ケンタッキーはなぜ日本のクリスマスを支配したか 第5話:CMと、刷り込まれた原風景
作者のかつをです。
第三十七章の第5話をお届けします。
音楽と映像の力は偉大です。
「すてきなホリデイ」を聴くだけで、口の中にチキンの味が蘇ってくる人も多いのではないでしょうか。
これこそが、ブランディングの究極の形ですね。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
「クーリスマスが今年もやーってくるー」
12月に入り、テレビからこのメロディが流れてくると、誰もが条件反射のように「ああ、そろそろケンタッキーを予約しなきゃ」と思う。
竹内まりやが歌う「すてきなホリデイ」。
この楽曲とKFCのCMの組み合わせは、日本のクリスマスの原風景として、人々の記憶に深く刷り込まれている。
1990年代後半から始まったこのCM戦略は、決定打となった。
映像に映し出されるのは、雪の降る夜、家路を急ぐ父親。
手には大きな赤いバーレル。
家で待つ子供たちと母親の笑顔。
そして、温かい部屋でチキンを囲む幸せな家族の団らん。
それは、誰もが憧れる「理想のクリスマス」の映像化だった。
「クリスマス=家族と過ごす幸せな時間=ケンタッキー」
この三位一体のイメージが、CMを通じて繰り返し、繰り返し発信された。
特に、バブル崩壊後の不安定な時代において、「家族の絆」という普遍的なテーマは人々の心に強く響いた。
高級レストランで過ごす恋人たちのクリスマスもいいけれど、やっぱり家で家族とチキンを食べるのが一番落ち着く。
そんな「ホームクリスマス」の価値観を、KFCは育て上げたのだ。
子供の頃にこのCMを見て育った世代が親になり、今度は自分の子供たちにバーレルを買って帰る。
「パパも子供の頃、これを食べるのが楽しみだったんだよ」
そうやって、習慣は世代を超えて受け継がれていく。
単なる食品メーカーのキャンペーンが、一国の文化や風習の一部になってしまう。
これは、マーケティングの歴史においても稀有な成功例と言えるだろう。
大河原毅が撒いた種は、半世紀近い時を経て、誰もが疑わない「日本の伝統」という大樹に育っていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
ちなみに、竹内まりやさんの「すてきなホリデイ」は、実はKFCのCMのために書き下ろされた曲なのだそうです。まさに、クリスマスのために生まれた名曲ですね。
さて、物語はいよいよ最終話。
現代のクリスマスにおいて、KFCはどんな存在になっているのでしょうか。
次回、「国民的習慣が生まれた日(終)」。
第三十七章、感動の最終話です。
物語は佳境です。ぜひ最後までお付き合いください。




