261.
「さぁて、そんじゃあ兵糧団子でもこさえるかね」
滝の呟きに頷く燐と、一緒に作りたいと言うお浜の3人は雑穀を持ち寄り滝の家に集まった。
「あーあ。さっき帰ってきたばかりなのにすぐ普請に行っちまった」
お浜が小さく息を吐きながら蒸した雑穀米を手慣れた様子で棒で潰しながら愚痴る。
「今日も帰って来るって言ってたじゃあないさ」
お浜の拗ねた口調に苦笑しながら滝が返すと、お浜はそうだけどさと言葉を濁す。
「まぁでも、アタシだって旦那が帰ってきたら安心するからねぇ」
「だろ?滝さんだって心細いんだからさ。どうやら負け戦だって言うじゃないか。何で負けるって分かってんのに普請なんざすんのかね」
不満をぶつける様に雑穀米を潰すお浜。
滝は途中で「半搗きだよ」と言いながらお浜の手を止めさせる。
手を水で濡らすと卵程の大きさに纏め、燐が並べている竹簀の上に置いた。
「男にゃ男の考えってのがあんだろ?さ、作っちまおう」
滝の言葉にお浜と燐も加わり、掌で握る様に纏めて次々と竹簀の上に置く。
「ちゃんと飯食わせて寝せてって思ったらさぁ」
お浜は再び夫たちの境遇を嘆くように呟く。確かに戻って来て直ぐ出かけたもんなと燐も眉を下げた。
「全然休めなくて、」
戦国時代にもブラック企業がとつい出そうになった言葉を燐は飲み込む。
途中で口を噤む燐の様子にお浜は大きく頷いた。
「そうなんだよ、寝る暇もねぇだろ?」
「疲れてんだ、寝かせてやんなよ」
滝の言葉にお浜は、同意を求めるように燐を見た。
「けどさぁ帰ってきたらもう、ずっと離れたくなくなっちまって…手ぇ握ってさぁ、ねぇお燐さん家もだろ?」
「あはは…」
いちゃ付くのに忙しくてって事ですねと分かった燐は、どの回答が正解なのか分からずに、笑いを混ぜた軽い返事でごまかす。
「ほらほら、アンタたち熱いうちじゃなくっちゃ丸まらねぇんだよ?」
「そうだった、団子にならなくなっちまう」
滝の言葉にお浜は座り直すと、せっせと団子作りを再開する。
「こねる力加減、意外と難しいねぇ…お燐さん、初めて作るって言ってたけど、上手いもんだねぇ」
少し冷えて纏まりにくくなって来たのか、お浜は顔を顰めつつ燐の手元を感心したように覗き込む。
「そうですか?…あ、教えてもらって」
燐は以前、佐助が作っていたことを無意識に思い出し真似ていたのだと思うと頬を染めつつ答えた。
燐の表情の変化に滝は微笑む。
「お燐んとこのは随分とお燐んに惚れてるからねぇ」
「そういや手先が器用じゃないと出来ない仕事だもんねぇ…飯こさえてくれんだぁ良いねぇ」
「お浜ん所だって、優しい亭主だろ?」
滝が笑いながら言うと、お浜は再び団子を丸める手を止める。
「そりゃあね。ああ早く帰って来ねぇかなぁ。ねぇ、お燐さん」
「え?あ、そうですね…うん」
慌てて返した声がわずかに上ずり、燐は自覚して頬が熱くなる。
燐の様子にお浜がにんまりと目尻を下げた。
「旦那が独り立ちして所帯持ったばっかりだってきいてたがさ。お燐さんの顔、真っ赤だよ?」
お浜は団子を転がす手を止め、あきれ半分、面白半分の目で燐を覗き込んだ。
「ぅ゛…いや、なんかだって、恥ずかしいですよね」
否定しようとした舌がうまく回らず、燐は手元へ視線を落とす。 掌の中の雑穀がやけに熱い。
そして熱いのは自分だと気付くと、余計に顔が火照った。
「随分と初心だねぇ」
「ほっときなよお浜。誰だってあるもんさ、こういうのは」
お浜の呆れた声に滝は穏やかに笑い、あえて深くは踏み込まず真っ赤な顔の燐を見る。
「ほらお燐、そんなに力込めたら割れちまうよ?」
「え?あっ…うわぁ。これどうしましょう」
胸のざわつきを押し込めるように無意識に団子を強めに握っていた燐は慌てて手を緩めた。
「食っちまったら良いよ。さ、日が出てるうちに干しちまおうかね」
滝は情けない顔で自分を見る燐に笑みを向けると、自分も半端に残った雑穀を握って口に放り込んだ。
「ん!結構旨いね」
「だろ?さ、外に干すよ」
残った雑穀を口に入れたお浜の言葉に燐と滝も頷き、丸めた団子が並んだ竹簀持って立ち上がる。
「ひゃぁっ寒いねぇ」
お浜が背を丸め呟く。同じく背を丸めた燐は風の冷たさを感じつつ、竹簀の上の団子が風で落ちないように調整した。
「寒いし代わるよ?」
「あ、もう少しで終わるので」
再び竹簀を外へ運んできたお浜に、燐は菜箸で団子を並べ直しながら 緩く首を振った。
「まさか戦国時代で恋バナするとは思わなかったなぁ。けど新婚さんならするのかな」
女子が集まればあるあるなのだろうか。燐は会話を思い出し再び熱の集まる頬に顔を顰める。
「毎日一緒に居たら意識しちゃうってやつか。自分チョロいな、気をつけよう」
並べ終えた燐はグッと背を伸ばした。
「お疲れさん。夕餉の準備まだなら食ってかねぇかってお滝さんが」
お浜が入口から体半分覗かせて燐を見る。頷いた燐は端の戸から出てくるよねを見付け会釈した。
「あれまぁ…随分とこさえたねぇ」
よねの声に顔を覗かせた滝がよねを誘い、皆での夕飯になった。




