し潰しつくる大勢の気配。
冷たく、凍るような空気。
それでも、サラは笑顔を浮かべたまま。
そして、静かに目を閉じた。
世界から拒まれていると感じる。
逃げ出したくなる。
「これが…ファルの世界、だったんだね」
「…そうだな」
ファルも、そっと一緒に目を閉じた。
数えきれないほどの街、数えきれないほどの時間、どれだけ同じ言葉を聞いたのか。
もう、慣れてしまった言葉。
でも今は、ほんの僅かに変わった世界に浸る。
「もう、一人は、おしまいだよ?」
「ああ。約束しよう」
「うん、約束」
静かに交わされる、二人の約束。
一方的な誓いではない、確かなもの。
ファルの手が空を撫でる。
楽器をの弦を弾くように空を弾いた瞬間、白い石畳が色を変えていく。
サラを中心に、残酷な蒼が。
ファルを中心に、優しい黒が。
それはすぐに交じり合い、白亜の街に濃紺色の道を作り出した。
教会の大聖堂へと向かう道が、慈悲もなく染まっていく。
その色を染め直すように、教会の白い鎧と法衣が押し寄せ、二人を囲む。
サラが目を開け、教会の騎士と魔術師を見据え、静かに首飾りを撫でている。
その表情から、何かが、ゆっくりと、抜け落ちていく。
手からは、蒼い蝶が飛び立つように、柔らかく、容赦のない光が漏れだした。
「…邪魔、しないで」
優しく、でも冷たく放たれた言葉。
それと同時に、無数の蝶が爆ぜる。
触れた者は肉を焼かれ、触れた物を黒く染め上げた。
見境のない蹂躙で、周囲には悲鳴と怒号が満ちる。
それでも止まらない蒼い蝶による蹂躙。
止めようと動き出す教会の騎士や魔術師は、次々と肉を焼かれていく。
奏でられた悲鳴と怒号を指揮するかのように、ファルが指で空を撫でていく。
向けられた刃は、サラに届く前に形を失う。
金属は赤く錆び、木や革は風化していく。
魔術による赤い閃光も、大気を裂く黄色い刃も解け、光の粒が街を照らす。
蹂躙が終わると、沈黙に変わる。
「退いて」
沈黙を破り、サラから放たれた無機質な言の葉。
ファルですら驚きを隠せない冷たさに、人々は後退り、道が開く。
「サラ?大丈夫か?」
ファルの言葉に不思議そうな顔で振り返る。
「ごめん、何か変だった?」
小首を傾げたサラの瞳には、先ほどまでの無機質さはない。
そこにあるのは、いつもの、少女の顔のはずだった。
なのに、サラの蒼い瞳には、小さな光がある。
そして、その回りには無慈悲な街路が口をあけている。
「……いや。少し、驚いただけだ」
ファルは、自分の指先に残る傷の感覚を確かめ、それからサラを見つめた。
サラが見たファルは、一瞬だけ酷く辛そうな顔をしてから、いつもの優しい表情に戻る。
「ファル?」
「…なんでもない。気にしなくていい」
サラは、少しだけ心配そうに、ファルの顔を覗き込むが、いつものファルがいるだけだった。
「サラ…随分派手に暴れたな」
「やりすぎた…かな」
ファル軽く首を横に振り、サラを肯定してみせる。
「少し、すっきりした」
ファルは、嘘をついた。
自分にも。
サラにも。
今はまだ、認めたくないと言うように、笑って見せた。
サラの蒼い瞳に、浮かぶ金の欠片を見つめながらーー
遂に、この回を書きました。先延ばしにするかまよったのですが…。
是非、サラとファルの行く末を見守って頂ければ幸いです。
第四章、引き続きよろしくお願い致します。




