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ぬばたまの夢 闇夜の忍~暫く全力のごっこ遊びかよって勘違いからはじまった異世界暮らしは、思ってたのと大分違う。(もふもふを除く)~  作者:


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259.

何が足りないか等を話し合い夕暮れの日差しと共に長屋の入り口に戻った燐達はそこでそれぞれ家路につく。


「明日は干し団子こさえるんだけど一緒にやるかい?」


「お願いします」


「そんじゃ明日また声掛けるよ」


滝は自宅の戸を開け軽く手を上げる。燐も同じく家に入った。


「急な現実感」


1人になった燐は上がり框に腰を下ろすとぼんやりと入口の戸を見ながら今までも戦だと聞いてはいたがと溜息を洩らした。


「ほんとに戦、するんだ」


今日みたいに村の者たちが“備え”を始める姿を見たのは初めてで、頭では分かっていたはずの「戦」が急に形を持って胸に迫って来る。


「なんか戦って、ワーッ!って叫んで馬乗ってってイメージなんだけど」


これから始まる“殺し合い”という言葉だけが先に立つ。自分が知っているのは作られた映像だけで実際は分からない。


「…良く分かんないけど、やっぱ時代劇とか大河みたいなら、人死ぬんだよね」


だが今自分は確実に、その只中に居るのだと思うと恐怖に燐の眉が下がる。


「家に1人なんだなぁ…」


源次郎の屋敷でも部屋に一人はあったが廊下のどこかで誰かが動いている気配は常にあった。

だが今は木戸越しに外気の冷たさだけがじんわり足裏から伝わる。


「気になっちゃったら、切り替えって難しいな」


もしこの静けさの向こうに“戦”が近づいていたら……そんな考えが脳裏をよぎると胸の奥がざわつく。


「今日は静かだな」


いつもは話し声や煮炊きの音が聞こえる長屋。

だが滝の夫も留守で隣室も静まり返り、今日は夜気に自分の立てる僅かな物音だけが浮いて聞こえる。


「…」


鍋をかき回す手がまた止まる。燐はつっかえ棒を確かめ入口まで行きまた戻り、不安からもう一度確かめる。


「また蹴られたら、外れるよね?これ」


佐助が連れて行かれた混乱を思い出した燐は、ほんの些細な物音にさえビクつきながら、何もしないよりはと水瓶をズリズリ押し戸の前に置いた。


「刃物持ってる人が普通に歩いてるのに、家の防犯対策ザル過ぎない?」


声に出すと余計に不安が膨らむ。戦を知らない自分の想像だけが肥大する。

夜の重さがじわりと足裏から伝わると燐はその場で立ったまま急いで食事を済ませた。


「足湯でも結構温まるな」


桶に張った熱めのお湯に両足を浸け、息を吐きながら肩の力を抜く。

足が温まる間に絞ったタオルで首筋や背中を手早く拭き、汗や埃を落とし着替えた。


風で戸がカタッと揺れると心臓が跳ね、タオルを持つ手が止まる。


「ヒッ…って風だよね。…だよね?」


急いで歯を磨いた燐は、足を拭いて桶を脇に寄せ、何度も恐怖に身を強ばらせながら逃げ込むように奥の間の布団に潜った。


「山行ったりしてつかれてる筈なのに…おかしいな」


何時もならすぐ眠れる筈なのに。

燐は顔を顰めつつ、布団の中で縮こまり何度も寝返りを打つ。


「怖いと思うから怖いって、もう思っちゃってるから今更怖くないとか思い込めない」


耳が冴えて小さな軋みでも心臓が跳ねる。

燐は慌てて布団を頭まで被ると落ち着かせるよう静かに深呼吸を繰り返した。


「大丈夫大丈夫。隣に滝さんもいるし」


燐は小さく呟く。闇が濃くなるほど不安は増し何かが近づいてくるような気配に燐は布団の中で体を丸める。


怖い。


何が怖いのか。未知の恐怖に燐はギュッと両目を瞑った。

戸の外の闇が、いつにも増して深く感じられる。息を潜めるほど家の静けさが耳にまとわりついた。


「へーき?」


突然響く声に、燐の身体が跳ねあがり息が止まる。


「っ」


いつもなら気配無く現れるなと文句を言う燐は息を呑み押し黙っている。

佐助は布団の上から燐にそっと触れると、様子を伺う様に布団の端を持ち上げる。


「燐ちゃん?」


自分を呼ぶ声に、張りつめていた恐怖がふっと緩んだ。

いつもなら反射的に怒るところだが、今日は怒りより先に安堵が胸に広がり、気付けばその名を確かめるように呟く。


「さ、すけ…さん?」


隣の家からは何の音も聞こえない。佐助は五郎と一緒に帰って来る筈。

燐はそう思うも聞き慣れた口調を確認するように暗がりに問い掛けた。


「そーだけど。てかさ?こんな夜中に俺以外に誰か来る予定でもあったの?」


不安に震える燐の声に佐助はヘラリと笑みを浮かべ軽く返した。近くで聞こえるいつもの口調に燐の緊張が一気に緩む。


「そんな予定、無いけど…五郎さんは?」


燐は顔だけ布団から出し、暗がりに居るであろう佐助を探す。


「ん?あっちにゃ分身置いてきた。寒いだろ?」


「…佐助さんはあったかいね」


「まぁね」


すると佐助は布団の中に身を滑らせ燐を緩く抱える。

佐助の体温に燐は安堵がじんわりと広がっていくのがわかった。


「風呂、行く?」


「ん…大丈夫」


燐の肩の力が抜け、さっきまで張り詰めていた恐怖が薄れていく。

小さく欠伸を漏らす燐に佐助は小さく笑んだ。


「おかえり」


「ただいま」


何時もの燐の声音に戻ったと佐助は安堵し答えた。


「ご飯、食べる?」


「んー腹減ってねぇし、あったかいまんま寝ちゃいなよ」


「ん…ありがと」


燐はうとうとと微睡みながら答えると、静かに両目を閉じた。

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